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”安楽死法”が施行された近未来の高齢者施設を舞台にした『聖地』の上演から14年、もう一歩進んだ世界を描いた作品「終点 まさゆめ」が新たに誕生しました。最後の楽園を目指す宇宙船に乗り込む主要キャストは、オーディションで選ばれた65歳以上のシニアたち。即興芝居を交えながら、重いテーマを風刺の効いたコメディとして軽やかに描き出します。三重公演を目前に、作・演出の松井周が作品で目指すことを語ってくれました。
舞台は近未来。人生最後の日々を過ごす地・惑星「まさゆめ」に向かう宇宙船に乗り込んだ高齢者たちの姿が描かれます。この設定には、どのような意図がありますか?
「聖地」を書いた2010年頃より、今は自分の生と安楽死の距離が近くなっているように感じます。例えば、最適な死に場所をAIに推奨されたら、安楽死を選ぶ人がけっこういるんじゃないかと。身近に感じられるからこそ、この問題をリアルに描こうとすると重くてかなり生々しい話になってしまうので、フレキシブルに柔らかく捉えてもらえるように、舞台を近未来の宇宙船に設定しました。実際にはあり得ないことが起こる中で、自分ならどんな選択をするのか。そんなことを、安楽死と絡めて考えてもらえるといいなと思っています。
作品世界では、安楽死法が施行されているのですか?
基本的には安楽死が推奨されていて、高齢者たちは収容所のような惑星に連れていかれます。ある意味、殺されに行くわけですが、耳障りのいい誘い文句に釣られてポジティブに受け止めるんですね。本人たちに自覚はないのに殺されてしまう。それがAI社会の私たちなんじゃないか、という発想です。例えば、若い人に場を譲ることに名誉が付与されるようなムードが世の中にあったら、選んでしまう人はたくさんいるんじゃないかと。「最高の終活は誰にも迷惑をかけないこと」「自分の楽園で死のう」みたいな心地いい言葉が溢れていったら、どんどんそっちの方向に行ってしまうような感じが、今の日本にはあるような気がして。
この作品は、そんな社会の危うさへの風刺でもありますか?
そういうところはあります。今はみんな…僕も含めてですが、どんな生き方、どんな死に方をしたらいいか、わからなくなっているんじゃないかと思うんです。昨日までよしとされていたことが今日ひっくり返る、みたいなことがたくさんある中で、周りをうかがいながら考えてしまうというか。例えば、政府が危険なことをきれいな言葉に包んで言うことがあるかもしれないし、メディアも煽るかもしれない。さらに、自分自身がどういうポリシーを持つべきかも周囲をうかがっている状態というか…何かにつけて確信を持てないのが今の世の中だし、それらすべてを風刺というかコメディにしている感じはあります。自分が正しいと誰も言えない時代。そのことをどう思いますか?と、僕が皆さんに尋ねているような作品ですね。
価値観の大きな転換が起こっている世の中で、高齢者たちを主役にした作品を書かれたことも興味深いです。
舞台上で高齢者の方々が即興で演じる中で、価値観が常にころころひっくり返るような状況が起こります。そこで、どんなさまを見せてくれるのか。今回の芝居では、価値観がひっくり返った世の中から逃げ切れていない先輩たちに、これまで生きてきた知恵を見せてほしいと思っています。今、若い人たちも、タイパを気にしたり、コミュニティから外れる恐怖などで、追い詰められている状況なんじゃないかと思うんです。でも、老人の知恵でいろんなことを乗り越えていくさまを見せることができたら、勇気づけられる気がしています。
ハプニングが起こり、宇宙船から乗客をひとり降ろさなければならなくなる。その人物を決める乗客同士の会議シーンに、即興パートがあるんですね。
それを入口に、価値観がどんどんひっくり返るような会議を何度もしていきます。状況がどんどん変わっていく中で、価値観の移り変わりと人物の一貫性をどのように成立させていくか。それを即興で見せていくので、観客の皆さんも一緒にスリルを味わえると思います。演じる人自身の価値観や経験が、芝居にはもろに出ますから。もちろん役をまとった上で、ですが。だから、即興で出てきた台詞や演技が嘘なのか本当なのか、そこは追求していないというか、どっちでもいいんです。自分の経験と役を混ぜて、いかにその舞台で演じていくか、その流れを泳いでいくか、というところに面白さがあると思っています。
沈黙が起こってもいいと思うし。即興パートは毎回、結末が違うので面白いです。岡山公演では3回上演しましたが、全部違う展開になりました。僕も全然、予想がつかないんですよね。
今回は、OiBokkeShiの菅原直樹さんが、キャストとしてだけでなく演出協力としても参加されていますね。
菅原さんの高齢者の方との関わり方を真似しています。例えば、演技を「こうしてください」みたいなことは、ほとんど言わないようにしています。僕自身、演技のうまい下手について、どう考えていいかわからなくなることが時々あるんです。ある種の「巧さ」というものは、一定の基準があると思いますが、それで俳優の演技をラベリングしていくのは面白くないと思っていて。演技って、普段から日常でみんながやってる即興のことなんですよね。同じことを舞台でやるだけなんだから、そういう環境を作れば、その人物として存在できるはずなんです。だから、その存在の仕方だけを伝えれば、何かする必要はないんじゃないかと。
三重公演が目前です。
コメディにしていますが、内容はけっこうヘビー。登場人物たちは、いろいろ暗いものに囲まれた中で、選択を迫られていきます。観てくださる方が、ふっと笑って楽しんだ後に、今の自分や未来を重ねていろいろ考えてくれたら嬉しいですね。
◎Interview & Text /稲葉敦子
12/21 SATURDAY 12/22 SUNDAY
ハレノワ創造プログラム「終点 まさゆめ」
【チケット発売中】
◎作・演出/松井 周 ◎演出協力/菅原直樹
◎出演/久保井研、菅原直樹、申瑞季、篠崎大悟、荒木知佳
石川佳代、井上洋子、今栄敬子、小川隆正、竹居正武、山田浩司 [オーディションキャスト]
■会場/三重県文化会館 小ホール
■開演/各日14:00 ※アフタートークあり
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般¥3,000 22歳以下¥1,500
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL. 059-233-1122