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「仲村トオル&山田優」スペシャルインタビュー取材日:2013.04.10&17
シェイクスピア四大悲劇のひとつ「オセロ」。
これまで国内外で何度となく上演され、
名立たる俳優たちがその舞台に立ってきました。
今回、白井晃が構成・演出を手がける現代版「オセロ」には、
仲村トオル、山田優が登場。
深淵な人間ドラマをどのように描き出すのか、興味津々です。
仲村トオル
芝居の中で常に新しい自分を探し出し、
自己ベストを更新していきたい。
今回「オセロ」を演出される白井晃さんとは、何度かタッグを組まれています。演出家としての白井さんのどんなところを信頼していらっしゃいますか?
まず、人としてとても紳士的であるということですね。稽古場でも声を荒げたりということもほとんどないし。僕は別に声を荒げられてもいいんですけど。それから、白井さんの自由な発想の枠が広い分、僕らの遊べるところが広いというか…以前ご一緒した「偶然の音楽」という舞台でも、最初は何もない碁盤のような舞台があるだけで、奥行きが凄くあるから走ったり…自由を感じましたね。それより何より、僕が一番好きなのは白井さんの美意識です。「偶然の音楽」を映像で客観的に見たときに「こんなに計算され尽くしたような動きを、こんなに美しいライティングの中で出来ていたんだ」という驚きがありました。
共通する美意識を仲村さんもお持ちですか?
いい、と感じる、ということは共通の美意識は持てるんでしょうけど、自らそれを提案できるかはわかりませんね。どんな演出家の方と一緒にやりたいかというと、自分とはかけ離れた宇宙を持っている人で、「その発想は俺になかった」というようなことを「やって」と言ってくれる人。今のところ、ありがたいことにそういう人たちと出会えてきているし、白井さんもそのひとりです。今回は、劇場の舞台と客席の境界線をなくして、客席を安心して芝居を観ていられる安全地帯にしない、という演出方針のようです。舞台をどんな風に使うんだろうとか、台本に「休憩」と書いてあるけどそれは本当の休憩なのか、とか…僕には全然ない発想を白井さんが次々繰り出しそうで楽しみです。自分の中から出てくる世界の狭さ、バリエーションの少なさにとっくに飽きているくせに、それをやってくれと言われるのはしんどいんですけど、例えば自分が普段喋っている言葉とはかけ離れた台詞を言う、そのことによって違う自分に見えるかもしれないという期待もあります。芝居の中で常に新しい自分を探して追求していきたいし、演出家だけじゃなくて共演者、スタッフ、すべての人たちからいろいろなものを頂いて、自分の実力以上のものになりたいです。人の力を借りてでも自己ベストを作りたいなぁ、と。
「オセロ」は嫉妬、それも「男の嫉妬」がテーマになっています。常に自己ベストを目指してお仕事をされる中で、どんなときに嫉妬という感情が生まれますか?
例えば尊敬する先輩俳優がいい仕事をしたときは「かっこいいな」とか「素晴らしいな」と、素直に思います。後輩の若い俳優がいい仕事をしたときも「あいつは素晴らしい」とか「あいつならやるだろう」と思ったりします。自分が一番みっともない感情になるのは、自分がいいと思っていない人が世間で褒められている状況ですかね。今回演じるオセロに寄せて考えているせいもあるでしょうけど…。妻が若い男と浮気していると吹き込まれ、信じてしまう。自分は誰もが認める優秀な軍人だと思っているのに、自分よりも格下の人間に対して妻が魅力を感じた…そう考えたことが、一番よくない嫉妬の形になったんですよね。それとちょっと似ているかもしれません。その価値を自分がわからないもの、格下だと見下しているものが評価されたり褒められたりしたときに、怒りにも似た嫉妬の感情が生まれる。自分の存在の危機を感じるんでしょうね。「自分の役はなくなっていくんじゃないか」という恐怖を感じて。だからそんなものは認めたくない、という醜い思いがあるんじゃないかな。
激しい嫉妬ゆえに殺してしまう妻・デズデモーナを演じるのは山田優さんですね。
山田優さんがデズデモーナ役だというのを最初に聞いたのは、ご主人の小栗旬という男からなんですよ(笑)。昨年、僕が出演していた舞台を観に来てくれて、楽屋に寄って「次、よろしくお願いします」と言われて。そう聞いたとき、本当にぴったりだなと思いました。立ち姿が美しいし、声がきれいで歌が上手だし、舞台でとても効果的な条件を備えていらっしゃいますよね。オセロが若いイケメン部下に妻を寝取られる、でもデズデモーナはオセロを一途に愛している。そんな役柄もぴったりだと思います。僕は小栗旬君が中学生の時に初共演しているし、今回のキャスティングのことを僕が知ったプロセスも含め、自分の記憶と感情が舞台で使えたらいいなとも思っているんですよ。
山田優
救いようのない悲劇の中で
自分がどんな感情になるのか、楽しみ。
「オセロ」の台本を読まれてどうお感じになりましたか?
