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「古澤巌」web限定インタビュー
取材日:2012.10.30


ヴァイオリニスト、古澤巌。クラシック音楽をベースに
さまざまなジャンルの音楽を吸収し、独自の世界を切り開く音楽家です。
東儀秀樹と共に登場したMEG本紙でのインタビューに続き、
WEB限定の単独最新インタビューをお届けします。

古澤さんは、音楽以外にもさまざまなことに興味をお持ちですね。

いろんなことに興味が持てるというのは、演奏にも影響がありますよね。演奏をするために自分は生きているわけですから。いろんなところで演奏する、自分が演奏するシチュエーションを自分で探してみるというのも、そのひとつです。人ってみんなそうだと思いますけど、自分がもっと伸びたいとか、上手くなりたい、高まりたいと思って努力しても、それだけではカバーしきれない何か特別な力によって、自分がそういう境地に引き上げられたものを感じられるようなときがある。例えば僕は、明治神宮で弾いたときに、なんとなくそういうことを感じたり。あるいは、どこかの山の中や海のそばで弾いたときに何かを感じたり…そういう記憶が自分の中に残るんですよ。自分が音楽に集中していくときにそういう実感がある。すると次からは、自分の体をそういう方向に向けよう、向けようとやっぱりしますよね。そうやって出来ていく音楽会やアルバムは、やっぱりちょっとパターンが生まれてくると思うんですよ。人生観のようなものだったり、自分が得てきたいろんな宝を演奏会という形でステージ上に表していくようなー。


一回一回のコンサートが、その時点での古澤さんの境地を表現する場であるということですね。

そうです。一個人の思いなんてものは、大したものじゃないと思うんですよ。ただ、境地っていうのはまた別のもので、それがあるからこそ自分がスキルアップする。ぼーっとしてても出来るかもしれないし、いろいろ勉強しても研究しても出来ないケースもある。こうすれば頭がよくなるとか、こうすれば自分の限界レベルが上がるとか、そんなマニュアルなんて多分ないと思うんですよ。精神、肉体をどこまで高められるかというのは、確かに自分のテーマでもありますね。そして、その境地を高めていく。1,000人単位のお客様の前で演奏させてもらうからには、一個人の自分ではいたくないんですよね。例えば、コンサートホールから依頼を受けなければ公演は成立しないんですよ。僕がここに来て、何月何日にここに来て弾くからって言ったって、出来ませんよね。でも、例えば神社仏閣だったら出来たりするんですよ。待ってるんじゃなくて、自分で自分の場所を作ることは出来る。例えば音楽家だったら、どこかのプロダクションに所属して仕事が来るのを待つという受身な形になっちゃうと思う。そんな中で自分が動いて作っていけるものというのは、もしかしたら何かあるかもしれない。そんな隙間みたいなものが、世の中には多分たくさんあるんだと思うんですよ。

そこに気づくかどうか、なんですね。

そういう新しい発想で、みんなの必要なものが毎日のように生まれてきてるんですよ。音楽そのものも、こういったコンサートという形態は変わらずともいろんな形があっていいなと思うんですよね。僕はいろんな音楽をアルバムでは弾いています。ここまで来れば、いろんな経験でアルバムという形を作ることができるでしょ。例えば曲で言うと、タンゴとか、最初の曲はクラシックの曲を題材にしてみたり。今回挑戦したのは、メタリカ(アメリカのヘヴィメタル・バンド)みたいな音楽の空気感をこういうクラシカルな楽器でどう出すか。バロックとロックの共通性をどこに見出すかというところです。そういうことをテーマに考えてみたり…。例えば、今度はピアノとベースとヴァイオリンだけで演奏するんですけど、それで成立するような音符の配列を考えていくんですね。単にピアノは伴奏だというものではなくて、エレキベースとヴァイオリンを組み合わせて音を作っていく。アルバムを作るときにはいろんな楽曲の編成がどんどん変わっていくから対応できないんじゃないかという感覚に陥りやすいんですけど、そうじゃなくて、人間の中にある感覚で自分の中では成立しているんですね。だけど、それを現実的に形にしようとしたときに、あれも足りない、これも足りないではなくて、そこにあるものだけでその音楽が出てくるようにものを作っていくことはできないかという発想があって。そうじゃないとコンサートってできないんですよね。このメンバーしかいないからこの曲しか弾けない、じゃなくて、このメンバーしかいないのにこのアルバムを一体どうやって表現するか。それをやらないと…。誰がどの音を弾くかということによって、そのスケール感を人間の気持ちと合計10本しかない指でなんとか音を出せないかと。

6月にリリースされたアルバム「~Le Grand Amour~ 想いの届く日」では、さまざまな演奏方法やアレンジでクラシック曲の良さを広く伝えたいとおっしゃっていました。それを一番感じたのが1曲目の「我が母の教えたまえし歌」です。

