HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「松雪泰子」インタビュー
「松雪泰子」スペシャルインタビュー取材日:2017.10.03
卓越した演技力と華のある存在感で演劇界からもラブコールが絶えない松雪泰子。
今、新たに取り組んでいるのは、自身も含めた6人の女優とひとりのダンサーたちが、
ある女性を多面的かつ深く掘り下げる作品です。
「この熱き私の激情 〜それは誰も触れることができないほど激しく燃える。
あるいは、失われた七つの歌」。
モチーフとなるのは、フランス文壇に彗星のごとく現れ
36歳の若さで自ら命を断ったカナダ人作家ネリー・アルカン。
高級エスコートガールだった自らの生涯を赤裸々に綴った数々の小説をもとに
彼女の生きざまと心の内側の苦悩や怒りを描き、
2013年のカナダ・モントリールの初演ではその年の話題を独占しました。
今回、演出家マリー・ブラッサールのもと日本でリクリエイトに取り組む上で、
戯曲や原作を丁寧に読み込み、
ネリー・アルカンという女性の人物像や
心の痛みを探求する作業に多くの時間を費やしているという松雪。
緻密な役づくりと繊細かつ鮮烈な表現力は、
その真摯な姿勢と深い洞察に裏打ちされているようです。
最初にオファーを受けられた際、この作品のどんなところに魅力を感じられましたか?
今回、演出を担当されるのはカナダ人の女優・演出家のマリー・ブラッサールさんです。海外の演出家の方とは、密度がとても濃い中で稽古をしていくことができます。また、非常に複雑な構成でアーティスティックなこの作品を日本で作るとどうなるだろうという好奇心もありました。未知の領域だからこそトライしてみたいなと思ったんです。マリーさんは「俳優全員がアーティスト。みんなでクリエーションしていく」とおっしゃいます。表現者としての私たちのクリエイティビティを大切にしてくださる環境でお芝居を構築していくのはとても楽しい作業です。もちろん大変だとは思うんですけれども…。実際、すごく綿密で繊細で高度なことが要求されますが、全員がいろいろな可能性をセッションのように試していけるので、モントリオール公演とは趣の異なる日本人キャストならではの作品に仕上がるのではないかと感じています。
松雪さんが演じるのは「影の部屋の女」。死に向かうネリー・アルカンを描く重要なパートを務められます。どんな準備をなさいましたか?
戯曲は、彼女が書いたいくつかの小説からの引用をもとに構成されています。そのうちの1冊「ピュタン も、あまりの苦しさに読めなくなってしまい本を閉じたことも何度かありました。それほど鮮明かつ深く突き刺さる言葉が連なっているんです。自分の中にある痛みと彼女が抱えている痛みが共鳴する瞬間があって、そこで息苦しくなるんだと思うのですが…。読みながら自分自身の内面の闇も湧き上がってくるような感覚もあるので、これはお芝居の中で使っていこうと思っています。
共鳴するのはどんな部分でしょうか?
ネリーと私が置かれている状況は異なりますが、彼女が感じているであろう感覚というのは自分の中に全くないわけではありません。女性だったら誰もが経験したことがあるようなエピソードは小説の中にもたくさん出てきます。社会や男性の視点による女性の立場、彼らからどのように見られているのか、そして、そういうものによって傷ついてしまう瞬間とか…。一方で、考察すればするほど理解できない領域もあります。死に至るほど苦悩しなければいけなかったのだろうか、苦悩を受け入れたり消化したりできなかったのか、もっと違う道がなかったのだろうか…など、思うことはたくさんありますよね。そんなに思考の渦の中に自分を閉じ込めなくても、考え方を変えればもっと違う世界が見えたかもしれないよね、と思ったり。本当は死にたくないけれども、このままではもう生きられないというような中で、最後までもがいている姿がすごく苦しいんですよ。なんだか、たまらないんです…。観てくださった方がどう感じるのか、とても興味深いですね。今、ネリーがなぜ死を選んだのかをキャスト全員で考察して話し合ったりしているのですが、やっぱりわからないんですよね、真実は。
とても難しいシーンになりそうですが、どのように表現しようと考えていらっしゃいますか?
彼女がとても苦しかったんだということだけは本当に深く理解できるので、その瞬間の苦悩を「怒り」で表現したいですね。マリーさんは、ただ悲しいというだけでなく、本当は死にたくないというネリーの思いが根底にあるとおっしゃっていました。死という選択は、ある種の強さがないとできません。だから、すごく矛盾した感情がその瞬間には同居しているんです。強さともろさ、怒りとそれをコントロールできない混沌、そして両親から受けた傷と、それによる悲しみ、憎悪と愛情…すごく複雑なものが交錯していくんですよね。独白していく中でも、感情が瞬時にスイッチして変わっていって、まとまっていかない。例えば怒りだったり、急に幼児性が出てきたり、すごく崇高になったり、とても知的で客観的に物事を俯瞰している瞬間が出てきたりとか。それも混乱のひとつとして表現できたらいいかなと思っています。
これまで劇団☆新感線のようなエンターテイメント色が強い作品から、長塚圭史さんのプロジェクト「葛河思潮社」のような実験的な作品まで、カラーの異なる演劇作品に積極的に挑戦なさってきた印象を受けます。作品選びではどんなことを重視されますか?
ご縁ですね。毎回、そのタイミングで声をかけていただくお仕事には、やはり意味があるんだろうと思っています。もちろんエンターテインメントもすごく好きだし、今回のような作品も大好きです。個人的には、例えば自分でプロジェクトを立ち上げてものを作るようなことがあれば、こんな方向で作ってみたいなと思ったりもしています。今、映像アートみたいなものをちょっと自主制作で作ったりもしているんです。でも、本当にありがたいことに、生きることを深く知るような作品に年に一度は関わって演じることができているんですよね。今回も、何かのめぐり合わせなのかなと思ったりしています。
◎Interview&Text/稲葉敦子
◎Cover Photo/舞山秀一
◎Makeup&Hairstyling/石田絵里子(air notes)
◎Stylist/安野ともこ(コラソン)
12/9 SATURDAY・10 SUNDAY
メ〜テレ開局55周年記念
「この熱き私の激情」
〜それは誰も触れることができないほど激しく燃える。
あるいは、失われた七つの歌〜
チケット発売中
◎原作/ネリー・アルカン
◎本案・演出/マリー・ブラッサール
◎翻訳/岩切正一郎
◎出演/松雪泰子、小島 聖、初音映莉子、宮本裕子、芦那すみれ、奥野美和、霧矢大夢
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/12月9日(土)19:00 12月10日(日)13:00
■料金(税込)/全席指定 ¥9,000
U-25チケット¥5,000
(観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・座席数限定・要本人確認書類)
■お問合せ/メ〜テレ イベント事業部 TEL.052-331-9966(平日10:00〜18:00)
※未就学児入場不可