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「市川染五郎」スペシャルインタビュー
取材日:2016.04.11

古典の大役に次々に取り組むほか、新作歌舞伎や海外公演など
新たな挑戦においても結果を出し続け、存在感をますます強めている市川染五郎。
歌舞伎界の次世代を担うリーダーが、この夏、全国27会場で行われる巡業公演
「松竹大歌舞伎」東コースに参加し、東海地方にも登場します。
座頭として「たった1日」の公演にかける思い、
今、自らが作りたい歌舞伎について、語ってくれました。

歌舞伎役者の方々にとって、地方巡業はどのようなものなのでしょうか?

普段、歌舞伎の公演を行っている東京、名古屋、京都、大阪、博多以外の地域に伺うチャンスは巡業のときにしかありません。しかも、一ヵ所につき1日限りの公演です。そのたった1回の公演で歌舞伎の面白さを感じていただけなければ、巡業に出る意味がない。いつも、それだけの大きな責任を感じながら勤めさせていただいています。今年の「東コース」は僕が頭ですから若い座組です。持てる時間を全て使って盛り上げたいと思っています。そのひとつとして、冒頭にご挨拶の時間を設け歌舞伎の歴史やご覧いただく演目の紹介を僕が自らお話しさせていただく予定です。多くの方に歌舞伎の楽しみをより深めていただける近道にできればいいですね。


今回の目玉でもある「松浦の太鼓」は、染五郎さんにとってゆかりの深い演目ですね。

曽祖父の初代・中村吉右衛門が得意とした演目「秀山十種」のうちのひとつです。今回、僕は叔父(当代・吉右衛門)に教えていただいて、初役で松浦鎮信を勤めます。これまでに大高源吾は何度かさせていただいています。叔父の松浦候をすぐそばで見ていて、気持ちの変化を自由自在に操っているところに感嘆していました。またこの演目は、音楽的にも本当に美しい台詞術を堪能できるんです。毎日そばで聞いていても、ただただ楽しくなってしまうばかりです。本当は勉強しないといけないんですが(笑)。ただ、役者にとっては、芝居や役に毎日触れるということが大事なこと。今回、初めて松浦をさせていただくことで見るとやるのは大違いだということを実感するとは思いますが、何とかできるようになりたいし、その第一歩だと捉えて取り組みたいと思います。「いずれは松浦をやりたい」と、ずっと目標にしてきた役ですから。

忠臣蔵外伝として人気の高い演目で、俳諧に通じる者同士のやりとりが魅力ですね。

真意を直接口にせず、句に込めて伝え合う。そこがとても洒落ているんですね。ですから、汗をかいて力いっぱいやるお芝居ではないんです。気持ちの変化というものを明確にお客様にお伝えするのが大事だと思っています。なかなか討ち入りしない赤穂の浪士たちに対してじれったい思いを抱きながらも、ギスギスせずにどこか殿様の愛嬌を感じさせるところが松浦候の魅力。そういう雰囲気を醸し出したいですね。

「晒三番叟」「粟餅」と、舞踊の演目もふたつ楽しめます。

ふたつとも、体をよく動かす力の要る踊りですから、ライヴでないと味わえない躍動感をお届けしたいと思います。また、「晒三番叟」は長唄、「粟餅」は常磐津と、音楽のジャンルが違うんです。歌舞伎独特の音楽、踊りを楽しんでいただけたら…。「粟餅」は中村壱太郎さんと踊ります。ふたりの粟餅売りが夫婦という設定は珍しいんですよ。今回、振りも新しくつけていただいていますので、この機会にぜひご覧いただきたいですね。

染五郎さんは、三谷幸喜さんやいのうえひでのりさんと新作歌舞伎を作ったりラスベガス公演を成功させるなど、新しいことに積極的に取り組んでいらっしゃいます。その原動力になっているのは、どんな思いなのでしょうか?

