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「野村萬斎」スペシャルインタビュー
取材日:2016.02.20

狂言師としての活躍はもちろん、現代劇や映画、ドラマの話題作に次々と出演し、
圧倒的な存在感で見る者を惹き付ける野村萬斎。
演出家としてもその才気を存分に発揮し、
近年はシェイクスピア作品に果敢に取り組んでいます。
狂言の手法を用い、シェイクスピアを現代に息づく舞台作品として
構築し直した「マクベス」は、代表作。
これまでに再演を重ね、国内各地はもちろん、
ニューヨーク、パリ、ソウルなど海外でも熱狂的に支持されました。
シェイクスピア没後400年にあたる今年、4度目の上演が決定。
さらなる進化に向けて今、彼が考えていることとはー。

再演を重ねていらっしゃるのは、長く残っていく作品へと作り込んでいくためでしょうか?

我々がめざしているのは、長くお茶を飲める器を作ることです。そこに注ぐお茶は、その都度イキのいい役者になったりすると思いますが、器は長く使えるものにしたい。そのためには、いろいろな人に観ていただきふるいにかけられることが必要。それによって作品が深められると思います。東京だけでなく今回のように各地で上演することでお客さまに育てられるということもありますし。2014年の3度目の際には名古屋にも来ましたが、とても反応がよかったですよ。出演者は5人だけというコンパクトな編成ながら大きな世界を扱うという一種の野心作。今回は新しいキャストを迎えていますし、前回ご覧になった方にも、僕らがブラッシュアップした成果を見ていただきたいですね。


萬斎さんはこれまで、演者としても構成・演出を手掛ける作り手としても、数多くのシェイクスピア作品に取り組まれています。

狂言は中世のもの、シェイクスピアは中世から近世にかけてのものですが、いずれも古典的な要素を持っていますから親近感を覚えます。神や亡霊が出てくるし、そういうものを信じている時代の作品ですから。ロンドンの南側にあるグローブ座と能の舞台は非常に似た形をしているんですよ。そんな意味でも、シェイクスピアの作品づくりに狂言の方法論を用いるのはハマる気がしています。狂言は大々的に演出を変えるということはありませんが、シェイクスピア作品は演出を変えるでしょう?その違いに興味があるんです。そもそも日本人がやるということで、大きな違いがあるわけだし。自分の創作意図に沿った演出で作り上げることが可能なんですね。古典のものを古典として提示するのではなく、いかに今のものとして捉えるかということですよね。そういうことを含めてシェイクスピアを演出するとはどういうことなのかを知りたくて、20代の頃、イギリスに留学しました。例えば現地で観た「オイディプス王」なんかは、登場人物を現代の政治家に置き換えて政治批判をしていたりする。それはとてもわかりやすいし、そのときしかできない方法で観客を惹き付けることができると思います。でも、狂言的な発想というのはこれからも続くやり方を考えることなんです。「マクベス」では、僕は自然環境対人間みたいなところとか、もっと大きく言うと森羅万象対人間というテーマを掲げています。基本的に人間は自分の生活をポジティブに変えたいと思っていますから、その裏側にマイナス要因が出てくるわけです。自分が領土を広げれば、一方で困る人も出てくるとか。そんな風に人間の営みには両義性がある。それが実は「マクベス」の主題となっているし、「きれいは汚い」「汚いはきれい」という言葉の現代的な啓示になると僕は読んでいるんですね。自然界の番人であり人間に警鐘を鳴らしているのが、この物語の鍵となる魔女なんだと。


「マクベス」をそのように読み解かれたのは、萬斎さんが日本人であり、この国で長く継承されてきた狂言という世界に生きていらっしゃるからこそなのでしょうか?

そうだと思いますね。狂言のいいところはね、平等なんですよ。喜劇の目線ですから、物事を俯瞰して見るわけですね。狂言には森羅万象がたくさん出てきます。例えば、自然を切り開いて邸宅を建てるとキノコが生えてきちゃって、山伏の祈りの力でもって駆除しようとすると、祈れば祈るほどかえって増えてしまうとかね。人間が自然に逆襲される話。それを観て人が大笑いするわけです。面白いんですよ。でも、よくよく考えてみると怖い話だなということになる。それはやっぱり自然界を俯瞰で見る目線を持っているから。そして、人間がかなり自分勝手に生きていることを自覚しているからなんです。「マクベス」では、自然界と人間界をつなぐのが魔女です。彼女たちが森で生活をしているのは、自然の力を利用できる存在だということもいえる。そう考えると、自然の手先となって人間に警鐘を鳴らすという役割も当てはまると思います。人間にとっては邪悪なものかもしれないけど、逆サイドから見れば人間の方がよっぽど汚くて魔女の方がよっぽどエコだという、そういう発想です。また、人間も森羅万象の一部であるという発想なので、マクベスの人生を四季に喩えているんです。これは日本人の感性ですね。つぼみが開いて花が咲き、盛りになって実を結んであとは枯れていくという。マクベスの人生というのは、王になりたいという思いが花開いて実を結び、その後、落ちていくという、まさに四季だと思います。

そんな日本人ならではの感性で作られた萬斎版「マクベス」は海外でも上演されましたが、反応はいかがでしたか?

