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青森の劇団「渡辺源四郎商店」がツアー公演を再開させ、三重県文化会館に登場。
主宰・畑澤聖悟が2012年から取り組んできた青函連絡船シリーズの最新作
「Auld Lang Syne(オールド・ラング・サイン)」を上演する。
日本で「蛍の光」として親しまれてきた曲の元にあたるスコットランド民謡の変遷と
英スコットランドで建造された初代青函連絡船「比羅夫丸」「田村丸」の歴史が
第一次世界大戦を背景に、明治・大正・昭和をまたいで交差する物語だ。
作・演出を手掛ける畑澤に話を聞いた。
三重には結構お越しですね。
三重県文化会館にはお世話になっていて、「もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら」という作品を高校生と作ったこともあります。青森中央高校と三重の選抜メンバーが総勢50人くらい集まって素敵な経験ができました。コロナになって県外での活動は控えてきましたが、今回やっと再開できることになったんですよ。しかも「Auld Lang Syne」は、つなぐ物語なんですね。北海道と本州をつなぐ青函連絡船が、物流で日本の英雄になろうとした話。そんな「つなぐ物語」で三重に行けるのは意義深く、巡り合わせも感じます。
青函連絡船を題材にしたきっかけは?
2012年に市民劇で取り上げたのが始まりです。青函連絡船は現存しているものが2隻あり、ひとつは青森埠頭にある八甲田丸、もうひとつは函館にある摩周丸です。八甲田丸はなぜずっと青森埠頭にあるのか。青森市は物流拠点の港町として発展してきて、青函連絡船は街の記憶そのもの、街の象徴みたいな存在だからなんです。青森市民は小学生の修学旅行で必ず函館に行きます。青森と函館には絆のようなものがあり、青函連絡船は1988年までは動いていたので馴染み深い人は多い。だから、青森市で演劇を創作していく立場として、青函連絡船について演劇で残していくことが必要だと考えました。青森市で生きていく者の矜持でもないですけど、きちんと語っていく覚悟をしたんです。
出演者が女性だけなのは意図がありますか。
これまでも青函連絡船のシリーズは女性だけで演じてきました。そもそもタイトルが「海峡の7姉妹」ですから。船はフランス語やドイツ語だと女性名詞。優美な船を貴婦人、同型船のことを姉妹船と呼んだりして、船は「女性」のイメージが強いように思います。今回は最初の青函連絡船・比羅夫丸だけ一人の俳優が務め、あとの4人は田村丸など青函航路に配属された船を入れ替わり立ち替わり演じます。
俳優が船を演じるんですね!
乗客や連絡船の関係者も登場しますが、擬人化された船が中心で、船同士の会話が展開されます。
新作の背景について教えてください。
始まりは日露戦争後の明治41年。その頃から第一次世界大戦を経て、第二次世界大戦が始まるあたりまでの話です。みんな、今は新しい戦前じゃないかと感じていますよね。実際にウクライナで戦争が始まり、ロシアという国の脅威について考えを新たにした。振り返ると、アメリカと戦争する前の仮想敵国はソ連だったし、いちばん近い隣国は韓国でも中国でもなくロシア。この作品はロシアとの関係が深かったり危うかったりした頃の話なので、妙に現在の状況とリンクします。ロシアの南下願望は100年前から変わっていない。第一次世界大戦前の状態が現在とマッチするのは気持ち悪いですね。テレビでも新聞でもウクライナ「侵攻」から「侵略」という言い方に変わってきましたが、見ようによっては当時の日本も周辺の国々を侵略していた。思えば、あの帝国主義に何の疑問も持たず、領土が増えて世界の一等国に仲間入りを果たし、日本という国が果てしなく大きくなっていくと信じて疑わなかった人々の姿は興味深いですよ。
この作品は今の私たちとどうつながりますか。
「Auld Lang Syne」は「蛍の光」の原曲にあたり、この歌の変遷が芝居の縦糸になっています。もとは乾杯の歌だったのに、なぜ卒業の歌になったのか。歌い継がれる中でどう変わっていったのかが日露戦争と関係します。ロシアも日本も当時から変わっていない。何か警鐘を鳴らしたいわけではないけれど、他人事ではないとも思っています。
世界情勢を考えると、青森の地理的環境には緊張を覚えます。
青森県というのは地政学的に難しい土地なんですよ。先日Jアラートが鳴ったのは青森県で、頭上をミサイルが飛んでいきました。三沢市には米軍基地があり、県内には原子力施設も多く、原発もある。米軍基地と原発の両方あるのは日本で青森県だけですよ。青函連絡船シリーズは、そういう青森県に住む我々の目から見た日本史だったり世界史だったりする。青森からは世界がこう見えているということを提示したいですね。
このシリーズは、県外ではどんな反応がありましたか。
全国に青函連絡船ファンがいるんですよ。青函連絡船は鉄道会社(JR)の所属で、鉄道ファンというのは多岐にわたっていて、連絡船ファンもいるんです。そういう方々が大挙して来てくださったことがありましたね。連絡船に乗らなければ北海道に行けなかった世代の方には、懐かしいとの声をいただきました。青函連絡船という言葉も知らない方は、歴史物を観る感覚らしいです。今回も楽しいお芝居になっているので、ぜひご覧ください。
◎Interview&Text/小島祐未子
1/28 SATURDAY・1/29 SUNDAY
Mゲキセレクション
渡辺源四郎商店「Auld Lang Syne」
■会場/三重県文化会館小ホール
■開演/各日14:00
■料金(税込)/整理番号付自由席 一般¥2,500 22歳以下¥1,000
■お問合せ/三重県文化会館チケットカウンター TEL059-233-1122
※未就学児入場不可