古典をやればやるほど、その凄さを強く感じます。そして、そう感じれば感じるほど、それに匹敵する新しいものを「今、作りたい」という思いが沸いてくるんです。それが新作に取り組むエネルギー。だから、古典と新作は決して対比するものではないんですよね。歌舞伎ファンを増やすためのきっかけとして新作を作っているわけでもありません。言ってみれば、自分が見たいものを作りたいというシンプルな思いが原動力です。だから、今、流行っているもの、今この時代に誕生しているものに対するアンテナは常に敏感に張っていなければいけないと思っています。


染五郎さんが見たいと思われる新しい歌舞伎とは、どのようなものですか?

4月には歌舞伎座で新作「幻想神空海沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を初演しました。音楽的な台詞劇といいますか、新しい歌舞伎のパターンを生み出せたのではないかと思っています。夢枕獏さんの原作がそういう世界観を持っていましたから、歌舞伎でも成立するんじゃないかという思いを持って取り組みました。また、中国大陸のスケール感を出すのも歌舞伎の得意技ですし。古典が持つベースはもちろん生かしつつ、古典にない新しいジャンルを作り出してみたいんです。昨年、中島かずきさん作、いのうえひでのりさん演出で取り組んだ歌舞伎NEXT「阿弖流為」は、この6月から「シネマ歌舞伎」として上演されます。映画という形態になると全国展開しやすくなるということもありますが、僕は歌舞伎を映像で表現するという演出方法のひとつだと捉えています。映像ドラマとしての歌舞伎はまだ誕生していませんから、そういうものをぜひ作ってみたいと思うし、作れる可能性はあるんじゃないかと思いますね。


ラスベガスで上演なさった「鯉つかみ」もウォータースクリーンに巨大な鯉のホログラム映像を出現させるなど、最新のテクノロジーと歌舞伎を融合させたものでした。

最新の映像技術というのは色彩がとても鮮やかなんですよね。色彩というのは歌舞伎にとっては不可欠なものですし、演出の中に取り入れることができるんじゃないかと思って取り組みました。ただ新しいこと、やったことのないものを取り入れるだけではダメなんです。それでは本当のミスマッチになってしまいますから。目的を明確に持ち、それを実現するために何を取り入れるかを考えることが大切だと思っています。

今、さまざまな娯楽が溢れる中で、観客が歌舞伎を選択したくなる一番の魅力とはどんなものでしょうか?

現代は「ナビ社会」ですが、面白いところを自分で探してみて欲しいと思うんです。歌舞伎には、それが絶対にある。ストーリーを追うことだけが歌舞伎の楽しみ方ではありません。話の筋は置いておいても楽しめるところがたくさんあります。だから、ご自身が何か興味を持てるポイントを探しに来てもらいたいと思います。また、歌舞伎というものはひと筋縄でできることではないんです。歌舞伎役者になるのは簡単なことではありません。なかなか手に入らないものというのも、今どき珍しいでしょ?そういうものを感じに来ていただきたいなと思います。



平成二十八年度(公社)全国公立文化施設協会主催 東コース
「松竹大歌舞伎」


〈愛知公演〉7/18MONDAY・HOLIDAY
チケット発売中
■会場/春日井市民会館
■開演/昼の部12:00、夕方の部16:30
■料金(料金)/[昼の部](残席僅少) 一般 S¥7,500 A¥5,500 B¥3,500(完売)
[夕方の部]一般 S¥7,000 A¥5,000 B¥3,000
中高生¥500(webからの事前申込)
■お問合せ/かすがい市民文化財団 TEL.0568-85-6868
※未就学児入場不可

〈三重公演〉7/20WEDNESDAY
チケット発売中
■会場/三重県文化会館 中ホール
■開演/昼の部12:00、夜の部16:30
■料金(料金)/一般 S¥7,000 A¥6,000
■お問合せ/三重県文化会館 TEL.059-233-1122
※未就学児入場不可

〈岐阜公演〉7/21THURSDAY
チケット発売中
■会場/可児市文化創造センターala 主劇場
■開演/13:30
■料金(料金)/全席指定 一般¥7,500 18歳以下¥3,750
■お問合せ/可児市文化創造センター ala TEL.0574-60-3050
※未就学児入場不可