あれは、大学2年生ぐらいの子が作ったんですよ。その子がエレクトーンでひとりで弾いた音をそのまま拾ってカラオケを作って、それにヴァイオリンを重ねただけなんですよね。クラシックのヴァイオリンでもよく弾く名曲ですし。そういう曲をああやって作りこんでいくということ、いろんな方法を見つけていくのは、プロデュースの大切なところなんですよね。今回、ヤマハのコンクールで僕がたまたま、その子と出会った。それを逃さずにひとつの作品としてきっちりと世の中に認識してもらうまで極めていくのが、我々の役目だと思うんですよ。曲に出会うっていうのはそういうことだと思います。この子がその一曲しか残せなくても曲が残ればそれでいい。そういった出会いのチャンスというのは食べ物と一緒ですよ。これは美味しい、これは美味しくないという判断が自分で出来るだけの経験は絶対積んでおいた方がいいですね。音楽ってフィーリングで聴くものですから、わかりやすくないとダメなんですよ。その中で、例えばクラシックの音楽をエンターテインメントにして…今、僕が制作しているのが、「新世界」をメタリカみたいなサウンドにすることなんですが…例えば、ここは好きだけどあとはよくわからない、というところがたくさんあるじゃないですか。歌謡曲でもそうですけど、サビしかわからないとかね。AメロとかBメロはよくわかんない、みたいな。多くの人が心地よくなれる部分をクローズアップしてあげたりするのはとても大事なことです。僕の場合は、人の作る作品の良さをどんどんどんどん引き出してあげる、また、過去の人が作ったクラシックの作品の良さを引き出せるような演奏、そういうものがだんだん見えるようになってきました。でも、それはこれだけいろんなタイプの楽曲を自分が齧ったからだと思うんです。例えばワインを100種類飲んでしまったら、旨いか旨くないかは最終的に好みだと思います。ソムリエが嗅ぎわけるというのとはまるで意味が違う。旨いかまずいかというのは、ソムリエの中では必要のないことだと思うんですよ。でも、お客さんにはとても大事なポイントだと思いますね。それが何であるか説明される意味はあまりないというか、やっぱり美味しくなきゃ意味がないんですよ。



ものの良し悪しの判断は、たくさんの知識を得て分析するのではなく、結局は自分の感覚によるところが大きいんですね。

ただ、好きか嫌いかと平たく言っちゃうと、経験があってもなくても同じことになっちゃうじゃないですか。そこは微妙なところですよね。じゃあ何をもってあなたの評価は「旨い」になるんだ、という話になってきちゃうし…そこが本当に難しいんですよ。でも、旨いかまずいかは経験じゃなくてすでにみんなの中にある。そして、それが観客の反応なんですよ。予備知識なくコンサートに来て、初めて聴いた人が良いとか悪いとか思うのは勝手じゃないですか。でも、人間の中にはそういう感覚、感性があるんですよ。別に悲しくもないのに涙が溢れてくるというのと一緒で、何かがあるんですよね。それはある意味、本質的な、アジャストする部品があるかないか、みたいなことで。

受け手の感受性にもよるでしょうか?

そうですね。でも、それはこちらがお客様に紹介したり、発信することが大事ですね。受身側の人たちは、相当感受性が強いと思うんですよ。ナイーブだし。だから、お客さんの意見はよく聞きますよ。ファンレターひとつとっても、僕はよく読むんですよね。いつも自分が勝手に発信してるから、やっぱり批判でも批評でもよく読んだ方がいい。その人はなぜそう思うのかって。

今、古澤さんが演奏を通して伝えたいことというのは?

例えば、今までアルバム「Le Grand Amour」シリーズで追求してきたのは、どちらかというとヴァイオリンの音色を大事にするという方向性です。ヴァイオリンの音色によってこんな気持ちを共有することができる、という繊細な部分をとても打ち出したアルバムではありますね。音色というのはあまりにも個人差があるんですよ。土壌のようなものであって、その土地の味がどうしてもしちゃうんですよね。人によって、音色ってあまりにも違うんですよ。だから、僕と同じ音色の人なんていないんですよね。ヴァイオリンを弾いても、みんな違う音なんですよね。不思議なんですけど、全然違う音になるんです。畑が違えばワインの味が違うように、それぐらい違うものなんですね。ましてやその中で、楽器を使っていろいろなバリエーションを作っていくわけじゃないですか。それに対応するために、僕の場合はいろんな種類の音楽を研究してみました。これから先もそうやっていろんなものを創作していくために、まだまだそういう音楽の旅は続いていくんでしょうけど。でも、最終的に僕が常に求めているのは、必ず生活の中にあるものを探しているんですね。そして、非常にファンタジーな世界でもあるんですよ。憧れであったりとか、とても素敵な恋愛のような感情だったりとか、そういったものをCDの中に閉じ込めたり、ライヴで表現したりできるんですね、音楽というのは。そこが本当に素敵だなと思う部分です。


’13 1/18 FRIDAY
LIVE UNDER THE TREE
古澤巌~想いの届く日~

チケット発売中
■会場/青少年文化センター アートピアホール
■開演/18:30
■料金/全席指定 1階席¥4,000 2階席¥3,000
■お問合せ/名古屋市文化振興事業団チケットガイド TEL.052-249-9387
※未就学児入場不可