HOME > Web 限定インタビュー > 「加藤和樹」インタビュー

ゴシックロマンの名著『フランケンシュタイン』を、大胆なストーリー解釈とメロディアスな音楽でミュージカル化した、韓国発の作品。
人類の「生命創造」への飽くなき探求と「愛と友情」をテーマにした、壮大でスピード感あふれる衝撃の物語です。
心優しい人間「アンリ」と、死から甦らされアンリの記憶を失った「怪物」の2役を演じる加藤和樹の思いとは-。
1月リリースの配信シングル第3弾『片想い』についても伺いました。


ミュージカル『フランケンシュタイン』の再演が決まり、すでに東京公演が始まっていますね。

はい、現在公演中です。

3年前に名古屋で、初演の大千秋楽を迎えられましたが、ステージから見た景色はいかがでしたか。

すごかったです! あれだけ大きな劇場(愛知県芸術劇場大ホール)で満席というのはなかなかないので。あの景色をもう一度見られるかもしれないと思うと、楽しみです。劇場が減り、名古屋の大きな会場でミュージカルができることが少なくなってきたので、とても光栄です。地元でもありますし。

再演が決まった時のお気持ちは。

わりと早い段階で再演のお話を頂き、嬉しかったですね。いろいろな作品を経ての再演なので、パワーアップしなければいけない部分もありましたし、またあの大変な役を演じるのかと思うと、気持ちを1つも2つも入れ直さなきゃなと思いました。

その大変な「怪物」を演じるにあたり、稽古場ではどうでしたか。

楽しみの方が大きかったですね。楽曲もセリフもほとんど覚えていました。思い出しながらやることももちろんありましたが、頭が忘れていても、体が初演の動きや感覚を覚えていますので、それを新たに上書きしなければいけないという葛藤はありました。自分では新しいことをやっているつもりだけど、あまり変わり映えがしなかったりも。無理に変える必要はないんですけど、いいところは残しつつ。

初演の課題は再演に活かし、よかった部分は残して、と。

そうですね。初演の時は楽曲にふれるのも初めてだったし、とにかくみんなで試行錯誤しながら作り上げていった勢いがすごくあったと思うんですね。今回の再演では、その勢いだけではなく、深みのある、楽曲の理解や芝居の解釈をみんなで目指しました。無駄なものが削ぎ落されて、ブラッシュアップされていると思います。

実際に東京公演が始まり、出演者のみなさんの様子はいかがですか。

みんな、楽しんでいますね。演出家の板垣さんが、とにかく「楽しんでやってください」と言ってくださるし、再演から参加の新たなメンバーが新しい風を持ってきてくれているので、すごくいい化学反応を起こしていると思います。

怪物は苦しいシーンもありますが、楽しめていますか。

僕は虐げられたりいじめられる方ですが、どちらかというと、逆のいじめる立場の方が難しいと思います。人って、普段汚い言葉を吐かないし、人に唾を吐いたりしないじゃないですか。だから、みんな最初は稽古で躊躇するんですね。そこで、過去に「魔女狩り」があった話を演出家の板垣さんがされて、何かしら理由を付けて人を祀り上げることが歴史的に繰り返されていたことを理解しながら、みんな演じています。

怪物を演じることで、引きずったりしませんか。

初演の時ほどではないです。初演の時は、公演が終わってもしばらく魂が戻ってこないことがあったんですけど、今回は、いい意味で抜きどころというか、スムーズに戻るというか。それは、初演を経験したからこそだと思いますが。今回は、楽しんでやれていると思います。なかなかまだカーテンコールでは戻れないですけど(笑)


友だち思いの優しい「アンリ」から「怪物」に至るまで、気持ちの振り幅が大きいと思われますが、気持ちの持って行き方は、稽古で培ったものですか。それとも、役のエネルギーに引っ張られているのでしょうか。

どちらかというと、後者ですね。自分が物語にちゃんと没入できれば、そこへ行けるという感覚です。シーンが飛んだり、間が描かれていない部分をいかに埋めるかということが、ひとつの手だと思います。

初演時は、闘技場でアドリブのシーンがありましたが。

今回はほとんどないです。全くないわけではないですが。そのシーンは、演出家の板垣さんがフリーに演出をつけられていますが、初演に比べて再演は無駄なものを削ぎ落して、実質公演時間も短くなっています。

初演後から3年の間に多くの主演作品を経験されることで喉の使い方が変わってきたと思いますが、歌い方に違いや新しい発見はありましたか。

初演の時に比べると、再演の方が、自分が思う表現ができるようになりました。今までいろいろな楽曲に触れてきたことによって、成長してきたんだな、と。自分でも感じる瞬間がありました。初演の時は、自分が表現したいことがあっても、テクニカル的なところが追いついていなかったりしましたが、今は、より音楽に寄り添った芝居の歌い方ができるようになったと感じます。曲のレンジ(範囲)が広く、高いところに合わせて全体のキーを下げると、今度は低いところが出なくなったりして、初演ではキーの問題がありました。初演ではキャストによってキーを変えていましたが、再演では、キャスト全員が同じキーで歌っていると思います。役にあったレンジが絶対にあると思うので、その中で自分がどう役の気持ちを表現するかが一番大事だと思います。お芝居として歌うわけですから、ミュージカルとしてそこが楽しいところでもあり、難しいところでもあるんですけど。

