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2014年よりNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団を主席指揮者として率いるアンドリュー・マンゼ。11/18(金)のオール・ベートーヴェン・プログラムによる名古屋公演を目前に控え、マエストロの考えるベートーヴェン像、交響曲 第3番「英雄(エロイカ)」についてなど、盛りだくさんに語って頂いたインタビューをお届けします。

―今回、多くの公演がオール・ベートーヴェン・プログラムになっています。このプログラムの魅力やマエストロにとっての思いをお伺い出来ますか?マエストロにとって「ベートーヴェン」という作曲家は、どのような存在でしょうか。

私にとってベートーヴェンは最も偉大な作曲家の1人です。同時にNDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団(以下NDR)と共に取り組んだ最初の作曲家でもあります。私が首席指揮者に着任した時、最初にオーケストラに「まずはベートーヴェンの交響曲を全曲やろう!」と言い、最初のシーズンにそれを実現し、その後もずっと共にベートーヴェンを演奏してきました。ベートーヴェンは私にとってとても大切な存在です。私は音楽が大好きですが、それがベートーヴェンのおかげだと言っても過言ではないのです。
幼い頃、ベートーヴィンのエロイカ(英雄)交響曲をよく聞きましたが、本当に大好きでした。先程もお話ししましたが、ベートーヴェンは私と私のオーケストラとの友情を築いた重要な存在ですが、今日のクラシック音楽界においても欠くことのできない存在です。ベートーヴェンは本当に素晴らしい作品の数々を作曲し、今日に至っても人々はそれを聴きたいと言う気持ちにさせられます。でも聴きごたえのあるものを聴くためには良いオーケストラが必要です。つまり、ベートーヴェンこそが良いオーケストラを生み出した、オーケストラを成長させた、とも言えるのです。ですから私はベートーヴェンに深く感謝していますし、ベートーヴェンはまさにクラシック音楽界に多大な貢献を果たした存在なのです。ベートーヴェンの存在なくしてハノーファーに管弦楽団は存在しなかったかもしれないし、こうして日本に伺うことだってなかったかもしれませんね。



―マエストロも何度も演奏されたことがある交響曲第3番「英雄(エロイカ)」ですが、
マエストロが思うこの曲についての魅力や聴き所をお教えください。

確かに度々指揮をしてきました。そして数ある交響曲の中でもお気に入りの作品です。さらには、日本においては過去にNHK交響楽団でこの作品を指揮しました。本当に素晴らしいオーケストラで、素晴らしいひとときを過ごしたのをよく覚えています。
では、交響曲はどのようなものか、といえば、音楽史において非常に重要かつ、素晴らしい音楽作品だと言うことです。第7番同様、聴いていて本当に面白い交響曲です。この作品を通して、ベートーヴェンは西洋におけるクラシック音楽を大きく一歩先に進めたのです。古典時代のハイドンやモーツァルトは美しく、完ぺきなまでの世界を築きましたが、そこからさらに先に歩を進めたのが、ベートーヴェンであり、この作品にそれを見て取ることができるのです。彼はロマンティックで、勇気があり、さらには我々に問いかけてくる音楽を作曲しました。「音楽とは何か?」と言ったことに留まらず、「世界はいったいどういったところなのか?」といった問いかけです。とても政治的な交響曲といえます。彼は政治的な決意とその表明をしました。私たちは厳しい管理のもとにある世界に住んでいるが、世界は変われるのだ、変えられるのだ、私たちは自由なのだ!と。そうです、この音楽は私たちが自由であることを歌っているのです。
例えば今生きている社会にルールがあるのなら、彼はそれに対してNOと言っています。NOと言う自由が我々にはあるのだと言っているのです。この交響曲の前半で、音楽が突然止まり、オーケストラがパニックになったかような状態になります。オーケストラの半分が演奏するメロディに対抗するように、残りの半分が異なるメロディを演奏をし、調性があたかもぶつかり合うような、そんなカオスのような状態を私たちは聴きます。異なるアイディアの衝突です。ここでベートーヴェンはたとえカオス状態に陥っても解決策は見出されるのだと私たちに示しているのです。
この英雄交響曲が登場するまでは、人々は音楽を聴いて、「素晴らしい」とか「美しかった」と感想を述べましたが、英雄交響曲を聴いた後に人々は「驚くべき、素晴らしい音楽だ、今私には世界が異なって見える。」「考え方が変わった。人々に対する考え方が変わった」と、感想を述べるようになったのです。ですからこの交響曲は本当に重要な交響曲なのです。


NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団©️Axel_HerzigNDR


―それでは、マエストロから見たこのオーケストラの魅力をお聞かせいただけますか?