「オセロ」は今まで何度も上演されてきましたし、ストーリー自体は皆さんが思っていらっしゃるものだと思いますが、台本を読んでいると意外な始まり方をしていたりするんですよ。役者が楽屋にいる風景からストーリーに入っていくみたいな感じだったり…それが凄く面白いなと思いました。ちょっと現代版になっているので、男と女の間に芽生える感情などもわかりやすく描かれているんじゃないでしょうか。何かひとつを疑ってしまうと悪い渦がどんどん連鎖してしまうようなところだったり…。私自身にもそういうところがあるし、凄くよくわかります。皆さんが見ていただいて自分に置き換えても、たぶん何かそういうことが起こり得ると思うんですよね。嫉妬だったり、やっかみだったり…。ご覧になる方それぞれが感情移入しながら観られる作品だと思います。
山田さんは小さい頃から競争の激しい世界でお仕事をなさっていますが、人に対して嫉妬を感じるようなことはありましたか?
小学校の頃ダンススクールに通ってた時、もちろん「センター取られた、悔しいな」というような経験はありましたが、そんなときも「自分しかできないことをやろう」と前向きに思えるんですよね。だから、人を妬んだり「蹴落としてやる」みたいな感じはなかったですね。自分がどうしたいかということが見えていたんでしょうね。小さい頃から、自分に向いているものが何となく見えていたのかもしれません。もちろん始めは何でもトライするんですが、向いていないとすっぱり諦める。自分に向いているもの、楽しい方に突き進む性格なんですね。ストレスの発散も上手いんだと思います。
演出の白井さんとは初顔合わせですね。
「シェイクスピアだけど緊張しないで。みんなでゆっくり稽古で作っていけるから」と言ってくれました。私が演じるデズデモーナという役も「凄くぴったりだと思うんだよね」って言ってくださって。本当にまっすぐで純粋で、オセロを一途に愛していた女性だと思うんです。ピュアでまっすぐでちょっと幼いところが残っていて、その無邪気さゆえに人を傷つけるという。「こう」と思ったら頑固に貫くような女性なので、そういうところが似てるのかな、とか(笑)。台本を読んでも、ただひたすらオセロを愛しただけで、デズデモーナは悪くないんですよ。最後に「何の罪もなく死ぬ」とひとこと言って死ぬんですが、凄く悲しくなってきちゃって…。しかも、大好きな旦那さんに殺されてしまう。悲しい物語だなと思います。シェイクスピアの四大悲劇のひとつと言われるぐらいですから。こんなに救いようのない悲劇の登場人物を演じたことがないので、自分がどういう感情になるのか、ある意味楽しみです。
舞台出演は今回が二作目ですが、演劇のどんなところに面白さを感じますか?
みんなで助け合いながら一緒の空間を作っていくことが凄く楽しいですよね。初めての舞台を終えて、続けていきたいなと思っていたら二作目が「オセロ」なので、「いきなりシェイクスピアなんだ!」と思って…。でも、自分にとっていい壁が出来た気がしています。白井さんの稽古は大変だと聞いていますが、そこでみっちりと鍛えていただいて、違った一面を引き出してもらえたらいいなと思います。共演の方々も皆さん本当に素敵でご一緒したいと思っていた方ばかりですし、凄く楽しみです。
オセロ役の仲村トオルさんとはテレビドラマで共演されていますね。
でも、現場で少しお会いして少しだけ一緒のシーンがある程度だったので。こんなにしっかり共演させていただくのは、初めてですね。凄く素敵な方なので、ご一緒できて嬉しいです。また、とても真面目でストイックな方ですし、これまでも何作か白井さんとタッグを組んでいらっしゃるので、そこにお邪魔させていただくのは緊張しています。でも、頑張ります!
女優としての目標は?目指していらっしゃる方などはいますか?
素敵な女優さんがたくさんいらっしゃるので、皆さんが目標ですね。先日、対談させていただいた夏木マリさんも大好き。「私は常に挑戦し続けている」とおっしゃっていて、私もいくつになっても挑戦し続けようという気持ちになりました。モデルのイメージが強いのか、これまでは比較的、色の濃い役が多かったんですが、実際の私は意外と地味なんです(笑)。これからは、そんな部分も反映させて、型にはまらずにいろいろな役が出来るようになりたいですね。