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鶴屋南北戯曲賞にノミネートされ、テアトロ新人戯曲賞を受賞した『ざくろのような』に、そのスピンオフドラマの『つながるような』を加えた2作で、愛知に初お目見得するJACROW。高い評価を受けた作品をさらにどう見せようとしているのか。脚本・演出を手がける中村ノブアキに聞いた。
『ざくろのような』は、経営危機に見舞われている会社で働く技術者たちの物語で、2015年、2019年に続いて3度目の上演になります。やはり思い入れのある作品ですか。
2001年から活動を続けてきて、正直、あまり動員数が伸びないなかで、これはある意味開き直って書いた戯曲でした。というのも、実は僕は、サラリーマンとして働きながら演劇を続けているのですが、当初は自分が知っている世界を描かないことでカッコつけていたところがあったんです。でも、考えてみたら、ドラマや映画では「半沢直樹」など池井戸潤さんの原作ものが人気で、漫画でも「島耕作」が活躍しているのに、演劇でそんなリアルなビジネスものは観たことがない。会社を舞台にしていても違和感がある。「そういえば、自分だったら書けるじゃないか」と(笑)。そこで、カッコつけずに自分のできることをやってみたら、お客さんに面白いと言ってもらえ、評価もいただけたんです。きっとそれまで作っていたものは、どこか自分が観てきたものの受け売りでしかなかったんだと思います。でもこの作品は、本当に自分のなかから出たものだった。だから、原点のような意味のある作品なんです。
物語は、大手企業に吸収合併されることが決まるなか、会社は生き残りをかけてある開発をトップエンジニアの野間に依頼し、その野間は中国企業からヘッドハンティングを受けていて…と、ハラハラの展開を見せていきます。どこから着想を得られたのですか。
自分が会社員なのでよくビジネス書を読むのですが、ある電機会社を描いたノンフィクションにすごく印象に残った箇所があったんです。「ある日技術者が行方不明になった。彼が韓国の大手企業に行ったという噂があり、電話をしてみた。しかし、そんな人はいないと言われた」というたった2行の文章なんですけど。まさに長引くデフレで日本企業が苦しんでいるなか、中国や韓国の企業への日本の技術流出が話題になっていた時期で、これはドラマになると思い、その2行から2時間のドラマを作ったんです。
初演から8年経ちましたが、そのテーマをさらにどう届けたいと思われていますか。
今回は、「“経済”と書いて“せんそう”と読む」というキャッチコピーをつけました。テーマは経済戦争です。今、半導体やグリーンエネルギー、それこそ愛知の産業でもある自動車で言えばEVも、世界中で覇権争いをしていて、日本はそこから取り残されているという状況があります。それでも、自分もサラリーマンのひとりとして、やっぱり日本企業に頑張ってほしい。だから、今回はエールの意味も込めたいなと思っているんです。言葉や音楽をもっと強くして。それが人によっては空元気に見えるかもしれませんし、だから日本はダメなんだと見えるかもしれませんが、そこにチャレンジしたいと思っています。
そして、『つながるような』は、『ざくろのように』に登場する野間とその妻のその後を描いたスピンオフドラマです。こちらは2020年に上演されたものの再演ですね。
『ざくろのような』は2018年くらいを舞台にしているイメージなんですけど、その後、2020年のコロナ禍のなかでふたりはどういう生活をしているのかということを描いたのが、『つながるような』です。まさしくコロナ禍において、4団体が20分の短編を持ち寄って無観客配信するという企画があって、そこで上演した作品ですが、ぜひ『ざくろのような』とあわせて観ていただければと思います。
ビジネスものは、今後もご自身の強みとなりそうでしょうか。
実は、ビジネスドラマのほかにもう一つ政争劇路線というのもあって、田中角栄の人生を描いた『闇の将軍』シリーズで、紀伊國屋演劇賞個人賞をいただきまして。気を良くして(笑)、吉田茂を描いた『廻る礎』もやりました。といっても、別に社会派を目指そうと思っているわけではなく、昔の作風を捨て(笑)、自分のなかから出るものや、興味のあることをやっていたらこうなったというだけなんです。だからこれからも、流れに身を任せていきたいと思います。
サラリーマンを続けながら、ですか。
よく聞かれるんです。仕事を辞めないんですかと。でも、仕事で得た経験が演劇に活きますし、意見を言い合いながら作っていく演劇の現場のやり方は、たとえば会社の会議の進め方にも活きてきますし。両方が支え合っているので、辞めるつもりはありません。
今後もそんな中村さんだからできる作品が生まれてきそうですね。最後に初めての愛知の方々に一言お願いします。
これを機にぜひJACROWを知っていただければと思いますし、何より東海地方は自動車産業のメッカなので自分ごととして観ていただけるのではないかと思っています。ビジネスをエンタメとして描いているので、どなたでも見やすくなっています。池井戸潤好きであれば絶対に喜んでもらえると思うので(笑)、ぜひお越しください。
◎Interview&Text/大内弓子
7/8SATURDAY・9SUNDAY
J A C R O W「ざくろのような」
◼️会場/穂の国とよはし芸術劇場 PLAT アートスペース
◼️開演/各日14:30
*7/8 短編二人芝居「つながるような」上演 17:30開演
◼️料金(税込)/
「ざくろのような」一般¥4,000 U25¥2,000 高校生以下¥1,000
「つながるような」一般¥1,000 U25¥500
◼️お問合せ/プラットチケットセンターTEL.0532-39-3090(10:00〜19:00 休館日除く)