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「佐渡裕」スペシャルインタビュー
取材日:2017.04.17

ひとたび足を運べば、誰もがその虜になってしまうのが佐渡裕のコンサート。
大柄な体格から振り下ろされるタクト、情熱的な指揮ぶり。
そして開演前のユーモアを交えた明瞭な楽曲解説。
その気さくな人柄とバイタリティから、
音楽を介した様々な活動にも意欲的に取り組んでいます。
2015年にはオーストリアのトーンキュンストラー管弦楽団の
音楽監督に就任した佐渡が今回共演するのは、
震災直後に共にチャリティー・コンサートを開催したケルン放送交響楽団。

佐渡さんの音楽活動は演奏だけではなく、音楽を介して多岐に渡っていらっしゃいます。

若い頃は多くの指揮者が、自分が食べていくことに必死な一面を持っていたりします。自分がした仕事に対して報酬を払う価値があると思ってもらって、初めてプロと言えるわけです。私も他の指揮者と同様にその道を辿ってきました。そんな私にとっての転機は、やはりバーンスタインとの出会いです。彼は様々な活動をしていました。彼が、今までで最も誇りに思う仕事は何かと訊かれた時に答えたのは、バースタイン自身が企画した「ヤング・ピープルズ・コンサート」だと。子供たちのためのコンサートです。子供向けのコンサートというと、指揮者の仕事としては若手の仕事ですから、若い僕のためにわざとそう答えているのかとも思ったくらいです。当時の私にはジョークにしか聞こえなかった。でもその企画によって、たくさんのクラシックファンや演奏家が生まれました。その後、僕はバーンスタインの元で札幌の「パシフィック・ミュージック・フェスティバル」に携わりました。まだ若かったですから自分の音楽で精一杯でありながらも、音楽教育の場に立ち会うことができたんです。これが私の活動の原点と言えるかもしれないです。私自身も日本で「佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート」を受け継ぎ、「題名のない音楽会」で司会を務めました。私はそうして、バーンスタインの言葉が本気であり、そういう活動に心底誇りを持っていたことを実感したんです。

阪神淡路大震災を経ての兵庫県立芸術文化センターの芸術監督就任をはじめ、様々な出来事によって佐渡さんと人々が繋がっていきます。

兵庫については貝原前兵庫県知事から「震災前よりも、ずっと優しくてたくましい街を作って欲しい」と任命され、心が震える思いがしました。街自体の復興はもとより、一番素晴らしいのは「心の復興」に行政や街が真剣に取り組んだことです。豊かな心を作り、人と人とのつながりを確認する。当時私の全精力を注ぎ込んだと言っても過言ではなく、それは今も終わっていません。1999年には大阪で「サントリー1万人の第九」が始まります。1万人が集まるとなると、いわゆるクラシックファンではない人も沢山いらっしゃるんです。私はここで、ベートーヴェンの面白さ、「第九」の素晴らしさ、みんなで合唱する楽しさをしっかり伝えたいと思っています。そういう活動を一つ一つ経験することによって、私の中に伝えたい「言葉探し」が始まりました。


具体的にはどのような言葉なのでしょうか?

音楽の素晴らしさを、言葉でどう伝えるのかということです。音程やフレーズの美しさ、バランスを整えるということではなく、音楽が人にどう寄り添っているものなのかとか。自分の中には無意識のうちにはっきりしたものがあるんですが、それが言葉になっていなかった。今までコンサートで2,000人のお客様を前に演奏していたのが、様々な活動でマスメディアを介して言葉を発する機会が出来てくる。そんなタイミングで東日本大震災が起こりました。


震災直後のケルン放送響とデュッセルドルフ響とのドイツでの「第九」、スーパーキッズ・オーケストラの演奏会など、佐渡さんご自身が葛藤を感じながらも活動を続けていらっしゃいました。

