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「馬留徳三郎の一日(以下「馬留」)」で2018年に第7回近松門左衛門賞を受賞した髙山さなえは平田オリザ率いる青年団の演出部を経て、現在は高校で演劇の教諭も務める劇作家・演出家だ。
受賞作「馬留」は2020年に青年団のプロデュース、平田の演出で初演されて好評。
今回の再演では初めての三重公演も決まり、当地でツアーの大千秋楽を迎える。
彼女にとって大きな転機ともなった戯曲の創作プロセスなどを髙山自身に尋ねた。

執筆の経緯を教えてください。

「馬留」は私が演劇から離れていた時期に数年ぶりで書いた戯曲なんですよ。2年近く完全に、やることも観に行くこともありませんでした。ただ、演出はできなくても、劇作だけは好きで始めたことなので嫌いになって辞めるのはイヤだと思い、短い作品を書き始めたんです。そうしてやっと長い作品を書いてみようと思った頃、テレビ局の方から長野県の木曽地域では全員90歳以上で若い人が一人もいない所もあると聞き、私が住んでいる地域も10年後ぐらいにはそうなるんじゃないかと思いました。そこから、親の介護までは至っていない今の自分の視点で何がが書けるか意識したのが執筆の発端。ベースには認知症の祖母と母の関係がありました。


©️三浦雨林


記憶や詐欺といった題材は演劇と相性が良く、より面白いですね。

そもそも演劇ってウソなので、ウソの世界の中でウソなのかホントなのかわからないことをやっているんですよね(笑)。初演の時、比較的年長の演劇人には「芝居の軸がない」と言われました。でもオリザさんは「記憶」という視点で演出してくださっていて、軸はないわけではなく分かりにくいだけなのかも……。認知症の方々の話なので、実際やっぱり軸というのは見つけにくい。そんな中でオリザさんは記憶という一本の糸を手繰り寄せるように芝居を作り上げてくださいました。

「馬留」を客観的にどう見ていますか。

演出が素晴らしいのは当然ですけど、出演者が個性的で、めちゃくちゃ面白いんですよ。特にご高齢の3人は演劇に対してとても謙虚。例えば羽場さんは70代ですが、今回の再演で9月に豊岡演劇祭に参加した際、兵庫県でのゲネプロの後「良かったです!」と言ったら「いや、もっとできると思うんだよね」とおっしゃって、いくつになっても謙虚に演劇に挑んでいらっしゃるなと。「馬留」の現場にいると、そういう体験がいくつもありますね。人の話を聞いていない人も多いですけど(笑)、稽古場が相当面白い。どこまで本当で、どこまで演技なのかわからないんです。約3年ぶりの再演はもっと進化していて、特に冒頭の年配3人のシーンはちょっと言葉にならなかったですね。凄いというか恐怖というか、「こんな風に演劇ってできるんだ」という驚き。他のシーンも含め、役者さんの力、オリザさんの演出の力をあらためて実感しました。スタッフの皆さんにも初演からの方が多く、一人でも欠けたらできない作品ですね。

近松賞の受賞は、ご自身に何をもたらしましたか。

私が演劇を始めたきっかけは平田オリザさんと青年団なので、オリザさんに自作を演出していただけたことは大きいです。再演もしてくださって、レパートリー化するとも言ってくださったのは、とんでもなくうれしいこと。また、戯曲の依頼が来るようになったのは賞をとったからかなと。あとは、演劇の世界に戻ってきたという感覚は得られたことですね。近松賞を受賞して、演出がオリザさんになって、離れていた演劇の世界に戻ってくるきっかけができた。私には、それがいちばんです。

教諭に着任した現在も踏まえ、あらためて演劇への想いをお聞かせください。

演劇は、一人でできることではないですよね。絵を描くとか楽器を弾くとかにも人はたくさん関わりますが、演劇だけは最初から最後まで誰かと関わらないといけない表現方法です。私はコミュニケーションの取り方が下手で、演劇をやりながら人との距離感を確認していた時期もあります。今は、演劇を作る、戯曲を書く、演出するということをやりながら演劇教育というものにも携わっています。自分の愛する演劇をどうやって伝えるのか。それが今いちばん頑張らなきゃいけないことだと思っています。また一人でできるものではないので、できあがった時の感動も一人じゃないですよね。スタッフ、出演者、観客が感動を共有できることは、私が演劇を辞められない理由、これからも続けていくであろう理由。それを演劇教育に活かせないかと日々考え、自分自身も勉強しているところです。


©️三浦雨林


三重公演に向けて、ひと言お願いします。

実は、私の母が学生時代を三重県で過ごしたんですよ。長野県松本市出身ですが、当時の松阪女子短大(現・三重中京大学短期大学部)に進学したそうなんです。だから母は最初、津公演に行きたいと言っていたんですよ。久しぶりに三重に帰ってみたいと。今回母の観劇は叶わなかったんですけど、おかげで私も勝手にご縁を感じていて。数日しか滞在できませんけど、三重に行けるのをすごく楽しみにしています。

◎Interview&Text/小島祐未子



12/23 SATURDAY~12/24 SUNDAY
青年団プロデュース公演
「馬留徳三郎の一日」(第7回近松賞受賞)

チケット発売中

■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/両日共14:00
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般¥3,000 22歳以下¥1,500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL 059-233-1122
※未就学児入場不可
※12/23は髙山さなえ、平田オリザによるポストパフォーマンストーク有