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劇作家・小説家の戌井昭人率いるパフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」が、『鉄都割京です』で「KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)」に11年ぶりに参加する。歌に踊りに寸劇等、民衆の放浪芸にインスパイアされた数分間の出し物を矢継ぎ早に繰り出すそのスタイルは、DNAに訴えかけてくる祝祭性に満ちている。戌井に公演への意気込みを聞いた。
「KYOTO EXPERIMENT」には、2010年に『鉄割のアルバトロスが 京都編』で参加されています。
「アートコンプレックス1928」での公演だったのですが、講堂のような場所がすごくおもしろかったのを覚えています。京都では昔、京都大学吉田寮食堂で公演したりしていたので、劇場で、しかも古い建築の中でやるということが新鮮でした。
今回の『鉄都割京です』はどんな作品になりそうですか。
だいたいいつもと同じような感じで、3~4分の短い寸劇みたいなものだったり歌だったり、よくわからないコントみたいなのだったり不条理なコントだったり、そういうのをだーっと矢継ぎ早にやる感じです。そのやり方は20年くらいほぼ変わってないんですけれども、この2年間公演ができていなくて、それだけ間が空いたということはこれまでなかったんですよね。出演者も、鉄割の公演があるときだけ役者をやる人間が多いので、寄り合いのお祭りみたいな感じみたいなところもあるんです。今回、2年ぶりということで、爆発的な効果みたいなものが出たらおもしろいんじゃないかなと。劇団員は専任役者はほぼいなくて、いつもは普通の仕事をやっている者が多くて、たまに他の劇団から声がかかれば出たり、音楽をやっている人もいますね。
短い出し物をつないでいく作品作りの手法についておうかがいできますか。
こういう形になったのは、普通の仕事と兼ねている者が多くて、みんなが集まって練習やゲネをやるということもできなくて、でも、おもしろいやつらを集めて何かやりたいというのがあったんですね。それで、どういう形がいいのかなと考えたときに、集まれる人数でやっていく、それだったら練習ができるかなと思って。メンバー対策でこういう形になっていったということも大きいです。中身については僕が一人で考えています。おもしろいことが起きたり、奇妙な人に出会ったり、そういう経験の中から、ちゃんと順番を決めて書いていっていて。だから、アドリブみたいなものはあまりないんですよ。みんなで、こうしたらやりやすいんじゃないみたいな話し合いはしますが。以前は、みんなが何だこれ? みたいになっている脚本を、こうやるんだ! って僕一人で興奮して全部演じて、汗まみれになって疲れて練習終わりみたいなこともありました(笑)。
どんな風にネタ探しをされているんですか。
最初のうちは世の中をうろうろしておもしろいことを探していたんですけれども、最近はメンバーが固定されてきたこともあって、あの人がこういうことをやったらおもしろいんじゃないかと宛書することもありますね。メンバーが、こんなことがあったとおもしろい話をしていたら、それを頭に入れておいて、脚本に入れるとか。前はもっと、おもしろい話を、ネタをと探していたけれども、今はよりメンバーと近い感じで作っている感じがありますね。
出し物と出し物をつないでいく順番、構成も難しそうですよね。
そこはけっこう大変ですね。汗まみれになるから着替えなきゃいけないじゃないですか。こういう順番なんだけど、ここに出ているからこちらには出られないとかあるので、とにかく一分間だけ出てよくわかんないことしててとか、そういうときもありました(笑)。
どういうおもしろさが戌井さんのアンテナに引っかかるのでしょうか。
おもしろい人が街にいたりとか、何だこれはと思うような音楽を聴いたりとか、あとはおもしろい映画を観たりとか、そういう瞬間ですかね。若いとき、よく一人旅をしていたんですが、うろうろしていると変な人がたくさんいて。インドとか行ったらネタの宝庫だったんですよ。ヤギがおじさんの後ろにくっついてお尻を嗅ぎながらずっとついていくみたいなのを見て、ヤギとおじさんの寸劇を作ったりとか。土着的なものを研究しているわけではないですが、土着的な雰囲気のものが好きなので、それを追求していって、結果的に、これはどこの国の話なんだ、みたいな感じにはしたいなと思っています。
さきほど、「寄り合いのお祭り」とおっしゃっていたのも、そのあたりと関連してくるのかなと。
そうですね。地方に「村歌舞伎」(素人が演じる歌舞伎)ってあるじゃないですか。ああいうのの、もっと真剣にやってない、そしてめちゃくちゃになっちゃってる版を目指しているというか、そういう雰囲気でやりたいなと。素人がやっているという雰囲気はすごく大切にしたいなと思っています。プロフェッショナルにならない感じというか。お金取っておいて失礼な話かもしれないですけれども(笑)。素人が回転しまくってバーストしているみたいな雰囲気を作りたいというか、こなれたくはないというのがすごくありますね。
とはいえ、こなれないというのもまた難しかったり?
