HOME > Web 限定インタビュー > 「マハルコ組曲」インタビュー

愛知・春日井市でのロケ、愛知先行公開でも反響を呼んだ映画「フィリピンパブ嬢の社会学」が演劇化。
「マハルコ組曲」と題された舞台版は、映画から時をさかのぼる“エピソード0”の物語だ。
愛知発の作品ということで、名古屋のみでの公演というのも異例中の異例。
当地に来たフィリピン人と日本人の間には、どんな生き方や歴史があったのか。
原作となった書籍の著者であり、舞台版でも原作・原案を手がける中島弘象、
劇団「野生児童」の主宰・俳優で、今回の脚本・演出を手がける有田あん、
主演を務めるステファニー・アリアンが、新たに生まれるドラマへの想いを語った。

製作の経緯をお聞かせください。

中島:原作は2017年出版ですが、映画化されたことでやっぱりフィリピンの方がたくさん見てくださったんですね。この作品は本当に僕の実体験で、フィリピンパブで出会った女性と交際して結婚するという話なんですけど、見てくださった他のフィリピンの方々から自分たちはこうだったとか、いろいろな声を聞きました。それでプロデューサーの三谷一夫さんと「エピソード0みたいなものを作ったらいいんじゃいないか」という話に。フィリピンパブは80年代頃から行き始めた方が多いので、その人たちの話を無視できないというか。その人たちがいるから僕と妻が結婚できているので、そういった人たちのストーリーを描きたいなという想いがありました。日本に出稼ぎに来て、恋愛して結婚して、子どもを産んで子どもを育てていく中、日本人の妻となり母となり、孫ができた方もいるかもしれない。そういった人たちに取材したり、生活の中で見聞きしたことをベースに原案を書きました。

有田さんはどんな流れで作・演出に?

有田:最初は三谷さんとのつながりで何も考えずに「フィリピンパブ嬢の社会学」を見に行って、フィリピンの方とかフィリピンパブの雰囲気って舞台でやったらどうなるんやろうなと、見た時からやんわり思っていました。その後、今年の5、6月くらいに三谷さんから「舞台化しようと思うねん」と聞いて「いいと思ってました」と言ったら、「演出どう?」みたいな流れになって「私で良ければ」と。中島さんの原案を拝見して、私自身が台湾と日本のハーフなので、自分の体験と通ずるところもありました。それで自分が演出するなら自分で書いたほうが効率的なところもありますし、血筋のこともあって原案に自分との共通点も感じたので、脚本も担当させていただくことになったんです。

舞台版の軸はどういったところになりますか。

有田:「フィリピンパブ嬢の社会学」と大きく違うのが、子どもがいて成長して、高校生くらいになって思春期を迎え、自分がハーフというアイデンティティをしっかり認識する点なんですね。そこで、あらためてお母さんと向き合うのが映画と大きく違う。子どもという新しい存在を入れたところで、どういう家族であるのかを見つめ直し、受け入れていくのが終着点というか……。そういう方向でストーリーが進んでいる気はします。

ステファニーさんは台本にどんな印象を持ちましたか。

ステファニー:台本を読んで、中島さん、有田さんに対してありがたく思いました。光栄な物語です。「フィリピンパブ嬢の社会学」はどこにもないオリジナルストーリー。フィリピンにもこういった映画や本はありません。舞台版も同じで、オリジナルな物語になっています。私はフィリピンで生まれたハーフですが、私より下の世代はちょっと考えが違うかもしれない。最近の人はフィリピンと日本のハーフであることをあまり言いません。少し恥ずかしいと思っているからなんですが、それを変えたいなと。私はフィリピンと日本のハーフであることに誇りを持っています。フィリピンでは、フィリピンとどこかの国とのハーフであっても特別視されない。でも日本に引っ越して、日本におけるフィリピンと日本とのハーフに対するイメージには驚きました。日本では下に見られているように感じるんですよね。また日本人はハーフも外国人だと見るむきが強いので、子どもの時どちらのアイデンティティなのか揺らぐ現象も起きます。でもこの舞台を見た後には、考え方が少し変わるんじゃないかと。日本で暮らすフィリピン人やハーフである子どもたちの、良いところも難しい問題も描かれるので、中島さんと有田さんには感謝しています。

正直これはフィリピンの“女性”の話ではないかと……。男女を逆転した場合、結婚などの事例は少なくなりますよね。彼女たちの社会進出や経済的自立の難しさを感じるんです。

ステファニー:でも、それは世界の問題じゃないでしょうか。世界中のどこでも女性は性的な状況に置かれ、それを取るに足らないこととされてしまう。日本に来たときは歌やダンスで身を立てることを考えていても、女性が男性から性的な目で見られることは、今も昔も普遍的で変わらない問題です。例えば女性はホストクラブであっても男性をリスペクトしていますが、男性は女性をお金で所有しようとするし独占しようとする。私は「フィリピンパブ嬢の社会学」「マハルコ組曲」に携われて幸せです。国籍や性別に関係なく、一人の人間同士として向き合うことの大切さが伝わると思います。

なお、有田が監督・脚本・主演を務めた映画「渇愛の果て、」が9月28日(土)~、名駅のシネマスコーレでロードショー。有田は同作でも妊娠や出産という普遍的な問題と果敢に向き合っている。「マハルコ組曲」に先駆けて鑑賞してみてほしい。

◎Interview&Text/小島祐未子



11/28 THURSDAY~12/1 SUNDAY
舞台「マハルコ組曲」
【チケット発売中】
■会場/ささしまスタジオ
■開演/11月28日(木)・29日(金)19:30 30日(土)13:00、18:00
12月1日(日)11:00、16:00
*各回上演20分前よりミニライブあり 
*11月30日(土)は各回アフタートークあり
■料金(税込)/<前売>一般・パンフレット付¥5,500 一般¥4,000
<当日>一般¥4,500
■お問合せ/キョウタス:info@kyotas.co.jp
※未就学児入場不可