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「仲原裕之×藤森陽太」Web 限定インタビュー取材日:2014.02.05
20代〜40代の女性を中心に圧倒的な支持を得ている劇団スタジオライフ。
男性ばかりの俳優陣と女性演出家が生み出す
美しく繊細な舞台が高く評価されています。
中でも、萩尾望都、手塚治虫、
東野圭吾などの漫画や小説を舞台化した作品には定評があり、
最新作では皆川博子の「少年十字軍」に挑み話題となっています。
3月の名古屋公演を前に、出演俳優ふたりが意気込みを語りました。
皆川博子さんの原作を倉田淳さんの脚本・演出で上演する「少年十字軍」。原作や脚本を読まれてどんなことを感じましたか?
仲原:うちの劇団は原作を大切にしています。倉田さんが言っていますが、「少年十字軍」で描かれていることは今の世の中に凄く通じる部分があるんです。純真無垢で一生懸命に生きようとしている子どもたちが大人たちに翻弄されていく。その中でも、どうやって生きていこうかと葛藤している人がたくさんいると思います。僕ら自身もいろいろな葛藤と闘いながら役者をやっていますけど、そういう部分でとてもシンパシーを感じるような作品だなと思います。
今回、藤森さんが演じるエティエンヌは、大天使ガブリエルの啓示を受け少年十字軍を率いるという重要な役どころですね。
藤森:エティエンヌは、羊飼いという下層階級の少年です。自分の存在意義すらわからず、コンプレックスを抱いているような少年が神に選ばれてしまう。そして「エティエンヌがいれば大丈夫」と周りの少年たちがついて来てくれて、自分が率いるという形になってしまいます。でも自分にはそんな力はないし、神に選ばれたということ自体も本当なのか?夢だったんじゃないか?と悩んだり…。そんな自分自身に対する問いかけをしたり、大人たちに翻弄されながら旅をしていく中で、彼自身も成長していく。これは、エティエンヌの成長の物語でもあると思います。
どのように演じようと思われていますか?
藤森:稽古場で倉田さんから言われたのが、エティエンヌは自分の意志で少年たちを率いているのではなくて、巻き込まれていってしまい周りが動かしてくれている、という感じを出しなさいということ。だから、今、何を考えているのか、どんな思いがあるのか、どんな悩みを抱えているのかということをセリフに頼らず表現しなければならない。たとえ舞台上でフォーカスが当たっていなくても。でなければ最後に繋がらないんです。だから、常に周りの言葉や状況にヴィヴィッドに反応するということを稽古の段階から心がけています。
仲原さんが演じるベルトランはどんな人物ですか?
仲原:レイモンという伯爵の息子の従兄弟なんです。自分の父親が亡くなってレイモンの家に引き取られたんですね。だから、ベルトランの方が年上だけどレイモンとは主従関係にある。物語で描かれている時代は戦乱が続いていたりして、領主といえども生活が厳しかった。そういう中でも自分は騎士にしてもらったという恩義や引け目のようなものをベルトランは感じています。ふたりは主従関係にはあるけれど、お互い兄弟のように思い合っているんです。そんな関係性が劇中でにじみ出てくるといいなと。普段は「レイモン殿」と呼んでいるんだけど、ピンチになったら「レイモン」と言って助けに行ったり…。そういう原作には描かれていない部分を、レイモンを演じる鈴木翔音とお互いの立っている空気や思いで出していけたらいいなと思っています。
脚本・演出の倉田さんは、かつて「自分は、役者から出てくるものを待つタイプの演出家。役者一人ひとりにスイッチ入る瞬間を待っている」とおっしゃっていました。今回の稽古中、そんな瞬間はありましたか?
藤森:これまで演じてきた役は、少し自分とリンクしたところがあったり、自分がこうやりたいとか、こうやってみたいということを提示して、演出家と作る感じでした。でも今回はどこから始まればいいんだろうというのが本当にわからなくて、ダメ出しも凄く多くて(笑)。僕が原作を読んで抱いていたエティエンヌのイメージと演出家の求めるイメージが全然違ったんですよ。言葉とかセリフにすごく囚われていて、違う方向に行っていました。でも稽古を重ねていくうちに、最後にいるエティエンヌがどういう人物でいればいいかというのがわかったんです。そこから逆算していって、最初はこういう風にいればいいのか、というのが最近やっとわかってきました。スイッチとはまた違うんですけど、倉田さんがおっしゃることに何かピーンときたんです。じわじわというよりは…。
仲原:僕は、最後のシーンでベルトランという役として他者を受け入れられるようになったことですね。身分制度の厳しかった時代に、騎士である自分が身分の低い子どもたちと一緒に苦しい旅を続けながら追い込まれていく中で、少しずつですけど心を開いていくような変化を自分の中で感じられた瞬間があって。途中でレイモンが怪我をするんです。ベルトランは彼を弟のように思っているし主人でもあるので凄く心配します。そのとき、子どもたちに助けてもらうんです。でも自分の立場があったりして、なかなか「ありがとう」と素直に言えない。当時の騎士たちが身分の低い人を受け入れるというのは、相当難しい時代だったのかなと。そんな中で心を開くという感覚を、稽古を続けていくうちに自分自身が得られたんですね。
そこまで役を深く掘り下げられた仲原さんの演技をご覧になって、倉田さんはどんな反応をされましたか?
