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「真柴あずき×仲村和生」Web 限定インタビュー
取材日:2014.01.30


演劇集団キャラメルボックス。
来年には創立30周年を迎える老舗劇団でありながら、
常に新たなチャレンジを試み演劇界に新風を吹き込み続けています。
人気シリーズ「アコースティックシアター」の名古屋公演を目前に控え、
劇団創設メンバーで脚本・演出を手がける真柴あずき、
若きプロデューサーとして手腕を発揮する仲村和生に、演劇の魅力、
劇団のビジョンについて聞きました。

大阪からスタートした「キャラメルボックス2014 アコースティックシアター・ダブルフィーチャー」では、二作品を上演されます。「あなたがここにいればよかったのに」は、真柴さん単独脚本の新作ですね。

真柴:今回、二本立てにしたのは、役者がそれぞれ育ってきて出したい人がたくさんいるので、若手をメインにしてやってみたいという思いがスタートでした。主演の筒井俊作は入団13年目で、これまではずっと脇を固める役をやっていましたが、そろそろ彼にメインを張らせてみたいなと思ったんです。

当て書きのような感じですか?

真柴:そうですね。彼を出すと決まったとき「アコースティックシアター」としては珍しく男性視点で物語が進んでいくカタチになっちゃいました。最初はそんな予定ではなかったのですが、書いているうちにそうなっていきましたね。もう一作の「ヒトミ」は成井豊(演出家・劇作家でキャラメルボックス代表)との共作で、今回10年ぶり3演目。うちの代表作で、主演の実川貴美子と多田直人はこの作品に出るのは初めてです。

劇団内で若手の俳優さんたちが育ってきて、いろいろな作品にキャスティングできる環境が整ってきたという感じでしょうか?

真柴:何年か前からそれは感じていましたが、特に昨年たくさん作品をやってみて、その思いがますます強くなってきましたね。だから、ここらでやらせてみようと…。劇団を30年近くやってきて、まだまだやってみたいことがあるので。「アコースティックシアター」で男性が主役というのは、私にとっては少しハードルの高い試みですし。

「アコースティックシアター」は1993年から続くシリーズで、人の心理に迫った作品を上演されています。

真柴:私たちは「心の活劇」と呼んでいます。どちらかというと、場面としては日常ですよね。ただ、状況は極限的だったりします。今回の二作品でいうと「ヒトミ」は主人公が事故で全身麻痺という状況になっていますし、「あなたがここにいればよかったのに」では、自分でも知らないうちに二度目の人生を生きている男が、愛する女性に幸せになって欲しいという思いだけで突っ走っていくー。人の感情ありきの物語なんです。

登場人物の微妙な感情の揺れを舞台で表現するのは、映像より難しいのではないかと思うのですが。

真柴:やっぱり会話ですよね。たぶん、キャラメルボックスのほかの作品に比べると言葉数が多いと思います。言葉のやりとりで人の心の動きを表していけたらと思うので。私自身は極限状況になったときにたくさん喋る方ではありませんが、喋らないとわからないこともきっとありますよね。作品の中では、普段喋るであろうことの100倍ぐらいの言葉が出てきますが、ご覧になった方が何か厳しい状況に立ち会ったときに、その中のひとことだけでも思い出してもらえるといいなと思って芝居を作っています。

ほかにも、短編演劇「ハーフタイムシアター」、他劇団とタッグを組む「アナザーフェイス」など、画期的な公演を実現なさっていますね。

真柴:一番最初に「アナザーフェイス」という考え方で上演したのは1992年に初演した「また逢おうと竜馬は言った」ですね。その当時、プロデュース公演がかなり寄せ集め的になされていると私は感じていました。それで、プロデュース公演ではなく劇団と劇団とでやったらまた違うチームが出来るんじゃないか、お互いにまた持ち帰るものがあるんじゃないかということからスタートしたんです。それをやってみて、新しい役者さんと出会うことも出来ましたし、何より役者が新しいメンバーとやるのはとても刺激的だと言うんですよ。


常に新しい試みに挑戦するというのは、キャラメルボックスの基本姿勢ですか?

