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デビュー60周年を迎える藤竜也さんに、三原光尋監督から、ラブレターのような脚本が送られてきた。過去2作の三原作品に出演していた藤竜也は即座に出演を決めた。「完成に何年かかってもいいですから、ぜひ出演させてください」と。この夏、疲弊しきった日本社会にヒューマンな感動が包まれる。主演の藤竜也に本作への思いを語ってもらった。

三原光尋監督とのタッグは三作目となる本作ですが、前作との違いみたいなものは感じられましたか?

三原作品には「人間賛歌」という共通のテーマがあって、前の二作ではどちらかといえば孤高の人を演じさせていただきましたが、今作では世の中で揉まれている普通の主人公という設定になっています。過去の二作を含めて、自分にとっては三部作となっていて光栄に思っています。

今回は実直な豆腐店の主人という役柄ですが、実際に豆腐づくりの勉強などはされたのですか?

都内の老舗豆腐店で数日間でしたが丁寧にご指導いただきました。僕自身も、おからが大好きでね、豆腐づくりには興味があったので貴重な経験でしたね。やはり苦汁を入れるタイミングが本当に難しんだなと勉強になりました。



尾道の素敵な風景が、この映画をさらに魅力的にしていると思うのですが、ロケハンにも同行されたと聞いていますが、尾道の印象はどうでしたか?

長く役者をやっていますが、尾道での撮影は初めての経験なんです。東京での撮影はすでに始まっていたんですが、監督からロケハンへのお誘いをいただいてのは渡りに船でした。三原監督もそうでしょうけど、私の世代だと、やはり尾道は小津作品の印象が強烈に残っていて、映画史に残る名作と同じロケ地で撮影できたのも嬉しかったですね。

娘役の麻生久美子さんはじめ、錚々たる共演者の方ですが、主演の藤竜也さんからはどういった印象を持たれましたか?

麻生さんとは彼女が子役の頃に共演していまして、26年ぶりとなります。他の共演者の方もベテラン揃いでとてもやりやすかった。今作ではちょっとコメディックな要素をだいぶ入れているんです。共演の役者の方々がうまく笑いにもっていってくださった。私はそういう演技には慣れてないからね、うまくはまるのかなと思ったりしましたが、結果は大成功で自然な笑いも楽しんで頂ける作品になりましたね。



今年、俳優デビュー60周年となる節目の年での公開となるわけですが、改めてご自身のキャリアを振り返られていかがですか?

私は日活のアクション映画からの出発でした。当時の映画界では、松竹は木下惠介監督の時代で、文学的な深い作りでしたし、東宝は黒沢明監督の全盛期。いつもわくわくして新作を観に行ってました。日活映画は男ぶりみたいなものが強調される作品が多くて、入りたての頃は石原裕次郎さんの真似してればいいのかなって思っていました。その間違いに気づくのに時間がかかりましたね。

80歳を超えられて、主人公の丸みのようなものを感じたのですが、藤さんの役づくりへのこだわりみたいなものはあるんでしょうか?

若い頃にはね、演じ方にメリハリを効かせなきゃって思っていた時代もありますが、今は一切しなくなりました。自然体で脚本の中の役に任せるようになりました。

三原監督とは、今作の主人公の人物造形に関して、意見交換などはされたんでしょうか?

もちろん、監督からは、前作とは違って、市井の暮らしの中で生きている普通の男を演じてもらいたいというリクエストは最初にありましたが、あとは特に話をしたりしません。共演者の方とも特にそういうことはしません。それがプロだと思います。脚本に忠実に、それぞれが役に任せて演技していくって感じでしょうか。

さて、今後の藤竜也さんにとって、やってみたい役など、今後の抱負など聞かせて頂けますか?

三原監督からは、また85歳くらいで、また出演をお願いしますと声をかけて頂いて、とても嬉しいんですが、そこまでもってるかどうかわからないからね(笑)
これをやってみたいとか、そういうのは無いですね。役者ですから、頂いたお役を真摯に演じていくまでです。出来れば時間をかけてじっくり作っていける作品に関わっていきたいです。効率やスピード優先のお仕事はちょっと違うかなと思うようになりました。
今作は、三原監督からの脚本に惚れこんで、ロケハンもご一緒してじっくり取り組めた映画が撮れたと思っています。

主人公の高野辰雄、その娘の春、そして中村久美さんが演じる中野ふみえ、それぞれがそれぞれの人生を背負って市井の人として淡々と生きていく。「高野豆腐店の春」は、三原光尋監督と藤竜也さんが醸し出す人間賛歌を、滋味あふれる美しい映像で綴る優しい作品だ。

◎Interview&Text/石原卓



「高野豆腐店の春」
監督・脚本/三原光尋、出演/藤竜也、麻生久美子、中村久美、徳井優、山田雅人、日向丈、竹内郁子、菅原大吉ほか
8月18日(金)よりシネ・リーブル梅田ほかで全国ロードショー
「高野豆腐店の春」公式サイト: https://takanotofuten-movie.jp/
「高野豆腐店の春」公式Twitter : @takanotofuten
©「高野豆腐店の春」製作委員会