ゲストを初めて呼んでの鼓童十二月特別公演「山踏み」。
自身が鼓童で体得したもの、この共演に対する心境とは。
太鼓を中心に音楽芸能を追求する「鼓童」。この新作の舞台は、韓国太鼓(チャンゴ)演奏家のチェ・ジェチョル(崔在哲)氏をゲストに迎えての共演作となります。チェ氏が提唱する「歩みの中から生まれてくるリズム」を共に追求した意欲作です。
鼓童の研修所に入られてから10年ですね。きっかけは?
保育園の授業がきっかけで3歳から太鼓を始めて以来、やるもやめるも言わずして流れで続けていました。それが中学生のときに鼓童の舞台を観て、”太鼓ってこんなにかっこいいんだな”と、どうせならここに身を置いて太鼓を続けたいなと思ったのがきっかけです。
研修所での生活はどのようなものでしたか?
まず、携帯電話とテレビ、飲酒、喫煙、所内での恋愛が禁止事項でした。朝5時に起きてランニングから始まり、食事以外はずっと稽古や勉強が続くような一日です。太鼓や芸能の元の部分というのは稲作や畑作業などの労働歌や五穀豊穣を祈願した舞などから生まれたこともあり、実際に農作業を体験してその体の使い方を体得するような経験もしました。例えば岩手の北上に鬼剣舞(おにけんばい)という芸能があるのですが、この舞の足の運びは、田んぼから足を抜くときにつま先を最後に抜くという動きが振りに取り入れられています。この芸能がどのように生まれたか、この動きがなぜ生まれたかということを知識と実技の両方から身につけることができました、そして芸能を学ぶことももちろんですが、まずは人々の生活を知ること、その生活ができるようになることを前提に、複合的に学ぶ期間だったと思います。
規則もあって厳しい部分もあったと思いますが、何にも邪魔されずひとつのことに打ち込める貴重な時間でもありましたね。
そうですね。でもそのことに気づけるまでは、すごく大変でした笑。便利なものが身の回りにない状態だったんですが、それを無駄として省いたときに、自分は太鼓とそれにまつわることしか考えなくていいんだなということに気づけたんです。研修所での2年間というのは、まさしく吸収する時間だと私達は捉えています。その時間があったからこそ、例えば公演で全国各地にお邪魔した時に、その土地の空気感や人々の様子を自分なりに感じ取ることもできます。今回は刈谷市にお邪魔しますが、刈谷の風景を見た時にここに住むこういう方々に向けてどんな演奏をしようとか、そんなことも感じられるようになったんじゃないかなと思います。
今回の鼓童十二月特別公演「山踏み」は、韓国太鼓(チャンゴ)演奏家のチェ・ジェチョル(崔在哲)さんとの共演です。
チャンゴが奏でる音楽が持っている独特なリズムと私たちの太鼓が持つ「間」がどう交わっていくか楽しみです。太鼓の作りはもちろん、バチの形状の違いからか、チャンゴは日本の太鼓ほど大きな音が出ません。そこはお互いの楽器の特徴を理解し認め合う必要があると思います。私達の演奏が少し音量を下げることでチャンゴの音色が聞こえてくるとか、そんな受け入れ方ができればいいかと思います。普段私は笛を担当しているので、私が笛を吹くときは太鼓が音量を下げてくれる。今回はそこにチャンゴが加わって、お互いどんなやりとりが生まれるか、そんなコミュニケーションも楽しみです。
日韓の関係にも同じことが体現できるといいですね。
鼓童の活動理念に「相互理解し合う」という言葉があります。それを私たちは自分たちの音楽で表現することで、皆さんに伝わればいいなと思っています。
チェさんの活動に「チャンゴ・ウォーク」というものがあります。歩くことでチャンゴとは何かを追求するということです。また、歩くことから生まれるリズムというものも提唱されていますね。
普段の私達の演奏は動きや移動がそれほど多くはありませんが、実は今回の演奏メンバーは作品作りのために「タイコウォーク」として、楽器を演奏しながら佐渡島を一周しているんです。佐渡の自然を感じながらチェさんの言う「歩みの中から生まれるリズム」を探ろうという試みです。
どんな公演になるのかとても楽しみですね。木村さんは現在笛を担当されていますが、これはどのようなきっかけでしたか?
私も太鼓を叩いていたのですが、手を怪我してしまい笛に転向しました。太鼓をもちろん叩きたかったですけど、鼓童にいるためなら私は笛を突き詰めようと考えるようになりました。今はとても充実した気持ちで演奏しています。太鼓を叩きたくて入った鼓童ですが、今はそれよりも鼓童の集団性や作り出す音楽に惹かれているんだと感じています。
笛の魅力をどんなところに感じていますか?
どの西洋楽器にもない音の魅力だと思います。音の特性はフルートとすごく似ているのですが、雑味があるんです。ヨーロッパの家屋は石造りだから、音に雑味がない方が聞き取りやすいんですけど、日本の木造建築の場合は雑味がないとどんどん音が吸収されてしまうらしいんです。結果、小さい音しか聞こえないんですが、それが計算されている楽器なんです。あと、構造がシンプルなので吹き手によって音色や音の出し方が変幻自在なんです。ある意味この「完成されていない楽器」というのが僕の中で魅力的な要素なのかなと思います。
◎Interview&Text/福村明弘
12/6 FRIDAY
鼓童十二月特別公演 山踏み
【チケット発売中】
◼️会場/刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
◼️開演/19:00
◼️料金(税込)/一般¥7,000 U25¥3,500
◼️お問合せ/中京テレビクリエイション TEL.052-588-4477(平日 11:00〜17:00)
※未就学児入場不可
松任谷正隆と共同演出するコンサートはまたまた驚きの予感……
20周年アニバーサリーツアーを松任谷正隆との共同演出で成功させた平原綾香が
昨年に続き、再び松任谷とタッグを組んでコンサートツアーを開催。
ストリングスを交えた編成で、愛知県芸術劇場コンサートホールに降臨する。
曲目をはじめ、松任谷の提案に驚いたり喜んだりしながら準備を進める平原が
制作の舞台裏や共同演出による新たな境地を語ってくれた。
共同演出の手応えはいかがでしたか。
プロデュースを自分からお願いしたのは、この20年で初めてのことでした。正隆さんにお願いして本当に良かったです。人生が変わるような演出をしていただきました。私は時々、自分のこだわり過ぎるところが嫌で。作品のためにとことんこだわるから、もっと肩の力を抜きたいのに。でも正隆さんはその2倍上を行くほどこだわってくれるので、それがうれしくて。また、私には出せないようなアイデアがありますね。去年で言うと「1曲目はアーヤのお父さん(※平原まこと)の十八番だった『ジョージア・オン・マイ・マインド』を吹いてくれないかな」と。私だったら絶対怖くて選べない曲です。やっぱり父と言えど師匠でもあるし、父の死がまだまだ受け止め切れず、サックスを聞くことも吹くこともできなかった時期。言われなかったら今でも吹いていないと思います。でも悲しさを出していいんだよと言われた気がして、思い切って吹いた。公演の度に父のことを思い出しましたね。それがWOWOWプラスで放送された時、正隆さんから「平原まことを偲ぶ」と英語で添えたことを告げられ、このツアーは父を偲ぶもの、そして父を亡くした悲しみと向き合うためのものであったんだと気づいたんです。しかも決して暗いわけではなく、見た人が自分の歴史を思い返すような演出だったので、来年もぜひお願いしたいなぁと思っていました。そうしたら12月、新潟県の苗場でユーミンさんがやっているコンサートに誘っていただいて。その場で正隆さんから「次はどうするの? また一緒にやろうよ~」と聞かれ、私も「今、言いましたね!」と返し、その波に乗りました(笑)。
以心伝心!