仲原:あんまりないんですよ(笑)。ほかに若い役者がいっぱいいるので、僕たち中堅とか上の人たちは「みんなやって、任せたよ」みたいな感じで。任せてくれているのかもしれないし、泳がされているのかもしれない(笑)。
稽古場の雰囲気はどのような感じなのでしょう。
藤原:今回は少年が中心の物語なので、僕も含め若手が凄く多かったんです。子どもたちのシーンから始まるので、お客様を引き込む力が必要だと思うのですが、やっぱり若手ばかりなので全然先に進めなかったり…。でも、倉田さんは優しいですよ。昔は厳しかったとよく聞くんですけど。
仲原:僕なんか泣かされたことがある(笑)。稽古場で初めて泣きました。本当に出来なくて、出来なくて。自分のことでいっぱいいっぱいだったので、「そういうことじゃないだろう」と。今回は、文字通り少年たちがいっぱい出てくるので、やっぱり若い俳優たちはまだまだ自分のことで精一杯だったり、お互い横にいるのに感じてくれなかったりということもあったりします。うちの劇団は、技術ではなくてお互いを感じるとか人と人との関係性で芝居を作っていくことに重きをおいているので、若いときは難しいんですよね。自分のことに一生懸命だし。でも、登場人物の関係性が空気として出ないとやっぱり嘘になってしまう。もちろん演劇や芝居は嘘をつくことなんだけど、でも嘘の中にリアルな関係がないと絶対に真実も見えない。うちの劇団はそれをとても大切にするんです。
倉田さんの書かれる作品の世界観の魅力を演じる側としてどのように感じていらっしゃいますか?
仲原:倉田さんの作品は僕らみたいな劇団じゃないと体現出来ないんじゃないかという思いが凄くあります。僕もよそで客演することも多いですが、やっぱり1ヶ月ぐらいで芝居を作っていくので、役者同士でそれほど濃い関係性を築くことは出来ません。僕らは1年を通してほとんど一緒にいて、やっぱり同じ釜の飯も食うし、酒も飲みに行くし、稽古でぶつかったりディスカッションしたり、同じダメ出しを受けてへこんだり出来る。そういう時間が絶対大切だと思うんです。共に舞台に立つ者同士にリアルな関係がないと、どれだけ技術があっても希薄な芝居になると思う。そういう人間関係がまず第一にあって、その上で倉田さんは絶対に原作を大切にします。「少年十字軍」の皆川博子先生の魂だったり「トーマの心臓」の萩尾望都先生の魂だったり。そこを絶対に大切にするので、その魂を汲んで僕らが体現していくんです。
藤原:たとえ下手でもなぜか涙が止まらないとか、そういう芝居の方が観ていて面白いと思うんです。そういったことをすごく大切にしているなと思います。どんなにグチャグチャな動きをしても、感情が凄く出ていれば倉田さんは何も言わないんですよ。「立ち位置がちょっとずれていたから後で修正して」と言うぐらい。見た目よりも中身を大切にしているんですよね。そうやって作られる芝居は、やっていても見ていても凄く楽しいです。
男性ばかりの劇団であるスタジオライフは、歌舞伎やシェイクスピア劇のように本来の演劇の形なのかなと思います。劇団としてのスタジオライフの魅力をどのようにお考えですか?
仲原:平たく言うとシャイな体育会系の集まり(笑)。女役もやるし、子ども役もやるし。かといって、声を作ってしなを作って…という女役はやらないんですよ。大切にするのは、本質的な人間の気持ち。それがたまさか女性だったり、男だったり、おじいちゃんだったりおばあちゃんだったり、子どもだったりするだけで。見せたいのは人間の気持ちの本質。そこにこだわっている劇団ですね。
今後を見据え、劇団の中でどんな役割を担っていきたいですか?
仲原:僕は今、劇団の中では副リーダーをさせてもらっているので、もっともっといろんな人間と関わっていきたいと思っているんです。新しく入ってくる人とも深い人間関係を築いて芝居作りをしていきたいし、やっぱりそういう集団でいたいなと凄く思うので、そういうことに自分の力を注いでいけたらなと思っています。
藤森:もう少し落ち着いて周りを見られるようになりたいですね。以前「11人いる!」で仲原さんがなさった役を演じさせていただきましたが、先輩の芝居を見て「こうすればいいんだ」と思えたことがとても多かったんです。今回は後輩とダブルキャストなのでうまくアドバイス出来ればいいのですが、自分のことで精一杯になっちゃったり…。どこかに余裕が欲しいですね。そういう役者に早くなりたいなと思います。
名古屋公演は東京での公演を終えてからになりますが、意気込みをお聞かせください。
仲原:毎年名古屋で公演させていただける機会があって本当に嬉しいです。たぶん、東京で1ヶ月近く公演した後で、今僕らが話していることとはまた全然違った解釈というか、切り口が生まれてくると思うんです。もっともっと深くなってくるだろうし、公演の中でいろんな発見が出てくるはずです。それを踏まえて最終的なものを名古屋でお見せできると思うので、より深いところでの「少年十字軍」を楽しみにしていただければ。
藤原:それから、名古屋の皆さんにもスタジオライフを知っていただきたいですね。東京だけでしか公演出来ないときもあるので、名古屋公演が出来るのは凄く嬉しい。この機会にスタジオライフの良さも伝えられたら嬉しいです。
3/8 SATURDAY・3/9 SUNDAY
「少年十字軍」
チケット発売中
◎原作/皆川博子
◎脚本・演出/倉田 淳
◎出演/3月8日(土)山本芳樹、松本慎也、藤森陽太、田中俊裕
鈴木翔音、仲原裕之、原田洋二郎 ほか
3月9日(日)松本慎也、山本芳樹、久保優二、千葉建玖
原田洋二郎、牧島進一、仲原裕之 ほか
■会場/名鉄ホール
■開演/3月8日(土)15:00 3月9日(日)13:00
■料金/全席指定
一般¥5,600
学生¥3,000(当日券のみ・要学生証提示・ご本人様のみ有効)
■お問合せ/スタジオライフ TEL:03-5929-7039(平日12:00〜18:00)
※未就学児入場不可