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歌舞伎界の次世代を担う女方、中村児太郎が名古屋能楽堂に初登場。
立役の中村隼人さんとともに「いぶき、特別公演」を開催する。
同じ歳の隼人さんと切磋琢磨しながらチャレンジするこの公演では
それぞれが踊る『雨の五郎』『藤娘』に加え、二人で共演する『二人椀久』と、
舞踊3題を披露。能楽堂にふさわしく、夢、幻の世界を出現させる。
児太郎が全国公演にかける想いや、鑑賞のコツなどを語ってくれた。

能楽堂での公演経験は?

能楽堂では昨年10月と今年3月の公演、2回だけです。凄く緊張しましたよ。能楽堂は客席がL字型になっていて、正面・中正面・脇正面の3つがあり、表現の仕方が難しい。歌舞伎は通常、正面にしかお客様がいないので、真横にお客様がいるのはものすごく神経を遣いました。振付が変わるというより、どこに向かってどう表現するかが問題なので、やってみないとわからないこともあります。名古屋能楽堂は初めて立ちますが、稽古場にお邪魔したことはあって、能楽堂そのものなのか歴史的な土地のせいなのかはわかりませんが、強いエネルギーを感じた思い出があります。

演目はどのように選びましたか。

お互いに一人で踊るものは、今の年齢でやっておいたほうが良い演目を選びました。
『雨の五郎』について言えば、立役の一人踊りの中では基礎中の基礎でありながら、いちばん難しいとも言える。だから、この時期の隼人さんがやっておいたほうが良いという話でした。私が踊らせていただく『藤娘』は一人でも二人でも6、7回は踊ってきました。その上で現状の自分がどう勤められるのか、チャレンジの意味で選ばせていただきました。『二人椀久』は二人で踊れるものの中から、ゆくゆくを考えて決めた演目です。


©️宣伝写真:LESLIE KEE(SIGNO)

何度も向き合ってきた『藤娘』を今どう捉えていますか。

『藤娘』は祖父・芝翫から直接習った数少ない演目の一つなんですよ。12~3歳の頃で、言われたとおりやるしかなく、固くていかにも男の子が踊っている感じでした。それから7年後くらいに一人で踊る機会をいただいて、よくわからないという心境からちょっとわかったような感覚を得たと記憶しています。その後、玉三郎さんとご一緒させていただいり、梅枝さんとご一緒したり……。何度も舞台を重ねる中、玉三郎さんには「一つひとつの踊りの意味を大事にしなさい」と教えていただきました。そして祖父からの「幼稚園、小学校、中学校、高校というレベルにつれ、上がっていくんだよ」という教えも少しはわかったのかなと。ただ、今のレベルがどこなのか問われたら、わかりません。最初に踊った時と今とでは感性が違うので、見えてきたことがいっぱいある半面、考えることも多い。振付、意味、感情を踏まえ、風情やシルエットで舞踊として表現する……。極論ですね。

舞踊の楽しみ方を教えてください。

舞踊はセリフがない分、唄の歌詞や踊りの意味に意識がいきますが、最初はわからなくてもいいと思うんです。たとえばタップダンスやジャズダンスを初めて観た時、何を踊っているのかわからなくても心奪われる瞬間はありますよね。日本舞踊も、踊っている様子をただ観てもらえばいいんです。難しいことは後回しにして、目の前の幻想的な世界に何か感じていただくのが大事じゃないかと。初めての方は単純に「素敵だな」と思ってもらえたらいいですし、そう思っていただけるよう心で伝えることが重要だと考えています。

レスリー・キーさんがスチール撮影で参加されていますね。

©️宣伝写真:LESLIE KEE(SIGNO)

今回の企画・制作に関わる方々のご尽力で世界的写真家のレスリーさんとお引き合わせいただいたんですが、撮影風景が非常に面白くて。彼は頭の中にあるイメージに被写体をはめていくんですけど、いい時は「Good! Okay,okay! Stay,stay,stay!」とか、良くない時は「こっち向いて」とか、とにかく仕事が早い。レスリーのスタッフには中国語や英語、私たちには日本語で話しかける状況も面白かったです。あと、彼は私たちの伝統芸能にすごく興味を持ってくれていたんですよ。扮装した女方を撮るのは初めてだったそうですが、衣装や鬘が示す意味やその背景を知って、そうとは見せないで置いていることが洒落ている、歌舞伎の文化はレベルが高いと言っていました。本当に柔和でセンスがある人。俳優人生に影響するほど刺激を受けましたね。

コロナ禍での活動にはご心労も多いかと……。

まだまだ胸を張って「お越しください」と言える時期ではなく、ましてや歌舞伎は必ずしも生活に必要なものではありません。ただ、自ら諦めたら本当に歌舞伎がなくなってしまうので、熱い想い、魂を持って取り組むことが大切になります。今回は二人の責任公演なので、千穐楽まで感染者を出さないという緊張感の中、対策を徹底して無事に千穐楽を迎える。並行して、高いレベルの舞台を目指し、お客様に来て良かったと思っていただけるよう努めるだけです。それが「また来たい」につながる第一歩となることも願っています。


6/18 SATURDAY
中村児太郎 中村隼人
「いぶき、特別公演」


チケット発売中
■会場/名古屋能楽堂
■開演/12:00/15:00
■料金(税込)/全席指定 ¥7,500円
■お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL052-241-8118 Zen-A(ゼンエイ) TEL03-3538-2300
■協力/松竹株式会社