徹底的にこだわるところ、それが良いこだわりであるところ、正隆さんは生まれながらのプロデューサーだと感じます。おかげで20年歌い続ける「Jupiter」もコアファンを唸らせる新しい響きとして聞いてもらえました。昨日初めて曲目の第一稿が出たんですけど、ありえないような選曲でびっくりして。また初めて言いますが、ユーミンさんが1曲、作詞してくださいます。カバーさせてもらったことはあるんですけど、マネージャーさんや正隆さんは「自分からやりたいっていうのは珍しいよね」と言っていて、恐れ多いというか考えもしなかったことが起きています。デビュー当時、愛知万博でユーミンさんを中心とするイベントに参加した時も本当に勉強させてもらいました。思えば、私の人生の節目節目にはユーミンさんや正隆さんがいる。松任谷家の愛に触れながら音楽をできることがとても幸せです
内容はどう決めましたか。
正隆さんは明確なビジョンができる前の時間も楽しむ人で、とにかく話し合う。そのうちに〈光と影〉〈平和と戦争〉……、そういったものが見えてくると。あと一つ、子どもってキーワードも浮かぶと言っています。他に「おじいちゃんがジャストランペッターだったので、平原家のルーツはジャズなんです」という話もしました。クラシックの作曲家ホルストの「木星」のカバーでデビューし、ポップスをはじめ様々な曲を歌う事が好きな私をみて、正隆さんは「Swinging Classicsってツアータイトルはどうかな?」と。今回はストリングスが入るクラシカルな編成でやりたいというところから動いていて、あえてクラシックホールを押さえていますが、正隆さんは今とても困っています。クラシックホールはスモークがたけないとか、照明が限られるとか、ホールによって背後にお客様がいるとか、それらを含め舞台装置を考えなきゃいけないので「胃が痛い」と。私が「響くホール、好き!」と言えば、正隆さんは「響くホール、嫌い!」と言う。ポップスとクラシカルな響きの矛盾を融合させようとして、彼は一生懸命もがいています(笑)。
驚いたことは?
昔の曲が増えていますね。「ここにこんな曲を入れたいけど、ある?」と聞かれて選ぶので、楽曲ありきというより心情に合わせた映画みたいな作りなのかな。この1シーンに合う曲みたいな感じで進めています。そんな中「いいものを聞いてもらうことでファンがまた増えるんだよ」と言われて……。みんなが聞きたい曲を聞いてもらうんじゃなく、いいものを聞いてもらうという考えには改めて納得できました。衣装も「えっ!?」っと驚くものなので期待と不安でいっぱいですが、すべては〈時代〉を象徴する表現になっています。打合せは本当に細かい!正隆さんは頭から爪先までプロデュースしてくれます。
最後に言い残したことがあれば……。
名古屋に来ると大概、大好きなひつまぶしや味噌煮込みうどんを選ぶので、たまには違うものを食べたい!小山薫堂さんや食べログのフォロワー数No.1の川井潤さんに美味しいものを聞いたら30個くらい届いて、こんなにオススメがあるんだと。だから他も試してみたいです。昨日もひつまぶしでしたが、最近は肝焼きにハマってます。以上です(笑)。
◎Interview&Text/小島祐未子
11/10 SUNDAY
平原綾香 Concert Tour 2024 - 2025
~ The Swinging Classics! ~
【チケット発売中】
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/17:00
■料金(税込)/全席指定 ¥8,000
■お問合せ/サンデーフォークプロモーション TEL 052-320-9100(12:00~18:00)
※未就学児入場不可
映画「フィリピンパブ嬢の社会学」が舞台版となって名古屋単独公演!
愛知・春日井市でのロケ、愛知先行公開でも反響を呼んだ映画「フィリピンパブ嬢の社会学」が演劇化。
「マハルコ組曲」と題された舞台版は、映画から時をさかのぼる“エピソード0”の物語だ。
愛知発の作品ということで、名古屋のみでの公演というのも異例中の異例。
当地に来たフィリピン人と日本人の間には、どんな生き方や歴史があったのか。
原作となった書籍の著者であり、舞台版でも原作・原案を手がける中島弘象、
劇団「野生児童」の主宰・俳優で、今回の脚本・演出を手がける有田あん、
主演を務めるステファニー・アリアンが、新たに生まれるドラマへの想いを語った。
製作の経緯をお聞かせください。
中島:原作は2017年出版ですが、映画化されたことでやっぱりフィリピンの方がたくさん見てくださったんですね。この作品は本当に僕の実体験で、フィリピンパブで出会った女性と交際して結婚するという話なんですけど、見てくださった他のフィリピンの方々から自分たちはこうだったとか、いろいろな声を聞きました。それでプロデューサーの三谷一夫さんと「エピソード0みたいなものを作ったらいいんじゃいないか」という話に。フィリピンパブは80年代頃から行き始めた方が多いので、その人たちの話を無視できないというか。その人たちがいるから僕と妻が結婚できているので、そういった人たちのストーリーを描きたいなという想いがありました。日本に出稼ぎに来て、恋愛して結婚して、子どもを産んで子どもを育てていく中、日本人の妻となり母となり、孫ができた方もいるかもしれない。そういった人たちに取材したり、生活の中で見聞きしたことをベースに原案を書きました。
有田さんはどんな流れで作・演出に?