真柴:挑戦し続けるってずっと言い続けてきたら、「それもう挑戦じゃないよね」って(笑)。挑戦し続けて満を持しっぱなしだから、それが日常になっちゃっているんですけど。

仲村:1年に4回公演という時期が10年ぐらいあったんです。それで’05年に「今後は新しいことをやっていこう」という意見が会議で出て、それから幹部が集まって定期的に企画会議を行うようになりました。その場でいろいろ案を出して、新しいことが決まっていく。例えば真柴が単独で書いてみたらいいんじゃないかとか…。今は上演する作品数が増えてしまったので、やったことのないことの方が少ないんですよね。だから、本当に新しいことを実現するということが、劇団としても課題になっています。常に何かしら企画していますね。今は来年の劇団創立30周年に向けて考えています。


仲村さんはいつ頃から参加なさっているのですか?

仲村:ちゃんと劇団の運営に関わるようになったのは1996年かな? 最初はバイトで入ったんですよ。自分で映画を作ったり芝居をやったりしていたので。

真柴:脚本を書いて演出して、出演もしてね。

キャラメルボックスは憧れの劇団だったのですか?

仲村:どうせなら好きな芝居を仕事にしたいと思って。キャラメルボックスの公演を観に行ったときにプロデューサーの加藤昌史と話したら「じゃあ、面接に来なさい」と言われたのが最初です。それで気に入ってくれて。僕は制作で入ったんですよ。その後、成井に言われて演出部の手伝いを何年かして、’00年頃からプロデューサーをしています。


当時の日本の演劇シーンは、小劇場ブームが収束しつつあった頃でしょうか?

真柴:終わりかけというか…。

仲村:小劇場がバーンと出て、ある程度注目された後にキャラメルボックスは出てきているんですよ。遅れて出たんですが観客動員数が倍々で増えていって、東京では1万5,000〜6,000人で一担止まったんです。そこから、当時在籍していた上川隆也が脚光を浴びて、また動員数が倍になり…みたいな感じで。

真柴さんを始め、創設メンバーは早稲田大学の演劇サークルのご出身だそうですが、どんな劇団を目指して旗揚げされたのですか?

真柴:私が初めて観たいわゆる小劇場演劇というのが、演劇サークルの公演だったんですよ。その頃はちょうど、つかこうへい事務所が解散した直後で、私はそれには間に合っていなくて。第三舞台や夢の遊眠社の人気が凄くて、つかさん、鴻上尚史さん、野田秀樹さんの3人に影響を受けた人たちがウワーッと劇場に来ているという頃でしたね。私たちは本当に大学の演劇サークル出身ですし、旗揚げした当初はどうなるか全くわかりませんでした。演劇サークル時代からのメンバーは、成井と加藤と私の3人だけ。ほかの役者は、学生最後の公演のときに「今度劇団を作ります」というチラシを入れて、それに引っかかった人が3人ぐらい来てという…そんなスタートでしたよ。だから、まさかこんな風になるとは思っていませんでしたし、理想とする劇団なんていうのも、ぼんやりと「夢の遊眠社さんぐらいコンスタントに公演が打てたらいいよな」という感じでした。

おふたりが惹かれた演劇の魅力とはどのようなものでしょうか?

