HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「尾上松也」インタビュー
「尾上松也」スペシャルインタビュー取材日:2014.08.29
歌舞伎の若手花形として大躍進中の尾上松也。
コクーン歌舞伎への出演や自主公演の開催など本業での活躍はもちろん、
歌舞伎以外の舞台や映像の制作現場から
オファーが引きも切らない活躍で注目を集めています。
その松也が、新たに挑戦するのが朗読。
司馬遼太郎原作の「竜馬がゆく」を題材に、松也が語って魅せる龍馬像とは…。
歌舞伎以外の舞台や映像の作品にも積極的に取り組まれる中で、「朗読」はまた新たなチャレンジですね。
朗読劇は、いつかやりたいなと思っていたんです。読み手のアレンジによっていくらでも想像の幅を広げられる面白さがありますよね。前から、ずっとチャレンジしたいと思っていたところ、今回お話をいただけて。ですが、僕の前になさっていらしたのが(坂東)玉三郎のお兄さんと伺って驚きました。「僕で本当にいいのか」って(笑)。でも、玉三郎のお兄さんにも相談したら「ぜひ、やってもらいたい」と言ってくださいました。
玉三郎さんからアドバイスなどはありましたか?
「朗読するだけだと考えていたら大変なことだよ」とおっしゃって。喋るだけじゃなく、その世界観をお客様に感じていただいて、想像力をかき立てなければならない。「お前さん、あれは体力と精神力をもの凄く使うんだよ。だから、頑張って!」と激励していただきました
今回の題材、司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」は、多くの日本人に影響を与えてきた国民的歴史小説とも言える作品ですね。
僕も10代のときに読みました。龍馬には、とても深い縁を感じているんです。というのは、僕は本名を「龍一」といいまして。うちの父(六代目尾上松助)と母が、坂本龍馬のお芝居に出演したのがきっかけで結婚したので、僕の名前に「龍」の字を付けたそうなんです。その話を子どもの頃から聞かされていたので、龍馬には凄く親近感を感じ続けてきました。ですので、いつか龍馬の役を出来たらいいなと。今回は朗読といっても龍馬を演じる訳ですから、僕にとっては非常に感慨深い。しかも本番の1月27日は僕の誕生日(1月30日生まれ)と近いんですよ。自分の中でも思い入れの深い公演になりそうです。龍馬が乗り移ったように演じられたらいいなと思います。
松也さんがお感じになっている龍馬の魅力とは?
アウトローでありながら、ただはみ出しているだけでなく、とても広い視野を持っている人だと思うんですよね。組織に属さないことによって全体を見渡していたと思うし、その中での人とのつながりや仲間意識を大切にしている。また、「日本はひとつだ」という強い信念を持っていたり…僕自身が描いている理想の日本男子像に、龍馬はかなり近いと思いますね。もちろん人間ですからいろんな葛藤があったでしょうけど、根本にあった龍馬の心意気というものは今回の朗読で伝えたいなと思います。最初に原作を読んだのは学生の頃でしたから、単純に龍馬をヒーロー化していたところがあります。作品全体から感じられる快活さと自由さへの憧れですよね。でも、自分が大人として社会で生きていかなければならなくなった今、自分の思いや意見を主張し続け、形にしていくことの大変さが身に沁みてわかるようになりました。学生のときに感じていた龍馬とはまた違った偉大さを感じることが出来るようなったと思います。
松也さんご自身も20代の前半から自主公演を始められるなど、広い視野を持ってご自分の動き方を決めていらっしゃるように感じます。
龍馬の生き方に子どもの頃から憧れていたのは間違いないので、その都度どこかで生き方のイメージを参考にしていたのかもしれませんね。このままじゃいけないと常に思うこと、それに対して何をしなきゃいけないかを考えること、周りから何を言われようと自分が成し遂げたいことに向かっていくこと…龍馬のそんな姿勢への憧れが、知らず知らずのうちに実際に目指すものに変わっていったのかもしれない。
今後の展望や夢などを、同世代の歌舞伎俳優同士で語り合ったりすることはありますか?
中村勘九郎さんと七之助さんが唯一の同世代なので、彼らとはそういう話をすることも多々あります。特に七之助さんとはひとつしか年齢が違わないですし、子どもの頃からずっと一緒ですから、お互いに将来の夢を語り合ったりしてきました。でも、いつも共通して話し合っているのは、自分たちが歌舞伎のために何が出来るのかを考えていかなきゃいけないということ。もちろん僕らはまだまだ若手ですし、至らないところもたくさんありますから、もっともっと修業に集中しなければなりません。でも同時に、先輩方がしてきてくださったように次の世代に歌舞伎を引き継いで、ずっと続けていけるようにするには何をすべきかを常に考えていなきゃ、という思いも持っています。そういう話をするときにいつも出てくるキーワードは「危機感」ですね。それはもちろん、芸の上でも同じです。これでいいと思ったらそれで終わり。「これでいい」なんて思う役者はいないと思います。みんな探究心を持っていますから。ただ、そういうこととは別に、例えば空席がちらほら見えたときに「これぐらいお客様が入っていたらいいか」と思ってしまってはダメだと思うんです。やっぱり、毎日満席にしなくてはいけない。満席じゃなかったら「何がいけないんだろう」と考える。そういう危機感を常に持ってなきゃね、という話は七之助さんとよくしています。
若くしてそうした思いを強く持っていらっしゃるのは、松也さんご自身が早くにお父様を亡くされたことと関係していますか?
