HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「宮本亞門」インタビュー

「宮本亞門」スペシャルインタビュー
取材日:2022.11.16


2002年以来、宮本亞門の演出で再演が重ねられてきた
二期会オペラ『フィガロの結婚』が、大阪にやってくる。
耳馴染みのあるモーツァルトの名曲も揃っており、
オペラに初めて触れるにはうってつけの作品だ。
さらに、伯爵の召使いのフィガロの結婚をめぐる物語には、
格差が広がる今の鬱屈とした社会の空気を打ち破る爽快さも。
常に自分が面白いと思うことをしたいと生きている宮本の演出だからなおさら、
そこにはパワーがみなぎっている。


二期会の『フィガロの結婚』を初めて演出されたのが2002年。以来、出演者が変わりながらも、ずっと演出を続けてこられました。

これが大劇場でのオペラを初めて演出した作品です。オペラというとどうしても、観る側もそうですが、作る側にも姿勢をたださなければならないという空気があって、最初はそれを壊すことから始めました。というのも、海外では、特にヨーロッパでは、その時代に合った解釈で演出も変わり、新しい表現が生まれ、多彩で面白いオペラがどんどん上演されているんです。クラシックは高尚なものだというイメージから解放されて、このきらめく音楽とストーリーの面白さを存分に楽しんでくださいという時代になっている。ですから僕も、ミュージカルや演劇を作るときと同じように、作品や役の魅力を伝えることを第一に演出をしてきました。オペラ歌手の方々にも、「ここはこんな気持ちじゃないか」といった話をしながらその役に入っていってもらって。すると、心がその役になれば自然に喉も開くんですよね。感情とつながるいい音楽であれば、そこに自然に入っていけるんです。その意味では、モーツァルトは本当にそういういい音楽を書いていると思います。

中でも『フィガロの結婚』にはどんな魅力を感じられていますか。

もともとモーツァルトって、ふざけた人なんです(笑)。残されている手紙を読んでも人間味があふれていて、七転八倒しながら人生を面白がっている。『フィガロの結婚』も、もとになったボーマルシェの戯曲は、当時の封建的な貴族社会を痛烈に批判していて発禁騒ぎが起こっていますが、いろんなことを面白がるモーツァルトは、これこそオペラにするべきだと思ったのでしょう。物語の中でその古い体制を表しているのは伯爵です。彼は、召使いのフィガロとの結婚を控えた小間使いのスザンナに下心を抱き、伯爵夫人を裏切ろうとします。孤高の悲しみを歌いながらも伯爵に対して反逆を起こしていく伯爵夫人が面白く、自分がこの封建制度を変えてやるんだと歌うフィガロも迫力満点。そして最後には、伯爵が「悪かった」と許しを請うて跪く、その爽快感といったら。実際、この作品がフランスの市民革命に影響を与えたとも言われています。今も、伯爵みたいな夫に苦しめられる妻がいたり、LGBTQやジェンダーなどで古い価値観を押しつけられることはありますけど、問題があぶり出されるたびに人類はいいほうに進化していると思うので。未来は変わると信じてこの『フィガロの結婚』を観ていただくと、力が湧いてくるのではないかという気がします。しかも、モーツァルトは、ただ伯爵をいじめるのではなく、ユーモアに包みながら、誰もがいろんな事情を抱え過ちを犯すけれども許されていくというふうに描いている。だから、演出していて幸せな気持ちになるんです。人間っていろいろあっても愛おしいな、生きていて良かったなと。


そのユーモアの部分は笑っていいものなのでしょうか。

もうぜひ笑ってください。例えば、一幕冒頭の、これからスザンナとの初夜を迎えるにあたってフィガロがベッドの大きさを測るシーンなんて、原作には「測る」としか書いていないのに、その夜のことを想像しながら、「何センチ、何センチ」としつこく歌うんですよ(笑)。たぶんモーツァルトは、台本を手がけたダ・ポンテと一緒にゲラゲラ笑いながら作ったに違いないと思うんですけど、そんな楽しいシーンがほかにもいろいろあるんです。関西の観客の方は正直ですから、「なんやねんこれ!」ってあきれながら笑ってもらってもいいですし。モーツァルトも私たちと同じだなと思いながら、気楽に観ていただける作品だと思うので、オペラは堅苦しいという先入観を破って、ぜひ飛び込んでもらいたいです。一度きりの人生、オペラを観ずに終わるのはもったいないと断言します!

年明けには次の舞台『画狂人北斎』の稽古も始まるそうですが、北斎も一度きりの人生を生き切ったイメージがありますね。

モーツァルトも同じタイプだと思いますが、北斎は、周りにどう言われようが自分の思うように生きた人で、日本にこんな先輩がいたということが僕の勇気になっているところがあるんです。過去の成功なんて興味がなく、自分の画号を50回も変え、絵のスタイルもどんどん変えていき、できれば120歳まで描き続けたいと口にしていた。今度の舞台も、「神奈川沖浪裏」を描いた73歳以降の晩年の北斎の話を描くんですが、年齢に関係なく生き生きと自分のやりたいことをやればいいんだなと、いろんな世代の方に感じてもらえたら嬉しいですし。僕自身も死ぬ瞬間まで自分が夢中になれることをやりたいと思っているので、北斎に教わりながら、こういう生き方があっていいよねと貫いていければと思っています。

◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/安田慎一



1/22 SUNDAY
2022グランドオペラフェスティバル in Japan
二期会オペラ『フィガロの結婚』

■会場/フェニーチェ堺 大ホール
■開演/14:00
■料金(税込)/全席指定 S¥10,000 A¥8,000 B¥6,000 C¥4,000 D¥2,000
■お問合せ/二期会チケットセンターTEL.03-3796-1831
(平日10:00~18:00 土曜10:00~15:00 日祝休)
※未就学児入場不可