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「渡辺 徹」Web 限定インタビュー
取材日:2017.12.25

現代フランスを代表する劇作家の辛辣な人間喜劇が今年の3月、可児市文化創造センターの小劇場に登場。昨年創立80周年を迎えた文学座の精鋭たちが「ボルドー」「シャンパーニュ」の2組に分かれて、ダブルキャストで集結。「ボルドー」組に出演する渡辺徹さんに作品の見どころを伺った。


1979年パリ生まれの劇作家フロリアン・ゼレールの作品は、日本でも《誰も喋ってはならぬ》(加藤健一事務所)が2016年に上演され、渡辺さんも出演されていますね。

彼の作品としては本邦初だったと思います。とにかく抱腹絶倒で、面白かった。しかもただ笑えるってだけではなくて、人間の哀愁をシニカルに描き、示唆にも富んだ奥の深い作品…プロットも凝っていたし。基本はオーソドックスな喜劇で、取り違えとか恥の上塗りとか、古典的な手法なのだけれど、それが幾重にも張り巡らされていて巧妙でしたね。そのあたりは今回の作品とも通じるものがあって、どちらの作品も人間の弱さがテーマ。悪意はないけれどついつい良くない方向に流されて行ってしまう…みたいなことって、人生にはありますよね? そんな状況に"笑い"をまぶして見せるので、観客の心にすっと受け入れられる。

今回の《真実》は2組の夫婦をめぐるいわば不倫劇で、「真実」と「嘘」とが幾重にも交差する心理ゲームのような側面もあると思うのですが…

台本に目を通していて思わず笑ってしまいましたよ。普通は台本って、どうアプローチしようかって、どうしても役者の視点で読んでしまうものですが、この本は仕事抜きで楽しめました(笑)。実は昔から好きな芝居のタイプがあって、例えば落語みたいな話。人間の「業」を肯定するというか、駄目な人間を理屈でもって追い込んだり、断罪したりしないような。もちろん劇中では追い込んだり追い込まれたりするんですが、観ている人は思わずそれを許したくなるような、そんな役に惹かれます。もちろん清く正しいキャラクターも物語には必要ですが、自分が好きなのは愛すべきダメ人間(笑)。理屈やモラルからは批判を受けるような、決して褒められたもんじゃないタイプに魅力を感じるんですね。そういう人間が受け入れられる社会であって欲しいと思う。敬愛する山田太一先生が脚本を書かれたNHKドラマに《迷路の歩き方》という作品があって、自分はちょっとした不正を働く工務店の社長で、それを親友(中井貴一)に咎められる役で出演させていただいたんですが。その中に「今の世の中、人は何かと白黒つけたがり、白いものがちょっとでも翳りだすと、何だ黒だったのか! ってみんなでバッシングを始める。でも人間って白黒の2色だけでなく、いろんな色をもって存在しているんだ」…みたいな内容の台詞があって、それに自分でも凄く共感したんです。以来、ずっと芝居では「灰色」な役をやりたいと思うようになった。《真実》のミシェルもそういう役な気がします。


今回は「ボルドー」と「シャンパーニュ」の2組によるダブルキャストでの上演も話題です。

まだ顔合わせはしていないけれど、みんな劇団員なので気心が知れています。相手チームと争うわけでもないし、8人とも面白いはず。うちの「ボルドー」組4人のメンバーでは何といっても、自分と同期である斎藤志郎と共演するのが楽しみ。実際に親友というか悪友のあいつと、今回は舞台でも親友の役で、しかも奥さんと浮気するという…さあどうなりますか(笑)。キャスティングがどのように行われたかは知りませんが、演出の西川信廣さんも、僕らの色んな面を分かっていて、もしかしたら面白がってこの組合せになったのかも。とにかく繊細で芸達者なうまい役者なので、相手にとって不足はないですね(笑)。

こういった翻訳劇は文学座が得意とする題材ですね。

確かにそうかもしれません。そういえば今回《真実》の翻訳を担当した鵜山仁さんの演出で、ロシアのアレクサンドル・ヴァムピーロフの戯曲を文学座が《息子です こんにちは》のタイトルで上演した(1991年)ことがあって、あれも面白いコメディでしたね。豪華キャストでとても印象に残っています。

渡辺さんが文学座研究所に入所されたのは1980年。人気テレビ・ドラマ《太陽にほえろ!》でデビューされる1981年よりも前ですね。

特に看板を背負っているつもりは全くないのだけれど、自分の中には「文学座」に居続けたい明確な理由があります。一つには、役者もスタッフも含めて一緒にやりたい人間がいること。二つめの理由は、自分にとって純粋に演劇ができる場所だから。この歳になると、よそではあまり怒られたりすることもないのですが、文学座の稽古ではお互いに、あれは違う、そうじゃないって忌憚のない意見を言い合える。役者として悪いところをみつけてくれる人間ドックならぬ「俳優ドック」みたいなものですね(笑)。いつまでも原点でいられる場所です。

可児市文化創造センターでの公演が待ち遠しいです。

全国のいろんなホールにお邪魔しますが、郊外にぽつんと立派な劇場だけ建っているような状況も少なからずあるなかで、可児市文化創造センターは皆さんの集まるコミュニティの中心のような場所だと、前回の2014年『シリーズ恋文 vol.5』公演の時に思いました。舞台でまた皆さんにお目にかかれるのを凄く楽しみにしています。

取材・文:東端哲也


3/8THURSDAY〜3/10SATURDAY
文学座公演「真実」
◎作/フロリアン・ゼレール ◎訳/鵜山仁 ◎演出/西川信廣
◎出演/<ボルドーチーム> 斎藤志郎、渡辺徹、古坂るみ子、郡山冬果
<シャンパーニュチーム> 鍛治直人、細貝光司、浅海彩子、渋谷はるか
■会場/可児市文化創造センターala 小劇場
■開演/3月8日(木)18:30 ボルドーチーム、 3月9日(金)14:00 シャンパーニュチーム、 3月10日(土)14:00 ボルドーチーム ※3月10日公演は残席僅少
■料金/全席指定¥4,000 18才以下¥2,000
■お問合せ/可児市文化創造センター インフォメーション TEL.0574-60-3050
※未就学児入場不可
※有料託児サービスあり(¥500) [申込締切:2月26日(月)]