有田:最初は三谷さんとのつながりで何も考えずに「フィリピンパブ嬢の社会学」を見に行って、フィリピンの方とかフィリピンパブの雰囲気って舞台でやったらどうなるんやろうなと、見た時からやんわり思っていました。その後、今年の5、6月くらいに三谷さんから「舞台化しようと思うねん」と聞いて「いいと思ってました」と言ったら、「演出どう?」みたいな流れになって「私で良ければ」と。中島さんの原案を拝見して、私自身が台湾と日本のハーフなので、自分の体験と通ずるところもありました。それで自分が演出するなら自分で書いたほうが効率的なところもありますし、血筋のこともあって原案に自分との共通点も感じたので、脚本も担当させていただくことになったんです。
舞台版の軸はどういったところになりますか。
有田:「フィリピンパブ嬢の社会学」と大きく違うのが、子どもがいて成長して、高校生くらいになって思春期を迎え、自分がハーフというアイデンティティをしっかり認識する点なんですね。そこで、あらためてお母さんと向き合うのが映画と大きく違う。子どもという新しい存在を入れたところで、どういう家族であるのかを見つめ直し、受け入れていくのが終着点というか……。そういう方向でストーリーが進んでいる気はします。
ステファニーさんは台本にどんな印象を持ちましたか。
ステファニー:台本を読んで、中島さん、有田さんに対してありがたく思いました。光栄な物語です。「フィリピンパブ嬢の社会学」はどこにもないオリジナルストーリー。フィリピンにもこういった映画や本はありません。舞台版も同じで、オリジナルな物語になっています。私はフィリピンで生まれたハーフですが、私より下の世代はちょっと考えが違うかもしれない。最近の人はフィリピンと日本のハーフであることをあまり言いません。少し恥ずかしいと思っているからなんですが、それを変えたいなと。私はフィリピンと日本のハーフであることに誇りを持っています。フィリピンでは、フィリピンとどこかの国とのハーフであっても特別視されない。でも日本に引っ越して、日本におけるフィリピンと日本とのハーフに対するイメージには驚きました。日本では下に見られているように感じるんですよね。また日本人はハーフも外国人だと見るむきが強いので、子どもの時どちらのアイデンティティなのか揺らぐ現象も起きます。でもこの舞台を見た後には、考え方が少し変わるんじゃないかと。日本で暮らすフィリピン人やハーフである子どもたちの、良いところも難しい問題も描かれるので、中島さんと有田さんには感謝しています。
正直これはフィリピンの“女性”の話ではないかと……。男女を逆転した場合、結婚などの事例は少なくなりますよね。彼女たちの社会進出や経済的自立の難しさを感じるんです。
ステファニー:でも、それは世界の問題じゃないでしょうか。世界中のどこでも女性は性的な状況に置かれ、それを取るに足らないこととされてしまう。日本に来たときは歌やダンスで身を立てることを考えていても、女性が男性から性的な目で見られることは、今も昔も普遍的で変わらない問題です。例えば女性はホストクラブであっても男性をリスペクトしていますが、男性は女性をお金で所有しようとするし独占しようとする。私は「フィリピンパブ嬢の社会学」「マハルコ組曲」に携われて幸せです。国籍や性別に関係なく、一人の人間同士として向き合うことの大切さが伝わると思います。
なお、有田が監督・脚本・主演を務めた映画「渇愛の果て、」が9月28日(土)~、名駅のシネマスコーレでロードショー。有田は同作でも妊娠や出産という普遍的な問題と果敢に向き合っている。「マハルコ組曲」に先駆けて鑑賞してみてほしい。
◎Interview&Text/小島祐未子
11/28 THURSDAY~12/1 SUNDAY
舞台「マハルコ組曲」
【チケット発売中】
■会場/ささしまスタジオ
■開演/11月28日(木)・29日(金)19:30 30日(土)13:00、18:00
12月1日(日)11:00、16:00
*各回上演20分前よりミニライブあり
*11月30日(土)は各回アフタートークあり
■料金(税込)/<前売>一般・パンフレット付¥5,500 一般¥4,000
<当日>一般¥4,500
■お問合せ/キョウタス:info@kyotas.co.jp
※未就学児入場不可
名作オペラのハイライト&各種アリアを最高の演奏で
角田鋼亮が率いるセントラル愛知交響楽団が可児市文化創造センターalaに登場。林美智子(メゾ・ソプラノ)ら3人の実力派歌手を迎えて人気オペラ《カルメン》をハイライト上演。後半はそれぞれ選んだ名アリアを披露する。
11月にアーラでもハイライト版が上演される《カルメン》は全オペラ作品の中でも断トツの知名度と人気を誇るヒット作ですが、音楽的な魅力は?
【角田】舞台であるスペインは民族色豊かな踊りや親しみやすいメロディの宝庫。ビゼーの音楽の土台になっています。また、オーケストレーションが素晴らしい。自分の師匠である佐藤功太郎先生も晩年は病院のベッドでよくカルメンのスコアを眺めていらっしゃいました。大作曲家のR.シュトラウスも若い作曲家志望の若者に「ビゼーのスコアを勉強しなさい」とアドバイスしていたと証言しています。私も、ビゼーは簡潔で力強く効果的にそして華やかにオーケストラを鳴らせる天才だと思います。もちろんキャッチーなアリアや二重唱など歌も魅力的ですが。
カルメンは難しい役ですか?