「くま、おいしい」という怪物のセリフが、初演から名物になっています。「熊カレー」が商品化されたり、初演時は各劇場に「熊の置き物」が設置してありましたが。

なかなかないですよね、こんな熊推しの作品も(笑) 一切、熊は出ないのに(笑) 今回も、熊の置き物ありますよ。初演の時、劇場が変わるたびにだんだん置き物が大きくなっていって。博多には、等身大の熊の剥製(はくせい)が楽屋にあって驚きました(笑) 嬉しいですけどね。

「怪物」と「熊」はセットなんですね。

こちらは、「くま、おいしい」ってセリフを言わなきゃいけないじゃないですか。だから、複雑な気持ちですね(笑) 再演の初日、「くま、おいしい」って言ったら、客席で笑いが起きていましたから。「やっと聞けた!」て感じなんでしょうね(笑) でも、そのセリフを怪物が発することで、言葉を少しずつ取り戻していく大事なシーンなんで。感情がなにもつながっていないところに、「熊」という名称や、「おいしい」という感情が、全部つながった瞬間のセリフでもあります。


切ない最後のシーンは、どのようなお気持ちで迎えていますか。

人によって解釈は違うと思いますが、僕は、怪物としてハッピーエンドだと思っています。なぜなら、ビクターに復讐が果たせたからです。ビクターの大事なものを1つ1つ奪っていって、孤独を味わわせることが望みだったので。そして、ビクターにとって怪物(=アンリ)は大切な人なので、最後に怪物を殺させることで、ちゃんと復讐が果たせるということだと思っています。自分の死によって復讐が完結するというか。ビクターのお芝居や、ビクターと怪物の関係性にもよりますが、そのあとのビクターはお客さんに委ねています。あのまま北極で息絶えるのか、怪物を連れ帰ってまた生き返らそうとするのか。いろいろな想像はできると思うので、そこも楽しんでもらえれば。

配信シングル第3弾として、浜田省吾のカバー曲「片想い」をリリース。曲への想いなども、語っていただきました。

選曲は、どのように決められましたか。

以前、自分のカバーライブで歌ったことがあったんです。とてもシンプルですけど、深みもあるし、そこに込められている想いに、自分も共感できるというか、感銘を受けたんですね。昔の名曲を今カバーすることで、知らない世代の人たちにも届けたいという思いもありました。
原曲の良さを活かしつつ、自分が感じたままの想いを込めて、レコーディングさせていただきました。

歌詞に「あの人」とありますが、どのようなイメージでレコーディングされましたか。

今まで片想いが多かったので、片想いの気持ちはものすごく分かります。実際には、片想いをしていた人を「あの人」にはめるというより、片想いしていた頃の想いを込めるという感じです。「あの人」は、もう手の届かないところにいるんだろうな、と。それが、結婚なのかは分かりませんが、絶対叶わないと悟る瞬間って、絶対あると思うんですよ。それに気づいた時の曲だと思います。忘れたくても忘れられないんですよね、人って。いつかは忘れるんでしょうけど、恋のエネルギーって、本当にすごいなって思います。だからこそ、恋愛の曲が多いと思いますし。

ミュージカルや音楽アーティスト、声優など、多岐に渡って精力的に活動されているご自身に、もしふさわしい肩書きがあるとしたら、なんでしょうか。

「チャレンジャー」、ですかね。自分の好きな言葉が、「やればできる」なので。やりたいと思ったことはやりたい。でも、やるからには、足りないものが多い。やりたいことに挑戦するからには、知識を身につけ、経験を積んでいないと決して成功しないので、そこに付随するトレーニングを、ちゃんとしなければいけないと思うんですね。人生、チャレンジだと思っています。今回も、『フランケンシュタイン』の再演があることでまたチャレンジできると思えることが嬉しいです。

取材・文・写真/LeeSa
写真提供/東宝演劇部


2/14 FRIDAY~2/16 SUNDAY
ミュージカル「フランケンシュタイン」
チケット発売中
◎出演/中川晃教 ・ 柿澤勇人 (Wキャスト)
加藤和樹 ・ 小西遼生 (Wキャスト)
音月 桂、鈴木壮麻、相島一之、露崎春女、ほか
■会場/愛知県芸術劇場 大ホール
■開演/2月14日(金) 18:00(中川晃教、小西遼生)
2月15日(土) 12:00(柿澤勇人、加藤和樹) / 17:00(中川晃教、加藤和樹)
2月16日(日) 12:00(柿澤勇人、小西遼生)
■料金(税込)/全席指定S席¥13,500、A席¥10,500、B席¥7,500
■お問合せ/キョードー東海 (052)972-7466