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4月興行「陽春花形歌舞伎」で、11年ぶりに御園座にお目見えする中村勘九郎。自信を持って楽しんでもらえる作品をと、昼の部は、中村七之助が七役を演じる「お染の七役」を、夜の部は、勘九郎が三役に扮する「怪談乳房榎」を上演する。どちらも早替りが見どころのひとつになるが、「怪談乳房榎」はその上に、本水の滝での立廻りもあり、手に汗握る面白さがある。勘九郎への独自取材で、この演目の魅力や、名古屋への思いを聞いた。

「怪談乳房榎」は子どもの頃から憧れておられた演目だそうですね

そうなんです。これは、父(十八世中村勘三郎)が、(三世實川)延若のおじ様から習ったものなんですが、子どもの頃、お稽古をしてもらった父を母と迎えに行った際に、ものすごくうれしそうにその日習ったことを話してくれたのを覚えています。実際、父が演じているのを観たら、見た目にインパクトがあって本当に面白くて。とくに滝の立廻りが楽しく、シャワーがあれば必ず真似をしていました。大人になってからも、その見た目の面白さは変わりませんでしたが、父の芝居を観ながら、三役の演じ分けや、早替りの間合いや息の感じに、改めて衝撃を受けましたね。

それをご自身が演じられることになったのが2011年。その後、何度も演じられています。

初めてやらせていただくことが決まったときはうれしかったです。やってみたら、早替りのたびにお客様からすごく反応をいただいて、非常に楽しかったですね。歌舞伎の早替りにはいろんな種類があって、昼の部で七之助が演じる「お染の七役」ともまたちょっと違うんですけども。「乳房榎」では、主な立役の登場人物が4人しかいない中の3人を早替りで演じますから、言ってみれば、ひとりで物語を回していくようなものなんです。だから、大変は大変なんですけど、もちろん疲れるんですけど(笑)、疲れるだけの価値がある作品なんです。

演じられる三役は、絵師の菱川重信、その下男正助、うわばみ三次。三次は、重信の妻お関(七之助)を我がものにしようとする浪人磯貝浪江(喜多村緑郎)の旧悪を知る男です。演じ分けについても教えてください。

菱川先生は、最初にやったときは一番難しい役でした。というのもやはり、武士として生きていて絵師になった人の威厳や、そこにいるだけでおおらかさを感じる大きさを出さなければいけない役ですから、若いうちは出そう出そうとしてしまうんですね。もちろん今でも難しいんですけど、だんだん、いるだけでその人物に見えるようにはなってきたかなとは思います。正助は、浪江に翻弄されるようにして物語を動かしていく役どころで、キャラクターもとても立っています。僕の持ち味にはない役ではあるので、これはもう、父や祖父の息を勉強しながら勤めなければいけないもののひとつですね。そして、逆に僕の持ち味が活かせるのが三次かなと思っているのですが。悪い部分、暗い部分はもちろんのこと、その上に、色気が必要になってくる役なんじゃないかなと思います。父からは、芝居の流れやそれぞれのキャラクターのこと、台詞回しなどは教わりましたが、この演目は型があってないようなもので「役者の力で見せるものだよ」と言われたので。自分なりのものを作っていければと思っています。


前回の舞台より


ストーリー全体は、どんなところに面白さを感じられますか。

例えば正助は、忠実な下僕として生きていたにもかかわらず、欲望のままに生きる浪江に脅され、お金につられて師の子どもを殺すまでに至る。そこには人間の愚かさ弱さが表れていますし。うわばみと呼ばれて自分の得になることは何でもやる三次には、現代性がありますし。だからこそ、菱川先生の大きさも浮き立つのだと思いますが、簡単でわかりやすい筋立ての中に、いろいろな人間が登場するんですね。しかも、世話物ふうなところもあれば、義太夫が入るところもあり、最後には敵討ちまである。ダレるところがない。2時間ちょっとでいろんな歌舞伎が観られる、極上のエンターテインメント作品なんじゃないかなと思います。延若のおじ様から受け継いだものを父が本当に上手く組み立てたなと思うんですけど、父が教わらなければできなかったものですから、縁のある作品だと思って大切に演じていきたいですね。

名古屋では、どんなことを楽しみにされていますか。

御園座近辺では、祖父の(七世中村)芝翫との思い出の場所もありますし、父が馴染みにしていた店もありますし、必ず行っていた焼肉店やステーキ店にも行きたいですね。あと、劇場の近所の居酒屋にはたぶん毎日のようにいると思います(笑)。そしてもちろん楽しみなのは、名古屋のお客様です。芸どころと言われている場所ですが、東京で企画された公演が上演されないことも多く、名古屋へ持っていったときのお客様の爆発力、盛り上がり方というのは、すごいものを感じますので。今回も、喜んでいただけるんじゃないかなと思っています。


前回の舞台より


会見でも、若い人たちに観てほしい、初めて歌舞伎を観るにはもってこいの作品だとおっしゃっていました。

歌舞伎が難しいものだと思っている人には、本当にこういうわかりやすく、エンターテインメントの要素がいっぱい詰まった作品が、いいチャンスになると思います。また、(中村)鶴松、(中村)虎之介といった若い歌舞伎役者も出ているので、同世代の役者を観ていただくのもいいんじゃないかなと。彼らにはこれからどんどん力をつけていってもらいますから、注目していただきたいです。

今回は学割もありますからね。

はい。学生証をお持ちあれば年齢を問わず、2階席の当日券が半額になるそうですから。このいい機会を逃さないで、ぜひ劇場に来ていただければと思います。




御園座 公式LINEアカウント @212dssdd

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4/1 SATURDAY~4/22 SATURDAY
陽春花形歌舞伎
12時開演「お染の七役」
16時開演「怪談乳房榎」

■会場/御園座
■開演/12:00/16:00
※4/7(金)・4/17(月)は休演。
■料金(税込)/S席¥14,000 A席¥7,000
B席¥5,000 C席¥3,000
※学生割引あり。当日券・2階席のみ本人に限り各席種半額。要学生証。当日2階席が売切の場合、販売なし。
■お問合せ/御園座 TEL052-222-8222
※未就学児入場不可