【林】もちろん! エキゾチックなロマの女なので、歌うだけでなく舞踊系のテクニックやセンスも必要です。有名なアリア「恋は野の鳥」も独特のリズムを持った舞曲(ハバネラ)なので運動神経も求められます。
今回のハイライト版の構成は角田さんが手がけられるそうですね。
【角田】“おいしい名場面”や聴き所を網羅しつつ、ストーリーや場面転換はナレーションでわかりやすく説明しようと思います。ホセの許嫁のミカエラの登場しないシーンは、オーケストラの演奏で彼女の気持ちを代弁します。
後半はテノールの中井亮一さん、バリトンの近野賢一さんも交えたアリア・コンサート。林さんはドヴォルザークの歌劇《ルサルカ》から第1幕の有名なアリア「月に寄せる歌」を歌われます。
【林】私のリクエストをマエストロがOKしてくださり、感謝です。ドヴォルザークは学生時代から歌曲集《ジプシーの歌》が好きでした。それから二期会で2008年に同じチェコの作曲家であるヤナーチェクの歌劇《マクロプロス家の事(マクロプロス事件)》を上演したときに娘役を演じて以来、ずっとチェコ語で歌うことに惹かれています。ルサルカは本来、落ちついた表情豊かで抒情的な声を持つソプラノ・リリコの役柄ですが、年齢を重ねてメゾ・ソプラノから声の幅がゆっくりと広がってきた今の自分に合っていると思うのです。自分のレパートリーを開拓する意味でも、「月に寄せる歌」は穏やかで、どこか切なさが余韻として残る名曲なので、この機会にぜひ挑戦したいと思いました。
【角田】気高いカルメンとはまた違う、聴き手を温かく包みこむような林さんの歌唱が楽しみです。また、これまで何度か共演した事のある中井さんや近野さんとアーラで再会できるのが嬉しいです。前半でお二人が演じる《カルメン》のホセや闘牛士エスカミーリョにも胸が高鳴ります。可児市の皆さんもどうかご期待ください!
◎Interview&Text/東端哲也
11/16SATURDAY【チケット発売中】
オペラハイライト「カルメン」
ナレーション付き
◎指揮/角田鋼亮 ◎メゾソプラノ/林美智子 ◎テノール/中井亮一 ◎バリトン/近藤賢一
◎管弦楽/セントラル愛知交響楽団
◼️会場/可児市文化創造センターala 主劇場
◼️開演/14:30
◼️料金(税込)/全席指定 ¥6,000 25才以下¥3,000
◼️お問合せ/可児市文化創造センター ala TEL.0574-60-3050
自身の率いるKバレエ25周年の節目に「人魚姫」の世界を舞踊化
熊川哲也K-BALLET TOKYOが創立25周年を記念して壮大なグランドバレエを世界初演。
芸術監督の熊川自身が演出・振付・台本・音楽構成を担う新作「マーメイド」は
アンデルセンの童話「人魚姫」を原作としつつオリジナリティも豊かなステージだ。
世界中で愛され続ける名作だが、バレエでは例のない挑戦だけに、どう実を結んだのか。
熊川が子どもたちへの、未来への想いとともに、創作の裏側を語ってくれた。
「人魚姫」という題材には葛藤もあったそうですね。
葛藤には二つの目線があって、一つは海の中の人魚をバレエでどう表現するのか自分に問いただすハードルのような葛藤。もう一つは自分の作風に対して違和感が……。ファンタジーでは「くるみ割り人形」や「シンデレラ」も作っているけど、それぞれチャイコフスキー、プロコフィエフという偉大な作曲家の音楽があったので入りやすかった。でも「人魚姫」は音楽もない。また子ども向けみたいな“狙っている感”も不本意だったりしました。じゃあ、なぜ意を決したかと言えば、50代というミドルエイジになって今後のバレエ界やバレエダンサーの育成を考えた時、この舞台を観てバレエをやってみたいと思う子が一人でも増えたほうが業界にとっていい。25周年の節目でもあり、いい機会じゃないかなと考えたんです。
未来に向けたアクションでもあると?
去年の4月に一般財団法人の熊川財団が立ち上がり、バレエ芸術家、音楽芸術家を育てていく、世に送り出すという使命がちょうど生まれたところ。それを考えたら意外とすっきり決断できました。
同時に観客数への危惧もありますか。
バーチャルとフェイクが充満しているこの世の中で、リアル体験+崇高な芸術というものが二律背反じゃないけど、隣り合わせが難しい時代にはなっている。22世紀の子どもたちにバトンを渡す今の子どもたちの教育がいかに大事かは当然、危惧しますよ。この先、劇場には人が集まらなくなるかもしれない。ライブ体験は不滅だと思うけど、そこに感性が伴ってくるかどうか……。舞台を観て感動することは、今この空間で、一体感あるリアルな空気が流れていて得られるものだけど、子どもたちが今後それを感じるのは難しいのかなと思うところはあります。僕らが小さい頃は学校でいろんなイベントがあって、みんなで体育館に集まって観ましたよね。暗くなると「ふぅ~!」と声が上がるような、ああいう体験が劇場のマジックじゃないかと。それは確かにあったものだから今は使命感に燃えてます。
原作やディズニー作品を遠ざけていたそうですが、構成はどのように?
伝え聞きを自分のものにして、箇条書きにして、起承転結にもっていく、そういう活動をしてきておりまして……(笑)。でもそこが僕の良いところで、自分の世界が創造できる。原作にないキャラクターもいっぱい出てくるんですよ。物語では王子が航海に出て難破し、溺れてしまう。海で難破するということは嵐が吹き荒れている。その嵐を起こすのは誰か。そこで、サメを出してみたら面白いなと。サメって牙がたくさんあって、いかにも悪そうですよね。あとはクジラを出します。王子は誕生日で、海原に出て伝説のクジラを仕留めてこいと命じられる。ところが、あまりの美しさに呆然としてしまうという……。ハワイから連れてきたクジラですよ。そう聞くと楽しみでしょ?