ハノーファーを拠点とするラジオ放送響であるNDRは、名前の通り北ドイツのオーケストラであり、今まで何度も日本に伺っていますが、その折には必ずクラシック音楽を演奏してきました。でもオーケストラ自身は一か月に一週間ほどはクラシック音楽以外のレパートリーを演奏します。それはバロック音楽、古楽だったり、ジャズや映画音楽だったり、そして時にはポップスも演奏します。このような活動を通して、オーケストラは素晴らしい柔軟性を培うことができました。これはオーケストラにとって価値のあることです。異なる様式に対する認識力が優れているのです。
オーケストラによっては、自分たち独自の音を生み出し、それをあらゆるレパートリーにおいて用いることがあります。でも私がNDRでとても好きなところは、彼らがレパートリーによってふさわしい音色を生み出すことができるところです。画一的ではないのです。モーツァルトならモーツァルトの音色、ベートーヴェンならベートーヴェンの音色を、ブラームスの音色、現代音楽でも、彼等ならそれぞれの音楽において求められるすばらしい音色で奏でられるのです。実は今日(9月17日)、私たちはホルストの『惑星』を演奏します。英国で作曲された広大なる交響曲で、大編成のオーケストラによって演奏されます。SFを連想させるような様々な音色、きらめくような音とかが次から次へと出てくる作品です。ベートーヴェンとは大きく違います。つまり、このオーケストラの素晴らしいところは、この作品にはどんな音色が良いのか、常に考えているところなのです。ですから私のこのオーケストラは、今日はベートーヴェン、明日は全く違うレパートリーを演奏できて、聴いた人が「これって同じオーケストラ?」と思うほどそれぞれの様式を表現できるほどその音色は柔軟性に富んでいるのです。
それからもう一点、これは私にとってとても大切なことなのですが、今回、日本に伺って同じプログラムも何度か演奏しますが、私たちは決して同じコンサートを10回繰り返すのではなく、それぞれの聴衆のためのコンサートを行い、それが結果的に10回ある、ということをとても大切にしているということです。それぞれのコンサートは聴衆にとって特別なものであり、私たちにとっても特別なものです。それぞれのホールの音響も違えば、聴衆の方々も違う方々です。もしかしたら、オーケストラ音楽を今までに一度も聴いたことがない人がいるかもしれない、とか、ベートーヴェンの交響曲を初めて聴いたのかもしれない、とか、そのように考えて、どのコンサートも特別なものでなくてはならないと、常に自分に言い聞かせ、実践しているのです。それぞれのコンサートで私たちが生みだす音は、そのホールの音響、そして聴衆の皆さんがいらしているからこその音色であり、特別なものなのです。
私はオーケストラに、かくあるべきだし、必ずこのようにしなさい!と言うタイプの指揮者ではありません。まずはそのホールの雰囲気を感じ、そして聴衆を感じながら音楽作りをしていきます。これは特にツアーでは大切なことです。楽団員にも、「昨日と同じ曲を演奏するんだな」なんて、決して考えないように、と話しています。今日のコンサートは、新たなる、特別なコンサートなのです。これこそが私が最も大切にしていることです。実は私自身、コンサートに行くのが大好きなんですよ。ですから、もし指揮をしていないなら、きっと聴衆の中に座っていますよ。だから私自身が聴衆の一人として充分に楽しめるコンサートにしたいし、そうでなければなりませんね。

―今回のソリストであるゲルハルト・オピッツとの共演は今回が初めてとお聞きしています。

ゲルハルト・オピッツ©️HT/PCM

オピッツ氏との共演は、今回のツアーでとても楽しみにしていることの一つです。ドイツには豊かなピアノ音楽、演奏の伝統があります。私自身幼いころからヴィルヘルム・ケンプやアルトゥール・シュナーベルのレコードを聴いて、深い感銘を受けていました。ゲルハルト・オピッツはそのドイツのピアノ芸術の伝統を継承する演奏家です。ブレンデルもそうですね。彼をスペシャリストと表現すると語弊があるので嫌なのですが、…。実際に彼はスペシャリストと呼ばれたら、「私はドイツ音楽以外も弾きますよ。」とおっしゃると思います。でも、やはり彼のブラームス、ベートーヴェン、シューベルト、シューマンは、特別なのです。彼はこれらの作品と長く取り組んでいて、重要な教授でもあります。とにかく楽しみですね。彼の演奏は今、この時の現代の演奏でありながら、同時に素晴らしいドイツ・オーストリア音楽の歴史を感じさせてくれるものとなることでしょう。彼をソリストに迎えることはとても光栄なことです。

―最後に、日本のお客様へメッセージをお願いいたします。

日本に伺えることは幸せで、とても恵まれた機会を与えていただいたと思っております。日本には素晴らしいコンサートホールがあることは私もよく知っています。そしてそれ以上に素晴らしい聴衆がいらっしゃいます。皆様の集中力と音楽に対する強い関心、そしてコンサートの雰囲気を今でもありありと思い出すことができます。本当に日本はクラシック音楽の世界においても特別な国です。それだけに日本に伺って、実際に皆様を前に演奏するのを今からとても楽しみにしております。そしてただ音楽の美しさを楽しむのでなく、音楽と言う共通の言語を通して、みんなで一つの時を分かち合い、コミュニケーションを交わすことができたら、と思っております。残念ながら私は日本語を話せないのでお話はできないかもしれませんが、音楽と音楽の伝えんとすることを共に分かち合いたいですね。皆様とお目にかかるのを心より楽しみにしております。




11/18 FRIDAY 【チケット発売中】
Meitetsu BMW Presents
第40回 名古屋クラシックフェスティバル
NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団
指揮:アンドリュー・マンゼ ピアノ:ゲルハルト・オピッツ
◼️会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
◼️開演/18:45
◼️料金(税込)/S¥16,000 A¥13,000 B¥9,000 C¥7,000 D¥5,000 学生券¥2,000
◼️お問合せ/中京テレビクリエイションTEL:052-588-4477 (平日11:00~17:00)