ケルン放送響とデュッセルドルフ響とのチャリティー・コンサートは、私が音楽とどう関わっていくかという考え方を変える出来事でした。それがスーパーキッズ・オーケストラの東北での演奏に繋がっていきます。海に向かっての演奏には感慨深いものがありました。自分たちの演奏を聴きながらたくさんの人が涙して祈りを捧げている様子を目の当たりにし、自分たちの想像を超える音楽の力を感じました。演奏会は継続して毎年東北で開催していて、今も友情というか、縁で結ばれていることを感じます。演奏会にひたすら注力することが、我々の本来の姿ではあると思います。ただ、やりたいこととやるべきこと(使命)とがあるからには、体力が続く限りはこのスタンスを保っていきたいと思います。

縁の深いケルン放送交響楽団ですが、どのようなキャラクターを持つオーケストラでしょうか?

レベルの高いドイツにあっても屈指のオーケストラで非常に柔軟性もあり機能的。ドイツらしい音を作り出します。片や日本にとても縁があります。若杉弘さんが音楽監督でいらしたこともありますし、コンサートミストレスに四方恭子さん、首席オーボエ奏者に宮本文昭さん、首席コントラバス奏者に河原泰則さんが在籍したこともあります。2010年、ケルンでのジルベスターコンサートが最初の共演だったのですが、それが変わったプログラムでした(笑)。大晦日のコンサートなのにシェーンベルクがあったりレスピーギの全然知らない曲があったり。でもこれにはちゃんと理由があるんです。このオーケストラはケルンの街で非常に愛されて大事にされている。そしてオーケストラ自身も、この街の音楽文化を非常によく考えています。だから演奏会にも必ずテーマがある。例えば先ほどのジルベスターコンサートは「キャバレー・ソング」。実際演奏していくとドイツ特有の内に向かった内容で、聴衆とオーケストラとの一体感を非常に感じることができました。点と点が線になり面になる、そういう綿密さを持ったオーケストラです。

今回はベートーヴェン「運命」、そしてシューベルト「未完成」。レコード録音において「最強」と呼ばれたカップリングですね。

やはり自分の子供時代にレコードを聴いた原体験があります。そしてこの2曲をこのオーケストラで、日本の皆さんに聴いてもらいたいと思ったのです。「運命」はめちゃくちゃキャッチーですよね。「ソソソミ」という2音で構成され、これだけで1楽章作られていると言ってもいいでしょう。これは他のシンフォニーには例がなく、感情だけでなく緻密な職人技がそこにあるわけです。「ソソソミ」の後に続く音が欠けているから、これだけでは調性がわからず、聴く人間をすごく不安にさせる。そして第4楽章にたどり着きハ長調でフィナーレを迎える。ハ長調は「真っ白」なもの。ここには王様の勝利ではなく、人々の勝利が歌われているのです。「運命」は小節から楽章、楽曲全体へと、小さな単位から綿密に作り込まれて曲が構成されている、非常に計算されて構築された壮大な「建造物」です。「未完成」はとにかく美しい。オーケストラの編成を小さくするのではないけれど、それぞれの楽器の音を聴き合えるような室内楽的な演奏をしたいと思っています。何か過去のことを思い出しているような美しさと、突然襲ってくる現実的な苦しみとの中にシューベルト特有の美意識を感じることができると思います。どちらの名曲も名曲になりうる理由が必ずある。それを感じとって頂けるコンサートにしたいですね。

◎Cover Photo/安田慎一



10/24 TUESDAY
第21回 スーパークラシック コンサート
佐渡裕 指揮 ケルン放送交響楽団
「運命」「未完成」

チケット発売中
■会場/日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
■開演/18:45
■料金(税込)/S¥20,000 A¥17,000
B¥14,000 C¥11,000 D¥8,000
U25¥3,000 ※U25はアイ・チケット(電話)のみ取扱い
■お問合せ/東海テレビチケットセンター TEL.052-951-9104(平日10-18時)
※未就学児入場不可