私たちの想像力も試されそうです。
例えばミュージカルや映画で文明の利器を駆使して何か再現できるのはいいけど、丸っきり同じであれば、そこに想像力はないですよね。やっぱり子どもたちには想像してほしい。人魚姫はトウシューズを履いているけど、泳いでいるように見えるよねと。キュビスムに通じるのかな。見ている以上のものが心で見える。ピカソの絵がそうじゃないですか。「なんでこんな絵を描くんだろう」と思わせることが重要で、答えはいらないんです。子どもたちにたくさん見てもらいたいとは思いますけど、子ども向けには作っていませんよ。
ハッピーエンドの場合もありますが、結末はどう決めましたか。
救われた感動より、救われない感動のほうが人を成長させる気がしますよね。社会って承認されないことのほうが多いから。でも否定されて人は強くなると思う。今はまだ結末はどうにでもできるようにしてある、とだけ言っておきます。
25年の成果と今後の展望をお聞かせください。
熊川財団を設立したので情操教育や芸術教育に力を注ぎたい想いはあります。いい年齢になって、奉仕の感覚があるのかな。70歳、80歳になって最後のご奉仕とか言う方もいるけど、もっと早く始めたほうが良いに越したことはない(苦笑)。ただ僕もこの25年間、教育で業界を底上げしてやるなんて、そんな使命感があったわけではなく、本当に楽しいことを積み重ねてきただけ。思いがけない結果として、プロの感覚を持った子どもたちが増え、日本においては習い事がメインだったバレエの地位が上がり、バレエダンサーのプライドを育めたのかなと。我々の公演規模が世界のオペラハウスにも引けを取っていない自負はありますよ。報酬や環境を含めてプロのダンサーを養い、それをノーマルスタンダードにできたことは、結果的に、業界全体にも影響を与えたと思います。
◎Interview&Text/小島祐未子
9/10 TUESDAY【チケット発売中】
熊川哲也 K-BALLET TOKYO
『マーメイド』世界初演
演出・振付・台本・音楽構成/熊川哲也
原作/ハンス・クリスチャン・アンデルセン
音楽/アレクサンドル・グラズノフ
編曲/横山和也
舞台美術デザイン/二村周作
衣裳デザイン/アンゲリーナ・アトラギッチ
照明デザイン/足立 恒
■会場/愛知県芸術劇場 大ホール
■開演/18:30
■料金(税込)/全席指定 S席¥17,000 A席¥13,000 B席¥9,000 C席¥7,000 Kプラチナシート¥21,000
■お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL 052-241-8118(平日10:00~18:00)
※4歳以下入場不可
等身大で演じる
“ダークヒーロー”
東映ムビ×ステ『邪魚隊/ジャッコタイ』は、ひとつの作品を“ムービー(映画)”と“ステージ(舞台)”で融合させる挑戦的プロジェクトの第6弾。5月公開の映画に続いて、舞台が上演される。舞台は江戸時代に暗躍する“ならず者”集団「邪魚隊」が謎の孤島で危険な任務に挑むストーリーだ。主演を務める佐藤流司が公演への思いを語った。
5月に公開された映画『邪魚隊/ジャッコタイ』の続きの物語が、舞台にて上演されます。
“時代劇×ミュージカル”という試みは、面白い挑戦だなと思います。映画のミュージカルシーンは、撮影時に曲に合わせて踊って、後から歌入れしていました。映像作品をつくるときは芝居と歌とダンスを別々にやるので、気持ちの込め方が難しかったです。その点で、自分の得意分野である舞台では、リアルな魂を歌にのせて120%の力でお客様に届けることができる。正直、マチネとソワレが両方ある日は大変なんですけど(笑)お客様が泣いて笑って、拍手してくれている姿を見ると活力が湧きます。
舞台の見どころをおしえてください。
舞台『邪魚隊/ジャッコタイ』はストーリーがわかりやすく、歌・ダンス・アクションが盛りだくさんのエンターテインメント性の高い作品になりそうです。ミュージカルといってもいいぐらいナンバーが盛り沢山なので、あまり舞台に馴染みのない方やお子様も楽しめると思います。また舞台ならではの演出を凝らしているので、映画をご覧になった方も、「あのシーンを舞台でどうやるんだろう」と期待して見に来ていただけたらと思います。
ならず者集団「邪魚隊」のリーダー・鱗蔵(りんぞう)というキャラクターをどのように演じていますか。
鱗蔵は自分に近いですね。台本を読んだときに自分が感じた感情をそのまま役に投影して演じているので、等身大の佐藤流司の“生きうつし”のようなキャラクターだと思います。鱗蔵はべらんめえ口調で喋る豪快なタイプですが、繊細な一面も持ち合わせている人情派です。せっかく自分に近い役なので、あまり細かい人物設定にこだわらず、鱗蔵をより自然に“人間らしく”演じていきたいです。
ご自身が役に共感するところはどこですか。
鱗蔵にとって一番大切なものは仲間の存在です、仲間たちと共にいることが彼の原動力であり、生きる意味になっている。自分も友達が大好きなので、そういう気持ちに共感します。本公演では座長としてカンパニーを率いています。他の作品で何度も共演しているキャストたちが集まっているので、安心できる仲間たちと一緒に良い舞台をつくれることが嬉しいです。
ダークヒーローという役柄で佐藤さんの魅力が光っています。
最後に必ず勝つから、じつは悪役よりもヒーローの方が好きなんです。「負けず嫌いだね」って言われることもありますが、負けるのが好きな人なんているのかなって思うんですよね……。鱗蔵は死刑囚であり、ならず者で、悪党でありながらヒーローでもあるので、好きな役です。というか、最後に勝つならどっちでもいい(笑)
公演する愛知県の好きなところは?
自分は宮城県の出身ですが、初めてお仕事で訪れたのが名古屋だったことがきっかけで、
勝手に愛知県を「第2の故郷」と呼んでいます。濃い味の料理が好きなので、いつも愛知県に来たら赤味噌を使った“味噌煮込みうどん”は絶対に食べます。
一宮市民会館にいらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
一宮市民会館での公演は初めてなので、とても楽しみにしています。カンパニー一同、最大限の熱量でぶつかっていきますので、ぜひ劇場に足をお運びください。
◎Interview&Text/北島あや
9/4 WEDNESDAY【チケット発売中】
東映ムビ×ステ 舞台『邪魚隊/ジャッコタイ』
■会場/一宮市民会館
■開演/13:00、18:00
■料金(税込み)/全席指定 \9,500 ※未就学児入場不可
■お問い合わせ/一宮市民会館 TEL0586-71-2021(9:00~20:00/休館日 第1・3火曜日)
つかこうへいの名作「初級革命講座飛龍伝」を、その薫陶を受けた者たちがよみがえらせる!
つかこうへいが1973年に発表した「初級革命講座飛龍伝」(以下、飛龍伝)をマキノノゾミが演出する。(今回の上演は1980年版)
80年代から活躍するマキノは受賞歴も華やかなベテランだが、原点にあるのはつか作品。
今回は北区つかこうへい劇団出身の俳優とともに、つか独特の世界をよみがえらせる。
安保闘争で挫折した熊田、機動隊員として彼らと闘った山崎、熊田の娘アイ子。
一筋縄ではいかない登場人物たちは、21世紀に、令和の世に、どう浮かび上がるのか。
間もなく稽古初日を迎えるというマキノに話を聞いた。
北区つかこうへい劇団出身の俳優を起用した理由は?