真柴:私は大学に入ってから初めて観たというぐらい、演劇には全く興味がなかったんです。当時はちょうど第三舞台が旗揚げした頃で、大隈講堂の前にテントを張って上演していました。テントの裏口からマネキンの足がこぼれ出ているような状況で「即刻撤去しなさい」みたいな立て看板があったりして。「ああ、気持ち悪い」と思ってたんです(笑)。でも、そんな風に思っている人を振り向かせる力が演劇にはあったんですね。初めて観たときの感動は忘れられないですよ。池袋の狭い劇場で生身の人間が走り回って汗を掻いているのを見て思っちゃったんです、「やってみたい」って。人が生で動いている姿を見て、こういう世界があるんだと。なんだかわからないけど「私も頑張らなきゃ」って思えたんですよ。そういう経験をひとりでも多くの方にしていただきたいですよね。芝居を見ると好きになっちゃうんですよね、出ている人たちのことを。普段の生活の中でも、何かを好きだと思う気持ちは大切でしょ?でもどうしても、会社や学校でずっと同じ顔ぶれで過ごしていると、些細な事で行き違って行き詰まってしまうことがある。そんなときに、全然違う空間で大の大人がワーワーやっているのを見て「頑張ろう」と思って欲しい。そんな思いをずっとずっと持っているんです。ただ、こうして自分も歳をとってくると「芝居をやりたい」という人には「ちょっと待って、大変だよ」と言いたくなりますけど(笑)。

仲村:演劇って総合芸術じゃないですか。照明も音楽も使うし、生の楽器を使ってもいい。そうやってみんなで作ることがとても楽しいですよね。劇団だからこそ出来ることとか、劇団だからこその面白さとか安心感がいろいろあります。キャラメルボックスは特にそうじゃないかな。30年続いている劇団ってなかなかないと思うんですが、凄く民主的なんです。オーディション審査を劇団員全員でやったり、新人の子の意見を尊重したり…。いい面も悪い面もありますが、そうやってみんなでなんだかんだ言いながら補完しあっている作業って、これはまさに演劇だなと思って。だから劇団って面白いんだろうなと思います。

この先のビジョンをどのように描いていますか?

真柴:きっとこれまでと同じように進んでいくだろうとは思います。やりたいことをどんどんやっていくでしょうし、新しいことをまた探してきてやるんだろうなと。うちの劇団のこれから先もずっと変わらないテーマは、誰かのために頑張ることだったり、人が人を思う気持ちを描いていくということ。今、一番若い劇団員が19歳。無理して年配の役をやったりしていますが、年月とともにそれがリアルになっていくじゃないですか。それはとても楽しみですね。その年齢でしか出せない説得力が出せるように役者たちが成長していくという、本当にリアルな幅のある舞台が出来るようになるということが楽しみです。

仲村:キャラメルボックスにはレパートリーがたくさんあって、それはもう財産です。我々が死んでも作品は残るし、それを劇団のテイストできちんとお客様に観せられる。そういうことを劇団としてしっかり次の世代に移行させていかなければと思っています。

真柴:ここ4~5年でまた、中堅どころの役者たちが自分たちで企画を立てて公演をやったりしているんですよ。それもまた面白いなと思って。うちは今、そういうユニットが4~5つぐらいあるんです。珍しいことだなと思うんですよね。この忙しい中を縫って、縫って。「そんなに芝居が好きか?」っていう話ですよね(笑)。なんでしょうね、本当に。だから、そんな私たちの作品を大事な方とぜひ見に来ていただきたいと思います。


3/1 SATURDAY・3/2 SUNDAY
キャラメルボックス2014
アコースティックシアター・ダブルフィーチャー
「ヒトミ」
「あなたがここにいればよかったのに」

チケット発売中
「ヒトミ」
◎脚本・演出/成井豊、真柴あずき
◎出演/実川貴美子、多田直人、坂口理恵、岡田さつき、岡内美喜子
左東広之、渡邊安理、鍛治本大樹
鈴木秀明(Wキャスト)、関根翔太(Wキャスト)/稲荷卓央(劇団唐組)
「あなたがここにいればよかったのに」
◎脚本・演出/真柴あずき
◎出演/筒井俊作、林貴子、菅野良一、前田綾、三浦剛
阿部丈二、原田樹里、笹川亜矢奈
小林春世(Wキャスト)、木村玲衣(Wキャスト)/大家仁志(青年座)
■会場/名鉄ホール 
■開演/3月1日(土)
「ヒトミ」13:00
「あなたがここにいればよかったのに」18:00
3月2日(日)
「あなたがここにいればよかったのに」12:00
「ヒトミ」17:00
■料金/全席指定¥7,000 
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00~17:00 )
※未就学児入場不可