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三重県に拠点を置く第七劇場が2007年初演の代表作「かもめ」を上演する。ロシアの劇作家チェーホフの四大戯曲に挙げられる「かもめ」は、代表の鳴海康平と同劇団のターニングポイントとなった思い入れの深い作品だ。作家志望のプレートレフ(通称コースチャ)と女優志望のニーナ。愛し合う二人を襲った運命に焦点を絞り、ニーナの後日譚として大胆に演出した舞台は国内外で高い評価を受けている。東海地方では10年ぶりの公演を前に、現在の心境も踏まえて鳴海に演出意図など尋ねた。

今回の公演の経緯を教えてください。

私たちの「かもめ」は2007年初演ですが、2010年にリクリエイションした際、初めて三重県文化会館で公演を行ったんです。それで松浦茂之副館長と「もうすぐあれから10年だね」と話すうち、節目に再び上演しようということになりました。演出はほぼ変えませんが、キャスト8人中4人が「かもめ」初参加で、ニーナとコースチャの俳優も交代していますから、雰囲気や味わいは変わってくると思います。

第七劇場の「かもめ」はかなりアレンジされていますね。

「かもめ」は普通に上演すると2時間半ぐらいかかりますが、私たちの上演は70分ぐらい。原作から登場するのはニーナ、コースチャ、アルカージナ、トリゴーリン、ドールンだけで、あとは原作にはない病院の患者という役です。コースチャの死を相対化する狙いがあり、幕間にはチェーホフの小説「6号室」「わびしい話」「ともしび」などからも言葉を引用しています。「かもめ」ではコースチャが最後に自殺しますが、それをニーナが知った時に抱えきれるのか?という疑問が創作の出発点にあったんですね。そこでコースチャを死を知って心身を崩し入院してしまったニーナのもとに医者のドールンが来て、一緒に「かもめ」という劇を回想する構造にしたんです。記憶がフラッシュバックする中、ニーナはその都度どう思っていたのか、コースチャの死をどう受け止めたのか。結末はわかった状態で展開していきますから、ブレヒトのアプローチに似た感じもありますね。

日本ではコースチャに比重を置いた演出が多く感じるので、ますます新鮮です。


いつのまにか、ニーナとドールンの物語になってきたんですよ。人間が自身を保ち続けるためには、外側の協力や責任も必要だという気持ちが強くなってきたからかもしれません。ドールンはニーナに何もできず、横にいて話を聞いてあげることしかできない。フラッシュバックにつきあって互いに傷つき、同じ苦しみを抱え続ける。助けられない苦しみを延々と背負わなければいけないんです。ある種の弱者を目の前にした時、私たちは何ができるのか。それを意識しながらリハーサルをしています。今の世の中は何でも自己責任と言われる風潮にありますが、頑張りたくても、努力していても、うまくいかない人はいます。でもドールンのように「一緒に傷つくよ」という人が増えれば、少しは社会が変わるんじゃないかとも感じます。そうでなければ弱者は切り捨てられていくばかりです。

SNSを中心に社会のネットワークはここ10年で激変しました。

右左、上下をはっきりさせないと気が済まない傾向が強まって、弱者には息苦しいですよね。みんなで少しずつ補完し合える社会が望ましいと思うんですけど……。この舞台では、ニーナが元気だった「かもめ」という劇の時間と、心身を崩してしまった後の時間が交互に浮かび上がります。それに応じて観客も、交互に考えることになるんです。

劇中の雪のイメージには、北海道出身の鳴海さん個人の記憶もうかがえますが……。

4幕のニーナのせりふは北海道の原風景と呼応しているところはありますね。北国の人間からすると、雪に閉じ込められる世界は“我慢”という言葉と結びつきやすい(苦笑)。行き場がない感覚というか。ニーナは華やかな劇場の世界に憧れつつ、どさ回りでもいいから演劇を続けようとします。そこにいくつもの我慢がある。私はSCOTの演出家・鈴木忠志さんの影響を強く受けたんですが、初演やリクリエイションの頃はその影響との距離感に葛藤もあって。自分たちのオリジナリティを獲得したいという想いが無意識にあったのかもしれません。それがプライベートな記憶や体験を掘り下げることにつながったようにも思います。それと、まだ東京にいた当時の共同アトリエが白い空間だったので、それも雪のイメージとつながったのかもしれませんね。演出家やカンパニーにとって、自分たちのマスターピースを作れるのはとても幸福なことですが、「かもめ」はまさに私たちのマスターピース。「かもめ」を通じて私もカンパニーも転換期を迎えたんです。


10/30 FRIDAY~11/1 SUNDAY
第七劇場
「かもめ」

チケット発売中
■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/10月30日(金)19:00、31日(土)14:00/18:00、11月1日(日)14:00
※10/31(土)14:00・11/1(日)14:00完売。
※各回アフタートークあり。10/31 18:00回のみアフタートークゲスト田辺剛さんをお迎えします。
■料金(税込)/整理番号付自由席 前売一般¥2,500 当日一般¥3,000 25歳以下¥1,000 18歳以下¥500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL059-233-1122
※未就学児入場不可

※三重県のガイドラインにおける「主催イベントの開催基準」に則り開催します。
※感染症対策についてはご来場前に当館ホームページをご覧ください。