キャストの一人に木下智恵という俳優がいるんですけど、彼女とは古くからの知り合いで、「飛龍伝」のアイ子役は智恵がいいなと最初に思いつきました。それだったら、つかさんの薫陶を受けたことがある人、つかさんの身体から出た言葉を自分の身体に取り込んだ経験のある人のほうが、形になるのが早いだろうと。複雑なニュアンス含めもっと深いところまで突き詰めようとした時、経験者のほうが時間を有効に使えると考えました。男性二人はオーディションで決めたんですけど、吉田(智則)くんはこのバージョンの「飛龍伝」をやったことがあるんですよ。ただ、その時は熊田の役だった。だけど彼は山崎のほうがいいかなと思って。一方、武田(義晴)くんはユーモラスな空気のある人。熊田は慶応大学のセクト出身で、いわゆる坊ちゃん育ちって設定なんですね。だから武田くんのほうがインテリ役が似合うかなと。その中でアイ子はとても地味な役です。慎ましやかで、でも芯がきちんとある。だから派手さは求めないけど、所作や佇まいの美しさは求められるので、智恵が合うんじゃないかと。芝居は俳優が魅力的に見えてナンボですよね。
有名な作品だけに観客の目も厳しいかと……。
それより楽しみのほうが大きいかな。もう一回見られる、もう一回あの作品と向き合えるのは楽しみだなと。今回あまり派手なことはしないつもりなんですよ。僕が初めて「飛龍伝」を見た時、すごくシンプルだった。舞台は何もない素舞台で、役者も衣装らしい衣装を着ているわけでもなくて。3人の役者の身体、役者の演技だけ、セリフだけで、ある劇的な状況を作られていくことに感動したんです。そういう、つかさんの原点みたいなところをやりたいなと。とりあえず派手ではない(笑)。でもグッとくるものにしたいですね。
マキノさん自身、音楽から演劇に情熱が移るほどの体験だったんですよね。
演劇とも思ってなかったかなあ。「かっこいい、あのセリフを言いたい!」という感じ。できるならば、顔も寄せたかった(笑)。どうやったら平田(満)さんみたいな顔になれるのか、どうやったら風間(杜夫)さんみたいにしゃべれるのかと。学生がビートルズの完コピやるみたいな感覚ですよ。似てりゃあ、みんなで喜ぶ。それを演劇と呼ぶかといえばまた違うけど、若い頃に理由もなくそういうことをやったのは、僕の大きな財産になっていると思います。
つかさんから教わったことで印象深いのは?
よく「お客さんっていうのは飽きるぞ」と言われましたね。1時間10分くらいを過ぎると、いくらいい芝居でも観客は飽きる。ここが勝負で「もう一花二花ありますから」というような気持ちで芝居をやれと。それって身体的な話じゃないですか。また送り出しに時間がかからないよう、終演後の音楽はお客様が芝居の余韻に浸りながら気持ちよく帰っていける、その一点のみ考えて選曲せよとか。ドラマツルギーがどうのこうのじゃない。要は、観客は生身だということを徹底して意識させられたんです。「演出家は客席の固さを考えないといかんぞ」とか、そういう教えはずっと自分の中に残っていますね。俳優の身体とともに観客の身体も考える。それが、いちばん大きな教えだと思います。頭でっかちにならないようにと。
初演から50年経ち、人の身体感覚も変化したと思いますが……。
その点、今の人に合わせようという気はないです。僕がすごいと思ったものを、今でもすごいと思えるように作るだけ。そうすれば時代が変わっても何か伝わるものがあるだろうと。つかさんを知らない世代は、昔のドキュメンタリーを見ている気分になるかもしれない。でも過剰に説明を加えると、受け取り方が楽になってしまう。だから違和感だけ持って帰ってもらえばいいぐらいの気持ちです。若い人が「何これ!? でも、なんか残る」ってなればいいなと。意味としてわかってほしいわけじゃなく、チラシにもあるセリフの一節「モアパッション、モアエモーション」というのか……。芝居がゴロッとそこにあるだけで、そんなに丁寧にする必要はないと思っています。演劇はもっと不親切なほうが「そういうことか」と到達した時の快楽が大きいはずだし、わからないことを延々考え続けることにも意味がある。だから敢えて親切にはしないつもりです。その上で若い人にこそ見てほしいですね。
◎Interview&Text/小島祐未子
5/5 SUNDAY~5/6 HOLIDAY【チケット発売中】
「初級革命講座飛龍伝」
作/つかこうへい
演出/マキノノゾミ
出演/武田義晴、吉田智則、木下智恵
■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/両日共14:00
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般¥3,000 22歳以下¥1,500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL 059-233-1122
※未就学児入場不可
横山幸雄と愛知室内オーケストラが挑む、ベートーヴェン・ピアノ協奏曲ツィクルス
自らがライフワークだと語るベートーヴェンやショパンにおいて、前人未到のプロジェクトを数多く達成しているピアニスト横山幸雄。ベートーヴェン協奏曲ツィクルスを行う愛知室内オーケストラのステージで、指揮者として人気のシンフォニーを指揮する。今回は先日行われた取材会の模様をお届けする。
2023年10月から愛知室内オーケストラの特別演奏会として、横山さんの「ベートーヴェン・ピアノ協奏曲ツィクルス」が始まりました。
私のピアニストとしてのライフワークがベートーヴェン(1770~1827)とショパン(1810~1849)です。二人の作品を通して、人となりはもちろん、二人が生きた時代や使用した楽器などを皆様に知って頂こうと、これまで色々な企画を立案し、開催して来ました。ショパンのピアノ曲を全曲演奏する「入魂のショパン」や、ベートーヴェンのピアノ曲を中心に、色々な作曲家の作品と組み合わせて演奏する「ベートーヴェン・プラス」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲を2日間で連続演奏する企画なども評判となりましたが、今回、私と愛知室内オーケストラが皆様にお届けするのは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲ツィクルスです。ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲は、比較的若い時代の作品。1番と2番は、耳の病に冒される前の作品で、3番以降は病が発症しているものの、まだかろうじて聴覚があった時代の作品だと言われています。3番以降、耳の病が発症し、彼の作風は悲劇的かつドラマチックなモノへと変貌を遂げて行きます。
シリーズ2回目の聴きどころは。
