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「田島貴男」スペシャルインタビュー取材日:2013.08.27
初期ピチカート・ファイヴへの参加、そしてオリジナル・ラブとしての活動など、
日本のポップ・ミュージック・シーンの最重要人物、田島貴男。
彼が今、夢中になっている音楽のスタイルとは…。
その鍵は、今秋始まる全国ツアー「ひとりソウルツアー」にありそうです。
ソングライター、ボーカリスト、そして演奏家として
貪欲に進化を続ける田島貴男が、自身の「今」をたっぷり語りました。
この夏の「エレクトリックセクシー・ツアー」の名古屋公演を拝見しましたが、ライヴの始まりからどよめきに近い声がオーディエンスから聴こえるなど、凄いテンションに完全に引きこまれてしまいました。
全会場もの凄く盛り上がりました。大成功だったライヴかなと思います。どの会場でも 全力を出しきったし(笑)。
アルバム「エレクトリックセクシー」の楽曲の詞からも、非常にポジティブなメッ セージ性を感じ取りました。
詞について触れていただけるのは嬉しいですね。アルバムとして特にコンセプトを決めて書いたりということはないんですが、出来上がったアルバムを改めて聴くと、今の日本の町にしっくりくる歌を探すように作っていたのかなと思います。今の町の人々はSNSをやることがふつうですよね。そういう状況で口ずさみたくなるポップな音楽は新しい形をしているかもしれない。時間がもの凄く速く流れる町。そこに生きている人々が抱える混乱。そこに浮上してくる歌を見つけようとしていたのかなと。若い人たちに向けたメッセージのような歌もいつのまにか書いていました。SNSによって便利になったこと、つまんないことに出くわすようになったこと、いろいろなそういう状況を皮肉ったり、批評したり、批判したり、打ち破ろうとしていたりするアルバムかもしれない。今まで作ったアルバムでは僕はどちらかと言うとストレートな歌詞表現をしてきましたが、今回のアルバムは少し斜に構えていると言うか、ひねくれていると言うか。「エレクトリックセクシー」は少々毒入りのアルバムなんです(笑)。
音作りに関してはいかがですか?80’sの曲調を選ばれているのが印象的ですが。
とくに2000年以降、80’sのフレーバーを表現した若いミュージシャンたちがたくさん出てきて、その感覚は80’sを原体験した僕らよりも洗練されていて新鮮でした。僕は90年代の始まりにメジャーデビューして、その頃は80’sの音楽を乗り越えようとしていたので、強く影響を受けた80’s音楽は逆に封印していたんです。でも、若い世代のバンドの人たちが80’sを取り入れる感覚が面白くて、それで、僕なりにやってみたいなと思いました。一番気を遣ったのは、懐古趣味的な80’sサウンドにするのではなく、80’sフレーバーを取り入れた今のお洒落なポップミュージックにするということです。80’sはファッションでも音楽でも今見るとダサいところもかなりあって、でもそれが逆にキッチュで面白かったり。それから一時期ダサく聴こえていた80’s音楽が時間が経過してまたかっこ良く聴こえてきたり。時間が経って改めてわかる80’sのクールな感じもある訳で、そういうことをアイデアとして取り入れながらメロディアスな現在のポップスを作る。そこにこだわりました。今回に限らず、それはいつも意識していますが。
オリジナル・ラブのメジャーデビューから20年余り。その間の変化は、ご自身で意識なさいますか?歌がとてもソウルフルになってきていると感じるのですが。
年々、ソウルフルになってきています(笑)。最近ではギター1本でライブをやる技術が上がって、バンドの時と同じくらい、時にはバンド以上に盛り上がるライブも出来るようになってきました。そういうことは10年前には考えられなかったわけでね。曲づくりは、あまり考え込まずに持続的に毎日の日課のようにやっていけたらと思っています ね。ある程度曲が形になってきたら「コンセプトはこうだ」と考えていくことが多いですが、先にアイデアがある場合もあります。書くしかないんですよ。いろんな書き方を自分でその都度、見つけていきたいと思っています。それまで経験を積んだやり方というのは、曲を創作することにおいてはあまり意味がないような感じがします。経験は別の部分で反映されてくるんじゃないかな。例えばライヴパフォーマンスでは、やっぱり経験がすごく生きるんですよ。歌を何十年も歌ってくると幅がどんどん広がってくるし、歌の表現やライヴパフォーマンスがどんどん深まってくるんですよね。
10月から始まる「ひとりソウルツアー2013」は、田島さんの豊富な経験が可能にした 企画と言えますか?
