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ジャズミュージシャン・南博の原作を大胆にアレンジして映画化した「白鍵と黒鍵の間に」。池松壮亮が1人2役で主演を務め、昭和末期の銀座を舞台にふたりのジャズピアニストの運命が交錯し大きく狂い出す一夜を描きます。このスリリングな作品の音楽を手がけたのが、ジャズピアニストの魚返明未。公開を前に、制作の裏側や自身の音楽について語っていただきました。

映画音楽の制作を進める上で、冨永昌敬監督とはどんなお話をされましたか?監督も相当なジャズ好きでいらっしゃるとか。

今回、初めてお会いしましたが、僕のライブにもお越しいただいて距離を詰めてくださって。音楽の話をたくさんして、すごく盛り上がりました。映画の音楽に関しては、例えば劇中で使われている曲の歌詞についてとか。本当に酷い内容の歌詞なんですけど、それがいかにこの映画を表しているかを話し合ったり。また、冨永監督が以前に作られた映画で使ったエリック・ドルフィーの「HAT AND BEARD」と、僕が今回サウンドトラック用に作った曲のイメージがたまたま合っているそうで、「こういうのが好きなんだよね」と話してくださったりして、嬉しかったですね。

今回のような作品の場合、劇中で俳優が演奏するシーンの音楽や演奏自体にも関わられるのですか?例えば、主人公がデモテープを作るためにセッションするシーンもありましたね。

劇中の音楽は、ほとんど僕が担当しています。演奏シーンとそれ以外の音楽では関わり方も少し違ってきますね。演奏シーンは演出の範疇になってくるので、冨永監督が具体的なイメージをお持ちです。選曲の会議でも「ここに、こういう曲を入れたい」という明確なディレクションがありました。アレンジの内容などは僕に任せてくださいましたが。演奏シーンがある池松壮亮さんと仲里依紗さんのピアノ指導は、友人のピアニスト・鈴木結花さんにお願いしました。



BGMに関しては、どのような工程で制作されたのですか?

絵が出来上がってから作りました。「このシーンには、この曲」などと僕の方から決めず、なんとなく映画の雰囲気に合いそうな曲のアイデアをできるだけたくさん出して、その中から冨永監督にピックアップしていただいた感じです。デモ音源もしっかりは作らず、割とラフな状態でお渡ししていました。最終的にはジャズミュージシャンの演奏で録音するので。冨永監督は以前、菊池成孔さんと映画を作られたときにも同じ手法で音楽を選んでいらしたそうで、話がすごく早かったです。僕にとっては、普段のライブと変わらない気持ちで作って、その中から確実においしいところを取っていってもらえるという。

映画音楽の制作にはいろいろな制約もあると思います。アーティストとしてのご自身の中で、クリエイティブにおける葛藤のようなものはありましたか?

今回は、まったくなかったですね。この作品は、例えば、感情が高まると同時に音楽も高まっていく…というようなものがないタイプの映画だと思うんです。冨永監督からも「ここには画面と相反するような音楽が欲しい」というような要望がありました。その辺りのバランス感覚が少し難しかった部分はあるかもしれませんね。僕は音楽側の人間なので「このシーンにこの音楽で本当に大丈夫なのかな?」と、不安を覚えながら作っていましたが、完成した映画を見たら「こんなに合うとは思わなかった!」というシーンがいくつもあって、とても勉強になりました。



魚返さんご自身は、高校生のときにジャズピアノに転向し、東京藝術大学の作曲科に進まれました。演奏より作曲に魅力を感じていらっしゃったのですか?

小さい頃から、ピアノを弾くことと作曲することが分かれていなかったんです。音楽することイコール自分の好きなメロディを考えて表現すること、みたいな感覚で。その手段がピアノだったのかもしれません。最近は、自分が身につけてきた理論とか技術を取り払って音楽をやらないと、という気がしています。小さい頃から作曲しているので、自分の設計図の中で音楽をやろうとしちゃうところがあるんですよ。ジャズの演奏が目指すところはバンドですから、一人ひとりが輝いているけど音楽はひとつ、みたいな感じになりたいと思うようになってきました。

今、東京で活躍しているミュージシャンは、魚返さんと同世代の方が多いですね。

東京の音楽シーンは今、すごく面白い気がします。同世代のミュージシャンで付き合いの長い人もいますし、お互いが進化していくのを見ていると面白いです。ジャンルを超えた交流も活発ですし、いいシーンにいるなと感じています。

◎Interview/福村明弘 ◎Text/稲葉敦子



10/6 FRIDAY公開
映画「白鍵と黒鍵の間に」
◎監督・脚本/冨永昌敬 ◎原作・エンディング音楽/南 博 ◎脚本/高橋知由
◎音楽/魚返明未
◎出演/池松壮亮、仲里依紗、森田剛、クリスタル・ケイ、松丸契、川瀬陽太、杉山ひこひこ、中山来未、福津健創、日高ボブ美、佐野史郎、洞口依子、松尾貴史/高橋和也
◎配給/東京テアトル
Ⓒ 2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会