後期のピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲とは違う、比較的元気なベートーヴェンの魅力が味わえます。シリーズ2回目(2024年5月)には、ウェーバーの歌劇「オベロン」序曲や、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」などの、若々しさが感じられる作品と組み合わせてお聴き頂きます。
このツィクルスは二刀流シリーズと銘打っています。協奏曲の弾き振りだけではなく、指揮者として指揮台に立たれるのですね。
ピアノを弾きながら指揮をする機会はこれまでもありましたが、完全にオーケストラと相対し、指揮をする機会はそう有るものではありません。シリーズVol.1でシューベルトの「ロザムンデ」序曲とハイドンの交響曲第104番「ロンドン」を指揮したことはかけがえのない経験でした。シンフォニーを指揮するとオーケストラの事が細部に至るまでわかります。これは今後の音楽活動に生かせる経験です。オーケストラやお客様の評判も上々だと伺っています。ならば、このシリーズでは指揮者 横山幸雄として、思い切った挑戦をさせて頂きます。ご期待ください。
ピアニストから指揮者に転向するケースは、バレンボイム、アシュケナージ、エッシェンバッハなど多く見受けられます。そのようなことを考えておられますか。
指揮台にはオーケストラ側の要望が無ければ立てません。そういう意味で今回のシリーズは貴重な機会で、とても勉強になります。ピアノを弾く機会を削って、指揮者としてやって行く発想は今のところはありません。もちろん先の事はわかりませんが(笑)。
愛知室内オーケストラの印象を教えてください。
若くて元気で、感じの良いオーケストラです。人数的に、これ以上少ないと音が薄く感じるでしょうし、これ以上多いと一体感は損なわれていくと思います。絶妙なアンサンブルの妙をお楽しみいただけると思います。
最後にメッセージをお願いします。
このシリーズを通して、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の魅力をお伝えできればと思っています。ピアノから離れて指揮者として頑張っている横山幸雄にも会いに来てください。愛知県芸術劇場コンサートホールでお待ちしています。
◎Interview&Text/磯島浩彰
5/11 SATURDAY 【チケット発売中】
愛知室内オーケストラ 特別演奏会
横山幸雄×ACOベートーヴェン協奏曲ツィクルスVol.2
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/14:00
■料金(税込)/SS¥8,000 S¥6,000 A¥4,500 B¥3,000
U25各席種半額 小中学生券¥500
■お問合せ/愛知室内オーケストラ TEL.052-211-9895(平日10:00〜17:00 土日祝休)
小曽根真に見出された新たな才能!トランペット奏者・松井秀太郎が名古屋・しらかわホールに登場!
新たな若き才能が登場した。松井秀太郎は国立音大在学中に小曽根真、エリック・ミヤシロ、奥田晶らを師事し、ライブ活動をスタート。卒業後間もなくデビューアルバム「STEPS OF THE BLUE」をリリースした。そして年明け1月からはホールコンサート・ツアーが始まる。目まぐるしく音楽活動が続く彼に、自身の音楽の始まりから音楽観、師である小曽根真らとの関わりまで話を伺った。
音楽を始めたのはご自身から自発的に?
そうですね。小学校のクラブ活動でトランペットを始めたんですけど、そこからもう自分がやりたくて続けました。高校は国立音大附属高校に進学してクラシックを専攻したんですが、それも両親は音楽について全然詳しくないので、自分が説得しました。
音楽をすること自体楽しいなというか、続けていきたいなと思ったような、そういうきっかけは何かありますか。
幼い頃からキーボードを遊んで弾いていて、その流れでピアノを習いに行かせてもらったこともあったんですけど、正しいものを教えられるということが自分に合わなくて、1、2回で辞めてしまいました。そこから自分の好きなように弾くのがやっぱり好きで、ずっと遊んでいるというか、音楽を学ぶというよりは本当に楽しいからやっているという感覚でいました。ジャズのことはあまり知らないのに国立音楽大学に入ってジャズを専修したんですが、それが一番自分の中でしっくりきました。自分にとっては、大学で教授をされている小曽根真さんに出会ったことがジャズをやり始めたスタートです。
松井さんが感じるジャズの魅力はどんなところにありますか?
一番は楽譜がないというところです。ある決まった曲の中で、演奏中にアドリブでメロディーを作るということは今まで経験してこなかったことで、こうしなきゃいけないといのがない難しさというのに初めて出会いました。そこで、自分がやりたいことが見えてきた気がしました。
小曽根さんから習ったことで印象に残っているのはどんなことですか?
大学に入学して間もない頃に「ジャズとは」みたいな授業があったんですが、あるコードに対してこの音が正しいということじゃなくて、今自分が何をしたいかで判断をする。その自分が正しいと思えることしか吹かない。それが正しい音だ。というような話を最初にされて。当時はジャズを始めたばかりで、コードを正しく吹こうという気持ちで精一杯だったんですけど。その言葉のおかげで、ジャズをすることやアドリブを取ることを楽しいなって思うようになりました。
同じく大学で講師をされている奥村晶さんやエリック・ミヤシロさんからはどんなことを学びましたか?
元々奥村さんに憧れて国立音大に進学したんです。レッスンでは、ひとつの音しか吹かないという時もあったり、それこそオーケストラ奏者を目指す人がやるような練習から、ビッグバンドやホーンセクションのことまでいろんなことを学びました。エリックさんからは楽器の構造から吹き方、音楽のアレンジの仕方だったり、お二人とも幅広くいろいろ教えて頂きました
錚々たる方々から薫陶を受けていらっしゃいますが、今松井さんが目指す音とはどんな音でしょうか?
自分はトランペットで歌うということを大事にしたいと思っています。トランペットは息を使い、唇が振動して楽器に直接伝わっていくこともあり、体を使って音をコントロールしている部分がすごく多いんです。超絶技巧的な音を正確に並べるのもかっこいいし、それもすごいやりたいんですけど、一番大事にしたいのは楽器で歌を歌えるプレイヤーであることです。
デビューアルバム「STEPS OF THE BLUE」は恩師でもある小曽根真さんのプロデュースで、ご本人も参加されている曲もありますね。
これを作った時に小曽根さんからは、「これからいろんなことが起こっていくだろうけど、今このタイミングで、このメンバーでこれを録ることに意味や価値を感じた」と言ってくださってプロデュースしていただきました。
どれか1曲ご紹介していただけますか?
