HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「石橋静河」インタビュー

「石橋静河」スペシャルインタビュー
取材日:2021.05.07

戦後を代表する劇作家・秋元松代が書き、
蜷川幸雄の演出で千回以上も上演されてきた『近松心中物語』。
この演劇界の名作が長塚圭史演出で新たに立ち上がる。
描かれるのは江戸元禄時代のふたつの恋。
ひとつは、飛脚宿亀屋養子・忠兵衛(田中哲司)と、
遊女・梅川(笹本玲奈)の悲しすぎる運命だ。
そして、古物商傘屋若旦那・与平衛(松田龍平)とその妻・お亀は、
お亀の情熱で心中へと突き進んでいく。
エネルギッシュでどこかおかしみさえ漂うお亀を演じるのは石橋静河。
最近では、話題のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』にも出演し
注目されている役者は、お亀をどう演じ、どんな思いで舞台に立つのだろうか。

稽古が進んで、改めてどんなふうに『近松心中物語』の魅力を感じておられますか。

台本を読んでいるだけでも、いろんな人の人生が凝縮されている面白さがあるなと思っていたんです。それこそ、私が演じる商家の娘から、遊郭にいる女性まで。それが、役者の声や動きで、長塚圭史さんの演出で、それぞれの役が立ち上がっていくと、そこで初めて見えてくるものや成立することがあって。力強く生きている登場人物も、明るいことを言っていればいるほど切なく、よりそれぞれの苦しみが伝わってくる感じがしています。


その中で演じられるのが、古物商「傘屋」の箱入り娘・お亀。夫の与平衛に、自身が憧れている心中を迫っていくことになります。どんなお亀・与平衛が立ち上がっていますか。

幼馴染のふたりということが大きいのかなと思っていて、だからお亀は感情を爆発させて与平衛を振り回すことができるんでしょうし。与平衛もなんだかんだ言いながら、結局お亀についてきてくれるので、やはりお互いのことをわかっていて、繋がりが強いんだと思います。与平衛は、最初はダメな人だなと思っていたんですけど(笑)、龍平さんが演じられて立ち上がっていくのを見ていると、いい人なんですよね。いい人だから誰に対してもイヤと言えなかったりする。デコボコなふたりだけど、持ちつ持たれつの関係なんだなと思います。

お亀が心中に憧れていることについてはどう思われますか。

なぜここまで…っていうのはわからないんですけど(笑)。でも、お亀にとっては死ぬことが終わりじゃないんですよね。生きて浮世にいれば与平衛はほかの人のところに行っちゃうかもしれないけど、死ぬことで誰にも邪魔されずに与平衛とずっと一緒にいられる、それ以上幸せなことはないと、想像力豊かに考えているというか。いろんなことに興味があって、生きることにすごくエネルギーがあるからこそ死の中に美しい世界を思い描く、ロマンチストなんだと思います。



そんなお亀の姿から、何か今に届くものもあると思われるでしょうか。

お亀が憧れているものが心中だっていうことはちょっと置いておいて、自分のやりたいことや自分の夢に突き進む力というのは、大変な時代に生きているときには大事なことのような気がします。例えば、今ニュースを見ているとつらい情報ばかり流れていて、それをすべて取り込むと自分自身が世の中の苦しみで染まってしまうと思うんですけど、自分の心の中は別だっていうふうに捉えることができたら、何とか生きていける気がするんです。そういう意味では、私は最近、舞台を立て続けにやっていて、ひとつの作品の世界にグッと入っていく時間を持てているので、とてもいい環境にあるなと思っています。世界から自分を切り離してしまうわけじゃないんですけど、でも、ちゃんと自分の好きなものがあって、自分の世界を持つっていうのは、すごく大事なことだと感じています。

石橋さんは、朝ドラ『半分、青い。』で注目されましたが、デビューは舞台でした。舞台はどんな存在ですか。

舞台はやはり、稽古をして時間をかけられるのが好きですね。例えば、『ありがとう』というセリフひとつでも、最初台本を読んだときにこういう気持ちで言うんだろうなと思っても、何度も何度も何度も何度も稽古して、ほかのシーンもやっていくうちに、『あれ?違う「ありがとう」だった!』といった発見もあるので。いろんな可能性を探っていけたり、いろんな検証ができたり、何度もやっていくことで頭で考えた以上のことができたりするところが、舞台は面白いと思っています。


バレエやダンスをやっておられたから、身体表現の点でも舞台は自由にのびのび表現できる場でもあるのかなと想像します。

そうなんです。もともと大きく動きたいタイプなので、映像で表情だけで芝居しないといけないときは、どうしても窮屈だなと感じてしまって(笑)。もちろんそれも大事な技術だと思うんですけど、自分の持ってる気力も体力も全部使い果たして表現すれば、観ている方がそのまま受け取ってくださるという舞台は、すごく幸せな時間です。これからもダンスは続けていきたいことなので、お芝居も好きですがそれだけにとらわれず、自分が本当に好きなもの、やりたいと心が動くものに関わっていきたいと思っています。

映像ではクールな役が多い印象があるので、今回のお亀でエネルギッシュな石橋さんを観られるのも楽しみです。

感情の一つひとつの強さはもともとはお亀タイプなんですけど(笑)、大人になってちょっと抑える性質になったので、それが映像では映されることが多いのかもしれません。だから今回は、もともと持っていたものをどんどん解放してできたらいいなと思いますし。そうすることによって、これからほかの作品をやるときも、もっと可能性が広がるといいなと思っています。

『未練の幽霊と怪物』に続いて、穂の国とよはし芸術劇場PLATに立たれますが、メッセージをお願いします。

初めて参加した映画(『少女』三島有紀子監督)と、ドラマ『東京ラブストーリー』の撮影で豊橋の皆さんにお世話になりました。そんなふうに作品の撮影や上演を寛大に受け入れてくださる場所なので、今回も観ていただけることを嬉しく思います。そしてまた鰻を食べたいです(笑)。

◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/安田慎一



10/1FRIDAY〜3SUNDAY

「近松心中物語」
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/10月1日(金)18:00 10月2日・3日(日)13:00
■料金(税込)/全席指定 S¥10,000 A¥8,000 B¥6,000 ほか
■お問合せ/メ~テレ事業 TEL.052-331-9966 プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090
※未就学児入場不可