ソウルでは熱狂してもらったし、パリは一種日本びいきなところもあるせいか、とてつもない集中力で観ていただきました。ニューヨークは英語圏ですから、シェイクスピアをやる上ではかなりハードルが上がりました。だから翻訳からこだわったんです。原語でもシェイクスピアはとても凝った台詞になっていて、日本で言う七五調を使っている韻文的なところと、もっとフリーな散文的なところがうまく使い分けられています。日本語にしたときもその感覚を生かせるよう、音読を重ねながら、翻訳の河合祥一郎さんに訳していただきました。言葉に音楽性を持たせるということに気を遣うと、向こうの観客もわかってくれますね。


今回、さらに藤原道山さんが音楽監修として入られます。

もともと能の囃子を入れたり、音楽も初演からいろいろ工夫しながら進化させてきました。4度目はもう少しアグレッシブにしてみようと。イギリスでは「マクベス」は「スコティッシュプレイ」と呼ばれています。「マクベス」というのは忌み嫌われる言葉なんです。日本でも「四谷怪談」を上演する前にお参りしないと祟られるというような話があるでしょ?そういう感覚です。「マクベス」はスコティッシュプレイ、つまりスコットランドの芝居。日本に置き換えると、僕としては青森な感じがするんですね。どちらも島の北端ですから。スコットランドに行くと訛りが強くて聞き取れないんですよ。青森の言葉も独特ですよね。それに冬空の感じも似ている。だから今度は藤原道山氏が音楽監修を務めてくださるので、津軽三味線とか日本の北の音楽も意識して、生の楽器でよりライヴ感を出したいと思っています。


そうしてシェイクスピア作品を深く掘り下げることが、狂言の古典に取り組む上で影響しますか?

直接的に何かがあるかはちょっとまだわかりませんが、「マクベス」に取り組むことで能と狂言がセットで営まれてきたことの意味を再認識できましたね。この物語は、マクベス夫妻から見ると悲劇なんだけど、魔女から見ると喜劇なんです。狂言なんですよ。反対に、夫婦の方はお能の目線で見て、落ちていく人間の悲しさを描いている。人間は両方見たいんですよね。まさしく「きれいは汚い」「汚いはきれい」という不思議な言葉、二律背反するこの言葉こそが真実であるということを、この作品に取り組むことで尚、確信してしまいました。だから、僕は本当は魔女をやりたいという思いもあるわけです。今後は、もしかしたら狂言師3人が魔女をやって、マクベス夫妻を現代劇の若い人に演じてもらうということだってあるかもしれません。


長く残す作品にしていくために、これからもアップデートを続けていくのですね。

そうですね。進化させながら構造自体は揺らがないという、そういう骨格を作るのがまさしく古典芸能的な発想なんです。



「マクベス」
◎原作/ウィリアム・シェイクスピア ◎翻訳/河合祥一郎 ◎構成・演出/野村萬斎
◎出演/野村萬斎、鈴木砂羽、小林桂太、高田恵篤、福士惠二

〈豊橋公演〉
6/25 SATURDAY・26 SUNDAY

チケット発売中
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/各日13:00
■料金(税込)/S¥7,000 A¥5,000 B¥3,000
■お問合せ/プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090
※未就学児入場不可

〈名古屋公演〉
7/5 TUESDAY・6 WEDNESDAY

チケット発売中
■会場/名古屋市芸術創造センター
■開演/7月5日(火)14:00、19:00 7月6日(水)14:00
■料金(税込)/全席指定 ¥7,800
■お問合せ/中京テレビ事業 TEL.052-957-3333(平日10:00~17:00)
※未就学児入場不可

4/24 SUNDAY
「狂言ござる乃座 in NAGOYA 19th」
チケット発売中
■会場/名古屋能楽堂
■開演/13:00
■料金(税込)/S¥7,000 A¥6,000 B¥5,000 学生¥3,000
■お問合せ/万作の会 TEL.03-5981-9778(平日11:00~17:00)

7/13 WEDNESDAY
「野村萬斎 狂言の現在2016」
チケット発売中
■会場/鈴鹿市文化会館けやきホール
■開演/19:00
■料金(税込)/全席指定 ¥6,500
■お問合せ/鈴鹿市文化振興事業団 TEL.059-384-7000

8/5 FRIDAY
野村萬斎の「狂言であそぼ」
チケット発売中
■会場/名古屋能楽堂
■開演/14:00(予定)
■料金(税込)/¥2,500(予定)
■お問合せ/名古屋能楽堂 TEL.052-231-0088

4/29 FRIDAY・HOLIDAY〜全国ロードショー
主演映画
「スキャナー 記憶のカケラをよむ男」

◎脚本/古沢良太 ◎監督/金子修介
◎出演/野村萬斎、宮迫博之、安田章大、木村文乃、風間杜夫、高畑淳子 ほか