ではタイトル曲『STEPS OF THE BLUE』を。これは最初から3管、トランペットとトロンボーン、サックスがいるイメージで書いた曲です。タイトルにある「BLUE」というのは単にブルースやジャズというジャンルだけではなく、それを築き上げてきた歴史全体に対してのリスペクトを形にした曲です。中川英二郎(トロンボーン)さんと小曽根さんのルーツもデキシーランドジャズにありますし、この素晴らしいメンバーで演るならこんな曲だなと思って作りました。自分もこの先、そういう道を作る存在になっていけたらいいなと思って、アルバムのタイトルにしました。
1月には名古屋・しらかわホールでのコンサートが控えています。
こういった響きを大事に作られているコンサートホール吹けるのは、すごく幸せですね。ジャズのライブハウスで演るのも、お客様との距離が親密であったりと良さはたくさんあるんですが、生の音やその響きを大事にするような音楽はコンサートホールの醍醐味だと思います。どんな音が響くのかとても楽しみです。
1/14 SUNDAY 【チケット発売中】
SHUTARO MATSUI Concert Hall Live
◼️会場/三井住友海上しらかわホール
◼️開演/14:00
◼️料金(税込)/全席指定 ¥5,500
◼️お問合せ/東海テレビ放送 事業部TEL.052-954-1107(平日10:00~18:00)
*未就学児入場不可
高齢社会をユーモラスに活写した近松賞受賞作が東海地方初登場!
「馬留徳三郎の一日(以下「馬留」)」で2018年に第7回近松門左衛門賞を受賞した髙山さなえは平田オリザ率いる青年団の演出部を経て、現在は高校で演劇の教諭も務める劇作家・演出家だ。
受賞作「馬留」は2020年に青年団のプロデュース、平田の演出で初演されて好評。
今回の再演では初めての三重公演も決まり、当地でツアーの大千秋楽を迎える。
彼女にとって大きな転機ともなった戯曲の創作プロセスなどを髙山自身に尋ねた。
執筆の経緯を教えてください。
「馬留」は私が演劇から離れていた時期に数年ぶりで書いた戯曲なんですよ。2年近く完全に、やることも観に行くこともありませんでした。ただ、演出はできなくても、劇作だけは好きで始めたことなので嫌いになって辞めるのはイヤだと思い、短い作品を書き始めたんです。そうしてやっと長い作品を書いてみようと思った頃、テレビ局の方から長野県の木曽地域では全員90歳以上で若い人が一人もいない所もあると聞き、私が住んでいる地域も10年後ぐらいにはそうなるんじゃないかと思いました。そこから、親の介護までは至っていない今の自分の視点で何がが書けるか意識したのが執筆の発端。ベースには認知症の祖母と母の関係がありました。
記憶や詐欺といった題材は演劇と相性が良く、より面白いですね。
そもそも演劇ってウソなので、ウソの世界の中でウソなのかホントなのかわからないことをやっているんですよね(笑)。初演の時、比較的年長の演劇人には「芝居の軸がない」と言われました。でもオリザさんは「記憶」という視点で演出してくださっていて、軸はないわけではなく分かりにくいだけなのかも……。認知症の方々の話なので、実際やっぱり軸というのは見つけにくい。そんな中でオリザさんは記憶という一本の糸を手繰り寄せるように芝居を作り上げてくださいました。
「馬留」を客観的にどう見ていますか。
演出が素晴らしいのは当然ですけど、出演者が個性的で、めちゃくちゃ面白いんですよ。特にご高齢の3人は演劇に対してとても謙虚。例えば羽場さんは70代ですが、今回の再演で9月に豊岡演劇祭に参加した際、兵庫県でのゲネプロの後「良かったです!」と言ったら「いや、もっとできると思うんだよね」とおっしゃって、いくつになっても謙虚に演劇に挑んでいらっしゃるなと。「馬留」の現場にいると、そういう体験がいくつもありますね。人の話を聞いていない人も多いですけど(笑)、稽古場が相当面白い。どこまで本当で、どこまで演技なのかわからないんです。約3年ぶりの再演はもっと進化していて、特に冒頭の年配3人のシーンはちょっと言葉にならなかったですね。凄いというか恐怖というか、「こんな風に演劇ってできるんだ」という驚き。他のシーンも含め、役者さんの力、オリザさんの演出の力をあらためて実感しました。スタッフの皆さんにも初演からの方が多く、一人でも欠けたらできない作品ですね。
近松賞の受賞は、ご自身に何をもたらしましたか。
私が演劇を始めたきっかけは平田オリザさんと青年団なので、オリザさんに自作を演出していただけたことは大きいです。再演もしてくださって、レパートリー化するとも言ってくださったのは、とんでもなくうれしいこと。また、戯曲の依頼が来るようになったのは賞をとったからかなと。あとは、演劇の世界に戻ってきたという感覚は得られたことですね。近松賞を受賞して、演出がオリザさんになって、離れていた演劇の世界に戻ってくるきっかけができた。私には、それがいちばんです。
教諭に着任した現在も踏まえ、あらためて演劇への想いをお聞かせください。
演劇は、一人でできることではないですよね。絵を描くとか楽器を弾くとかにも人はたくさん関わりますが、演劇だけは最初から最後まで誰かと関わらないといけない表現方法です。私はコミュニケーションの取り方が下手で、演劇をやりながら人との距離感を確認していた時期もあります。今は、演劇を作る、戯曲を書く、演出するということをやりながら演劇教育というものにも携わっています。自分の愛する演劇をどうやって伝えるのか。それが今いちばん頑張らなきゃいけないことだと思っています。また一人でできるものではないので、できあがった時の感動も一人じゃないですよね。スタッフ、出演者、観客が感動を共有できることは、私が演劇を辞められない理由、これからも続けていくであろう理由。それを演劇教育に活かせないかと日々考え、自分自身も勉強しているところです。
三重公演に向けて、ひと言お願いします。
実は、私の母が学生時代を三重県で過ごしたんですよ。長野県松本市出身ですが、当時の松阪女子短大(現・三重中京大学短期大学部)に進学したそうなんです。だから母は最初、津公演に行きたいと言っていたんですよ。久しぶりに三重に帰ってみたいと。今回母の観劇は叶わなかったんですけど、おかげで私も勝手にご縁を感じていて。数日しか滞在できませんけど、三重に行けるのをすごく楽しみにしています。
◎Interview&Text/小島祐未子
12/23 SATURDAY~12/24 SUNDAY
青年団プロデュース公演
「馬留徳三郎の一日」(第7回近松賞受賞)
チケット発売中
■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/両日共14:00
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般¥3,000 22歳以下¥1,500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL 059-233-1122
※未就学児入場不可
※12/23は髙山さなえ、平田オリザによるポストパフォーマンストーク有