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「向井理」スペシャルインタビュー取材日:2016.08.24
多忙な俳優・向井理が、
テレビドラマや映画と同様こだわり続けているのが、生の舞台、演劇です。
出演5作目となる「星回帰線」は、東京の人気劇団・モダンスイマーズの座付にして
岸田戯曲賞作家でもある蓬莱竜太の書き下ろし。
かねてから熱望してきた蓬莱との舞台制作が実現、
向井が3年ぶりに観客の目の前に登場します。
しかも「星回帰線」はタイトルの美しい響きとは裏腹に、
現代社会の複雑さを鋭く照らす重量級の会話劇。
だからこそ、舞台に、蓬莱作品にのぞむ意味がある―静かに賭ける想いが、
向井の言葉のいたるところから伝わってきます。
蓬莱作品との出会いを教えてください。
以前出た映画「ガチ☆ボーイ」の原作がモダンスイマーズの舞台で、それが最初の出会いですね。そこで共演したモダンスイマーズの小椋毅さんと仲良くなって公演を観に行くようになり、以来ほぼ全作品を観ています。蓬莱さんとは打上げでちょっとずつ親しくなって「舞台をやろうよ」と3年ぐらい言い続け、今回やっと実現しました。
その魅力は?
蓬莱さんの作品は、非日常に見えるんですけど、実は日常のありふれた一コマ。でも、その中にいる人たちのちょっとしたズレや勘違い、気分で、だんだん歯車がうまく回らなくなって破綻していく。そこには起こり得ると思わせる説得力があるし、自分もその場にいるような感覚になって考えさせられるんです。その日常の感じは、観ていて傷つきます。それと、僕は会話劇が好きなんですよ。会話劇は、ちゃんと頭を使わないとわからない。そもそも舞台はぼやっと観ていてはダメで、いま何が起きているのか理解して観ないと面白さがわからない。慢心していたら楽しめないんです。それを研ぎ澄ましていけるのが会話劇だと思うんですよ。モダンスイマーズを観る時、最初から最後まで集中して観るから疲れるんですけど、心地いい疲れなんですよね。台本は面白いし、笑えるところも出てくる。そのうち演出って何なんだろうと思い始め、蓬莱さんとやってみたくなったんです。
そんな蓬莱さんは新作で、どこか社会に疲れた人たちの共同生活を描いています。
社会にあまりうまく乗っかれなかった人たちが集まったコミュニティの話ですね。ただ、うまく社会に乗っかれているように見える人も、一歩間違えたらそうなるかもしれない。社会にうまく適応できない人も、意図的に適応しなかったのかもしれない。その人が間違っていたのか、自分が合っているのかなんて誰にもわかりません。僕はこのコミュニティに日常の濃縮を感じるので、そこで起こり得ることは身近でも起こりうると思っています。言葉という具体的なものを使って感情という抽象的なものを表現する時点で、勘違いは起こる。でも、そうしてしかコミュニケーションをとれないので争いは起きるんですよね。
向井さんの演じる三島は悲劇を引き起こす存在とも言えますが、どのように向き合いたいですか。
突拍子もない役ではないですし、どこかで誰でも抱えているものを感じます。平田満さんの演じる藤原も変わった人物のようだけど、変わっていってしまったとも言える。そういうこと含め人間だということを実感してもらえるよう、観客にどれだけ傷をつけられるか……。奇をてらったことするのではなく、生々しいことを意識したいですね。
演劇に特別な想いはありますか。
ドラマや映画に対して、観客の目の前でやれるのは演劇しかありませんよね。それはすごく貴重な体験です。また、映像と違って舞台はカットがかからないのもやりやすい。あとは普段にない緊張感ですよね。でも初日には必ず「もう二度と舞台はやらない」って思うんですよ(苦笑)。毎回「なんで俺、受けたんだろう」と思うほど追い込まれるのに、千秋楽が終わって舞台挨拶をしていると、また来年もやりたくなるから不思議ですね。「舞台が好きです」と熱く語るほどじゃないけど(苦笑)、舞台をやらなければいけないとは思っています。
観客に対する想いは?
観た方が何を感じるかに尽きるし、それを無視したら自己満足でしかありませんけど、自分が観てきた蓬莱さんの作品には、すごく傷つけられる想いや、「そういうことだったんだ」と気づかされることことが多いんですよ。それを知るだけでも、観た甲斐を感じてもらえるんじゃないかと思います。舞台を初めて観る人であれば、ライブである面白さとともに、舞台とは一体どういうものなのかを知ってほしいですね。
演劇は“傷つく”ものですか。
傷つくというより“気づかされる”という言い方がいいかもしれませんね。観ていると、自分もああして人を傷つけたかもしれないと反省することがあれば、「あの人が言ったのはこういうことだったのかもしれない」という気づきもあり、演劇には演劇でしか表現できない何かがある。それが舞台の特殊性だと思います。観客が、終わった後すぐに立てないようなものにしたいという想いはいつもありますね。重いものを受け取ってもらうというのか…。蓬莱作品も「ああ、面白かった」だけでは済まないものなんです。
11/2WEDNESDAY
11/3THURSDAY・HOLIDAY
「星回帰線」
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/11月2日(水)19:00 11月3日(木・祝)13:00
■料金(税込)/S¥8,000 A¥6,000 B¥4,000
■お問合せ/メ~テレ イベント事業部 TEL.052-331-9966
※未就学児入場不可