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愛知を拠点に世界で活躍する和太鼓奏者・神谷俊一郎。演奏だけでなく、プロデュース、演出でも手腕を発揮し、舞台芸術としての和太鼓の可能性を追求し続けています。その結晶ともいえる新作「ツァディク」が、まもなく世界初演を迎えます。
和太鼓と演劇を融合させた新しい総合舞台芸術として生み出されたのが、前作の「ジッグラト」です。目指したのは、どんなことでしたか?
Drum TAOや鼓童での活動を経て独立し、オリジナルの表現・作品づくりをどうするか考え続ける中で、静岡を拠点に活動する劇団SPACとのご縁がありました。芸術総監督の宮城聰さんの演出と棚川寛子さんの音楽が大好きになって。お話しさせていただいたり、作品に出させていただいたりする中でその考え方に共鳴して、太鼓でもやれるんじゃないかと強く感じるようになりました。和太鼓の舞台は基本的にノンバーバルで、肉体表現や音楽でストーリーを描き出します。でも演奏しているとき、心の中には言葉がたくさん生まれているんですよ。無意識に無我夢中で打っているときも、「きっと相手はこう言ってるから、僕はこう返す」という言葉のやりとりが、心の中で起こっていると思います。パーカッションとセリフで進行していくSPACの作品づくりは、僕がやってみたいことと合致していました。棚川さんが作る音楽は、メロディに台詞が乗って初めて完成するんです。和太鼓の世界にも、口唱歌(くちしょうが)といって、太鼓の音やリズム、叩く場所などを言葉で表現して伝える文化があります。近年は和楽器も西洋音楽と融合する機会が多くなり、Aメロ、Bメロ、サビ…と、J-POPのような楽曲の展開も増えています。でもSPACの皆さんと出会って、原点に立ち返りながらも、日本人としてのフィルターを通して過去のものを現代化する演出に感銘を受けました。それで、太鼓の世界でやっていないことにゼロから挑戦したいと、脚本・作曲・演出に取り組んだんです。
前作を上演してみて、いかがでしたか?
二日間で4公演ありましたが、1回目を観た方が会場でもう一度チケットを買って2公演目を観る、という現象が起こりました。そういう方が何十人もいらしたそうで、驚きましたね。その後、エストニアの芸術祭 “Tartu2024”に招待されるなど、海外でもミニバージョンを上演することができ、手応えを感じる作品になりました。
第二弾は、カインとアベルをモチーフにした「ツァディク」。旧約聖書では、カインは弟のアベルに嫉妬し“人類最初の殺人”を犯した人物として描かれています。
この作品では、カインを完全な悪者としては描いていません。彼の弟に対する気持ち、神への思い、自分の中で抱えている人間模様のようなものを、なるべく芸術的に美しく日本の楽器で表現できたらと考えています。
今回は音楽監督に棚川寛子さんを迎え、劇団SPACの俳優たちも参加されます。
音楽は、棚川さんが作られたものが8割、僕が作ったものが2割ぐらいの構成です。でも、きっちり分けているわけじゃなく、うまく融合させています。僕はカインを演じますが、台詞だけじゃなく、音楽に合わせて祝詞のような言葉を発したり、もちろん太鼓の演奏もします。ほかの奏者も同じです。劇伴のように台詞との境界線を引くものがなく、演技をしていたらそのまま自然と演奏しているような構成。この感覚は珍しいのではないでしょうか。
神谷さんは俳優としてステージに立たれるのですね。台詞を発して演技するのは、和太鼓の演奏とは全く異なるものですか?
僕の感覚ですが、役者さんは自分を空の器にしていろいろな役柄を取り入れられていると思うんです。プロフェッショナルとしての訓練が必要なことで、僕にはできません。僕が普段やっているのは、太鼓をガッと打っているときに感じている心情をそのまま表現すること。棚川さんとも相談して、この作品でもそのスタイルを取り入れています。ありのままで演技している感覚ですから、ストレスはありません(笑)。
※俳優としてではなく、あくまで太鼓奏者として舞台に立ちます
和太鼓の演奏も、カインとしてなさるのですね。
クライマックスでは、まさしくカインをイメージしています。最後に大太鼓を打つのですが、信じられないほど体にテンションがかかるんです。とんでもなく大きな太鼓に肉体の命を燃やしていくので。この状態をカインが葛藤している場面に合わせていこうと考えています。最後の最後は、本気で大太鼓を打っている僕をほかの出演者が引き剥がしに来ます。
太鼓を演奏するエネルギーとカインの心情のボルテージをリンクさせるような構成ですね。
最後は、そう持っていきたいですね。目指しているのは、宗教画。90センチある大太鼓を台に乗せてさらに高いところで打つので、引き剥がそうとする人たちもカインにしがみつき、よじ登っていくような状態になると思います。僕は和太鼓にずっと関わってきて、さまざまな修行や経験をしてきました。その中で本当に多くのことを学び、いろいろな人に助けていただいたことへの感謝とリスペクトを抱き続けています。だから、和太鼓の芸術性をもっと広めたいと思っているんです。お祭りや地域のイベントだけでなく、「劇場ですごいの観たよ」と言っていただけるような。初めてご覧になる方も、和太鼓が好きな方も、音楽や演劇と融合させることでこんなに可能性が広がる楽器なんだと知っていただけたら嬉しいです。1月25日、26日の上演中は、おそらく僕が愛知県で一番、命を燃やすことになると思うんですよ(笑)。観てくださった方とポジティブなエネルギーを共有できる空間にできたらと思っています。
◎Interview & Text /稲葉敦子
1/25 SATURDAY 1/26 SUNDAY
「ツァディク」
【チケット発売中】
◎演出・太鼓/神谷俊一郎 ◎音楽監督/棚川寛子 ◎映像/浮辺奈生子
◎出演/吉見 亮、森山冬子(劇団SPAC)、太鼓:木村勇介(GONNA)、青木崇晃、小林遼太、ギター:鈴木俊介
■会場/名古屋市千種文化小劇場(ちくさ座)
■開演/1月25日(土)14:00/18:00 1月26日(日)11:00
■料金(税込)/全席指定 S¥6,000 A ¥5,000
■お問合せ/まといの会 TEL. 050-3131-8542