「ひとりソウルショウ」は一昨年から始まったんですけど、それはもう完全に初めてのことでした。ひとりでステージを2時間、ギター1本でソウルショウをやって盛り上げてお客さんに踊ってもらえるか…。最初は出来るかどうかわからなかったけど、いろいろアイデアを練って実際にライブをやってゆくことでスタイルが出来てきました。今回もまたちょっと新しい試みをしてみよう、面白いことをやってやろう、楽しいライヴにしようと思っていますね。ギター1本で歌って踊れるひとりきりのソウルショウ。その2013年度版、バージョンアップしたライヴを皆さんに披露したいです。「ひとりソウルショウ」を始めてから自分の中に新しいチャンネルが開いた感じなんですよ。自分のことはコンポーザーだと思っていましたが、最近はコンポーザー兼ギタリストになってきちゃった。「ひとりソウルショウ」をやってから、ギターを弾いて歌うことのルーツ、その歴史を紐解くことが面白くて。1920年代~30年代のカントリー・ブルースをよく聴くようになりました。彼らのやっていたことが「元祖」ひとりソウルショウじゃないかと。最近はさらにジャズ・ギターの方にも興味が及んでいます。今までももちろんジャズを聴いてきましたけど、ギタープレイヤーとして、ひとつひとつの音がどう構築され演奏されているかということが少しずつわかるようになってきた。さっき表紙の撮影で持ったのも、買ったばかりのジャズギターです。ギターを弾いて歌うということは、実は凄く多彩で広がりのあることだと最近気づいて、今それが面白くて仕方ないんですよね。ギターを衝動買いしないように努力しているくらいです(笑)。それぐらい、今はギターを弾いて歌うことに夢中になっている時期。少年時代以来ですね。昨年よりギターが上手くなっているし、音楽も成長している。「ひとりソウルショウ」も成長している最中です。このライヴが面白いのは、自分の肉体と音楽が完全に直結しているということなんですよ。例えばバンドでやるときは、自分の出来ないことはメンバーにやってもらえるじゃないですか。ところが「ひとりソウルショウ」は自分が出来ないことは、もう一切出来ない訳ですよ。だから練習するしかない。弾き語りの本質って、そこなんですよ。何か新しいアイデアがあって表現したかったら、とことん練習しなく ちゃ。だから、昔のブルースマンはやっぱり巧かったですよね。かといってただ指が速く動くだけの超絶テクニシャンという訳でもないんですね。例えばサン・ハウスとかライトニング・ホプキンス、ジョン・リー・フッカーとか、彼らが超テクニシャンかというとそういう訳ではない。むしろ、割と単純なことしかやらないんだけど、圧倒的にカッコいい。彼ら独自のリズム、グルーヴ、フィーリングというのがあって、それは彼らが練習して、そして彼らが生きた人生経験が反映されて実現した訳です。そこが面白いですよね。自分がやりたいことを表現するためにはやっぱり練習するしかないし、練習したらそれがダイレクトに表現につながる。それが「ひとりソウルスタイル」であり、弾き語り。ひとりでギターを持ってライヴやるというスタイルが一番の醍醐味、面白さだと、最近気づいちゃった。だから今、それをやるのが面白くてしょうがないんで すよ。
ブルースの弾き語りの醍醐味をひとことで言うと?
基本的に踊れることだと思いますね。カントリーブルースマンがやっていたのは、弾き語りなんだけどダンスミュージックなんですよ。実際にお客さんはお酒とか飲んだりしながらライブを見て踊っていたんじゃないかなと。あとやっぱり歌詞が凄い。文学的です。今の人たちは暗喩をあまり使わずに直接的な歌詞を書くけど、昔のブルースはもっと何かいろいろ託して歌ったりして、そこがクール。例えばロバート・ジョンソン(伝説的なブルース歌手でありソングライター)は天才の中の天才と言うべき人で、陰の言い方が巧いというか…。間接的な言い方で、粉をまぶしているような表現だけれども言ってることは相当えげつない。今のヒップホップを超えているようなヤバいことを歌っています。ロックというのはあそこから始まって、あれを超えられないんじゃないのかなという感じがしますね。僕の持論では、ロバート・ジョンソン以降、ロックは退化している(笑)。ブルースって非常にラディカルです。そういう意味では、あれほど完成された反骨的な音楽というのはなかなかない。しかも凄く洗練されて洒落た音楽。なかなか敵わないですよ。昔のブルースマンたちは、おそらくモテまくったと思います。で、そのことも歌にしてる。あの街にもこの街にも女がいるんだよって…。冗談のようですが、多分本当のことを歌っているんだと思います。今、なかなかそういうことは言えないでしょ。「君だけだ」みたいなことになっちゃうじゃない。そんなところも洒落ている。「ひとりソウルショウ」はカントリーブルースをやるわけではないですが、でも、彼らのやっていた音楽をリスペクトして今に受け継ぐつもりで、現代の洒落た弾き語りダンスミュージックを追求していきたいですね。
11/24SUNDAY
ひとりソウルツアー2013
チケット発売中
■会場/名古屋クラブクアトロ
■開演/18:00
■料金/全席自由(整理番号付き)¥5,250
■お問合せ/名古屋クラブクアトロ TEL.052-264-8211
※ドリンク別・入場時に別途¥500必要
※未就学児入場不可