HOME > Web 限定インタビュー > 「土田英生」インタビュー

劇団MONOが、今年も豊橋に登場。新作「デマゴギージャズ」で、明治と現代の二つの時代を行き来しながら、デマや陰謀論に翻弄される人間の弱さや愚かさをコミカルに描きます。

これまで、MONOでは一幕ものの作品づくりを続けてこられましたね。

演劇の醍醐味は、制限があることだと思います。例えば、超高層ビルの火災にまつわる物語で迫力あるシーンを描こうとしたら、CGなど技術を駆使して映像づくりができる映画には絶対に勝てません。でも演劇では、例えばビルに閉じ込められた登場人物たちの会話だけで緊迫感をリアルに見せていくとか、そんな描き方ができる。制限があることによって、逆に豊かな表現ができるのが演劇なんですよね。だから、基本的には場面転換のない作品づくりを35年間ずっと続けてきました。なるべくミニマムなことから広いことを描きたいんです。少人数の劇団で、メンバーも固定化されています。同じ顔ぶれで、同じ作法のもとで演劇を作る。そのことには、正直言うと今も全く飽きていません。ただ、前作「御菓子司 亀屋権太楼」では、初めて舞台を少し抽象化して、場所を転換させ、10年間という長いスパンを描くことに挑戦しました。僕としては、もう清水の舞台から飛び降りるぐらいの思い切った冒険でしたが、お客さんの反応はあまり変わらなかったんですね。「いつもの感じでよかったです」みたいな(笑)。それなら、ちょっと違うこともやってみようと。

今回は、明治初期と現代という時代を行き来する物語。テーマに「デマ」を選ばれたのは、なぜですか?

僕が住んでいる京都には、いわくつきの場所がすごく多いんです。「この松の木には、こんな謂れが…」とか。もちろん、それが本当ならロマンを感じますが、けっこう怪しいものもあります。例えば、明治時代の誰かの落書きが現代まで残っていて、すごい偉人が書いたものだと言われているとか…。今、僕たちがありがたかって信じているものが、昔はそんな扱いじゃなかったり、それこそデマだったりするんじゃないかと。そんなことを、二つの時代を行き来することで描こうとしています。明治時代の建物が資料館として現代に残っている。中庭には大きな石があって、謂れのある神聖なものとして伝わっています。でも明治時代に遡って出どころを見ると、先祖たちが無理やり作り出したもので、神聖でもなんでもなかったという…。作品テーマには、昨今の世の中の危うさも影響していると思います。真実を追求せず、結論ありきで自分の都合のいい情報だけを集めて人と人が争うような…非常に怖いですよね。僕自身は昔から割とひねくれ者で、みんながいいと言うものにパッと乗れないところがあるんです。その警戒心みたいなものが、この作品を生み出したような気もします。


稽古風景_撮影:岡安いつ美


土田さんご自身は、デマの正体をどのように捉えていらっしゃいますか?

嫉妬だと思います。ちょっと哲学的に言うとルサンチマン。弱者の妬みのようなものが世界中にはびこっているんじゃないでしょうか。自分が不幸なのは何かのせいだ、みたいな。そんな思いから、陰謀論みたいなものにみんながパッと飛びつくんじゃないかと。
こんな風に話していると重いテーマ劇みたいに思われるかもしれませんが、コメディですから。自分の先祖は素晴らしい功績を残した役人だと自慢してる人がいて、明治時代に話が移るとそのご先祖は冷酷無比なイヤな奴だったとか…。そんな答え合わせを笑えるような作りになっています。

1989年に旗揚げして35年。劇団のあゆみを振り返って、どんな思いを抱かれますか?

一緒に始めた水沼健さんはまだいますし、最初の5年ぐらいの間に参加したメンバーもほとんど在籍しています。一番新しい金替康博くんも1998年からですし。あと「若いメンバー」と呼ばれる人たちが4人いますが、出会ってから10年近く経ちます。みんながいるっていうことが、自分たちがやってきたことを証明してくれているのかもしれません。「続けよう!」みたいな意識もあんまりないんですけど、「辞めよう」とも言わないって感じですかね、みんなが。居心地がいいんだと思いますよ。人間関係の干渉がないし。劇団の公演が終わっちゃうと1年間会わない人もいますが、新しい作品でまた集まると普通に台本を読み出しますからね。距離感がいいのかな?僕らの作品では、そういう空気感が舞台上に乗っている気もします。殺伐とした世の中ですから、そんな平和な人間関係もあるってことを作品と合わせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

◎Interview & Text /稲葉敦子



3/15 SATURDAY 3/16 SUNDAY
MONO「デマゴギージャズ」
【チケット発売中】
◎作・演出/土田英生
◎出演/金替康博、水沼 健、奥村泰彦、尾方宣久、渡辺啓太、石丸奈菜美、高橋明日香、立川 茜、土田英生
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
■開演/各日14:30 ※3/15(土)アフタートークあり
■料金(税込)/全席指定 一般¥4,000 U25¥2,000(入場時本人確認書類提示)
■お問合せ/プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090(10:00-19:00休館日除く)