そうですね、それは自分もそうなんですが、そこをどうするかですよね。昔は、こなれていったらわざとそこにバケツを投げ込んでみたりしていたこととかもありましたね。びっくりさせるために、向こうに内緒で。まずあまり練習しないことかな(笑)。何とか、慣れた感じを見せたくないというのはありますね。
今は演じる側と観る側とが分かれている感がありますが、昔は、村歌舞伎にせよ、素人が自分自身で演じることもあって、その上で観客でもあったという構図だったのかなと。
そうなんですよね。観客とか関係なく舞台に参加しているという雰囲気は作りたいなと思っています。演劇畑の人と活動していたこともありますが、メンバーにあえて演劇畑じゃない人を入れたりしていましたね。僕が鉄割の作品を作る上で一番影響を受けたのって、小沢昭一さんが本やCD等にまとめた「日本の放浪芸」なんです。「納豆~納豆~納豆~」っていう納豆売りの口上を真似して、よくわからない形で演目に作ったりとか、お坊さんの曼陀羅をネタに作ったりとか。映像がなかったりするので、「日本の放浪芸」を聴きながら想像して演目を作ったりしていました。
洗練されきった表現にはない、猥雑なパワーを感じます。
猥雑なパワー、いいですよね。今回も、どこまで出せるかわかりませんが、そういったパワーが前面に出る風になればいいなと思っています。
そのときそのときの問題意識が作品に反映されたりは?
自分が好きで聴いていた音楽とか、趣味的なことが反映されたりはしますね。あまり社会的なことはあえて意識しないようにはしています。これ結局時代とらえちゃってるじゃん! とメンバーに言われたりしたら、そこはあえてなくしたりとか。今の状況みたいなことは、自分的にはやりたくないなというのがあります。
とは言いつつ、このコロナ禍は、劇場文化にとってはなかなか難しいものがあります。
前まで自分たちがやっていた公演は、客席はぎゅうぎゅうにつまっていて、お菓子とかも配って、客席での飲み食いも自由にしていたんですね。こっちも唾と汗、飛ばしちゃうし。密極まりない状態だったんだけど、それができないというのが、ね。昔の見世物じゃないけど、そういう雰囲気で見せたいというのがあって、それはずっと意識してきたことではあるので、ちょっと残念なんですよね。今回はそこにあまりとらわれないようにしてやりたいというのはあります。元気に、馬鹿みたいに、汗と大声を出してやりたいですよね。心と身体とで発散できればいいなと。とにかく元気にやりたいですね。
戌井さんにとって“劇場”とは?
今、間隔を空けて、席数を半分にしてとか、対策を練って上演するという状態になっていますよね。でも、その対策を練るということが、僕たちのやっているようなことには合わないと思って、今年の夏も劇場を押さえていたんですけれども、キャンセルして。今度の公演ではもちろんちゃんと対策をしますが、僕たちの集団にとっては、対策が前面に出過ぎている状態でやるのはどうなのかなということがあるので、世の中がコロナの前のような状況に戻ってもらうしかないなというのはありますよね。劇場って、ふざけた場所ですよね。ふざけた人たちがふざけて集まって、何でこんなところでこんなことをやっているんだろうみたいな状況なので、とにかく特殊な場所ではありますね。暗くて深刻な芝居もありますけど、結局はハレの場なので、そこは大切にと思います。カラオケとか行けば違いますけど、普段、無駄に大声を出すことってないじゃないですか。無駄に、何か意味わからないけど大声出してるっていうのは、相当な発散になっていたんだなというのは、2年間公演をやっていない中で感じますね。
幅広いジャンルの芸能にふれていらっしゃる印象を受けます。
演劇は年に一回か二回観に行くくらいで、あとは音楽を聴いたり、映画を観たり。人がよくわからないような状態になっているのを見るのはおもしろいですね。小さなお祭りで、子供が狐のお面をつけて踊っていたりする感じとか。浅草に住んでいたとき、おじさんたちが空き缶を叩いて歌っていたり、そんな青空カラオケみたいなのに見入っちゃったり。音楽は何でも聴きますね。アフリカの音楽も好きですし、ブルースも聴きますし、古い音楽も、ロックも聴きますね。音楽から影響を受けて演目を書くこともあります。今のお笑いは、普通に漫才とかテレビで見たらおもしろいと思いますが、すごく影響を受けたのはモンティ・パイソンとか、タケちゃんマンとか、ドリフスターズとか、子供のころに見ていたお笑いですね。映画も何でも観ます。お笑い映画で言うと、『メリーに首ったけ』のファレリー兄弟監督が好きですね。
人間の衝動みたいなものにご興味があるのかなと。
そこがバンと見え隠れすると、どんなものでもおもしろいなと思います。
今回の公演をご覧になる観客へのメッセージをお願いします。
皆さんにとっても発散できる場になるといいなと。この状態から抜け出すようなきっかけになればいいなと思っています。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)
10/22FRIDAY〜24SUNDAY
KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN
鉄割アルバトロスケット「鉄都割京です」
■会場/京都芸術センター フリースペース
■開演/10月22日(金)19:00、23日(土)14:00、24日(日)15:00
■前売料金(税込)/全自由席 一般¥3,000、ユース(25歳以下)・学生¥2,500、高校生以下¥1,000、ペア¥5,500(前売のみ) *当日券は+500円。高校生以下は前売料金と同額。
■お問合せ/KYOTO EXPERIMENT事務局 TEL.075-213-5839(11:00〜19:00 日祝休[開催期間中は無休])