このままじゃいけない、潰れちゃうと本気で思ったのは、やはり父親が亡くなってからですね。僕が一門を率いることになって、ただでさえ僕には、代々の歌舞伎の家に生まれていないというハンディがある…うちは父の代から歌舞伎を始めましたから。さらに、父という後ろ盾がいなくなって、どうやって生きていったらいいのかという不安と、自分が役者としてどうしたいのかという疑問で、当時は一杯でした。でも、自分はもっと上を目指したい、このままただ待っているだけではいけない、そういう思いが、24歳のときに始めた自主公演につながった訳です。自主公演では観客の動員が直接自分に返ってきますから、お客様に来ていただくということがどんなに大変なことか、よくわかりました。最初は凄く小さな劇場から始めましたが、それでも半分以下しか席が埋まりませんでしたよ。客席に知り合いしかいないという状況でやりましたのでね(笑)。お客様を呼ぶということがどんなに大変で、ひとつのお芝居にどれだけの人が関わって、どれだけの費用がかかるということがわかってきて、いろいろなことを現実的に考えられるようになりました。勘九郎さん、七之助さんも、お父様の勘三郎さんが常に危機感を持っていらした方なので、早い時期からそんなことを教えられてきたみたいです。ですから、彼らとは同じ思いで話が出来ます。でもそういうことは、僕ら3人だけではなくて、ほかの役者はもちろん歌舞伎に関わる人みんなが思っている。歌舞伎界の人みんなが歌舞伎を愛しているのは間違いありませんから、動ける人がどんどん行動することで多くの方に歌舞伎を認知してもらって、「歌舞伎を観てみたいな」と思っていただくきっかけを作っていければと思います。
勘九郎さん、七之助さんとは、プライベートでも仲が良さそうですね。
七之助さんは高校も同じだったので、プライベートでも共通の友達が多いんですよ。彼に関しては、役者仲間というよりも普通の友だちという側面が強いですね。一緒に旅行したこともありましたし。彼はね、僕の出ている公演を観に来てくれたりするんですよ。以前も(中村)獅童さんと「連獅子」をさせていただいたときに、京都までわざわざ観に来てくれて。歌舞伎以外の地方公演も、時間があると観に来て批評してくれるんです(笑)。昨年「ロミオ&ジュリエット」というミュージカルに出させていたただいたんですが、彼も忙しいから1日しか観られる日がなくて。それが大阪公演の日だったんですが、わざわざ来てくれて「泣いた」と言ってくれて。嬉しいです。彼が「平成中村座」に出ているときなどは、僕が休みの日に観に行きます。そんな仲間です。
七之助さんの批評は厳しいですか?
厳しいんですよ、ホントに(笑)。褒めて落として、褒めて落として、というのを繰り返すんです。「気持ちが入っていて良かったけど、あそこはダメだよ。全然合ってない」と怒ったと思えば「でも気持ちがあったから、俺はあの踊りは好きだったよ」とか…。「ありがとう。でもいいのかダメなのか、どっちなんだ?」って(笑)。でも、正直ですからね。彼に「良かったよ」と言われたときは、本当にいいんだと思えます。だから、彼が観に来ているときは緊張しますよ。
仕事のライバルであり、プライベートでも親友である。そんな仲間がいらっしゃるのは、うらやましいです。
ちょっとクサいかもしれないですけど、奇跡に近いことだと思います。同世代で同じ歌舞伎役者で、こんなに気が合う存在がいるのかというぐらい気が合うし、プライベートでは普通に友だちでいながら、仕事場では彼の存在がもの凄い刺激になる。これまでいつも、彼がいるから焦ったし、早く彼と肩を並べて芝居が出来るようになりたいという思いを持ってやってきましたからね。もちろん、今でもそうですが。
1/27 TUESDAY
新春 言の葉コンサート 尾上松也「竜馬がゆく」
チケット発売中
◎原作/司馬遼太郎
◎語り/尾上松也
◎古箏/伍芳(ウー・ファン)
■会場/名鉄ホール
■開演/18:30
■料金(税込)/全席指定¥7,500
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00〜17:00)
※未就学児入場不可