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「前田公輝」スペシャルインタビュー取材日:2024.11.07
韓国で社会現象にまでなった大人気ドラマ「ミセン」が、
世界で初めてミュージカル化。2月には名古屋でも上演されます。
「ミセン(未生)」とは、「死んでもいないし、
生きてもいない石」を意味する、韓国特有の囲碁用語。
プロ棋士になる夢が絶たれ商社のインターンとして
働くことになる主人公チャン・グレは、
囲碁で培った洞察力を武器に、組織で生き抜く術を身につけていきます。
現代社会を生きる全ての人への賛歌ともいえる作品で主演を務めるのは、前田公輝。
作品世界をより深く描き出すため、ミュージカルならではの表現を追求します。
「ミセン」の世界をミュージカルで描くことの良さは、どんなところにあると思われますか?
「ミセン」という作品は、積み重ねに魅力があると思うんです。コミックは10巻(日本語版は9巻)、ドラマは20話ありますから。僕自身、コミックもドラマも1話ずつ継続して観るという経験をしたので、その積み重ねによって感動が増していったような気がしています。そんな世界を2時間半に凝縮して生で届けるということに、最初はちょっと不安もあったんです。でも脚本を読んで作品の世界にしっかり浸れたので、安心しました。「ミセン」の世界を描くのに、歌というエンタメが効果を発揮すると思うんですよ。楽曲が仕上がっていない段階でミュージカルナンバーも台詞として読みましたが、音楽に乗せて台詞を繰り返しても違和感がないですし。「ミセン」とミュージカルの相性はいいと思います。
脚本を最初に読んだ段階で、どんな台詞が印象に残りましたか?
僕が演じるチャン・グレのソロ部分だと、割と後ろ向きな言葉も出てくるんです。その都度、自分の弱い心にムチを打って前に進んでいくような構成になっていて、そこで使われる言葉のセンスは好きですね。自分の生き方にも加えたいと思えるような台詞がありますし。韓国語で2時間半にまとめた脚本を日本語に翻訳する際に、とても時間がかかったと聞いています。それは恐らく、ちょっとしたニュアンスの違いで「ミセン」の世界が変わらないようにしたり、一度しか言わない台詞にすごく引き寄せる力があって、それを取りこぼさないようにする作業があったんだろうなと。そういう細かいところを僕は本を読んで文字で理解していますけど、観客の皆さんは字幕も歌詞も見ずにご覧になるので、ちゃんと気持ちを乗せて伝えられるといいなと思っています。
台詞の意味や細かいニュアンスを音楽に乗せて伝えるのは、難易度が高そうですね。
そうなんですよ、ストレートプレイよりも制限がありますから。今回、特に難しいのは、チャン・グレのキャラクターと楽曲のギャップを埋める作業です。チャン・グレは、表面上は割とクールな人物なのですが、想像以上のエネルギーで表現するナンバーもあって。そんな部分に対する自分の中の違和感を早く払拭したいと思っているところです。
ミュージカル、ストレートプレイ共に、これまで多くの舞台作品に出演なさっています。体力づくりや健康管理など、気を配られていることはありますか?
僕の場合、より体力を使うのはミュージカルです。だから、稽古が始まる1週間前には有酸素運動を取り入れたトレーニングを始めます。そうしないと、頭が追いつかないというか…。チャン・グレも、夜のランニングを欠かさないんですよ。劇中で囲碁の師匠から、まず体力をつけないと精神が疲労してすべてが悪い方向に進んでしまう、という教訓をもらって。僕もそれを実践しています。今日これから東京に帰って、そのままジムに行くのもありだな、とか。
ジャンルを問わず、演じる上で一貫して大事にしているのは、どんなことですか?
表現に関しては、やっぱり生きているかどうかというところですね。僕が演じる人物が、日常的に存在しているように思ってもらえるかどうか…そこだけです。むしろ、そこ以外は気にしていないかもしれません。舞台でも、自分自身がわかりきった芝居をしたくないという思いが強くあって。自分にサプライズがないのに、お客さんにサプライズがあるんだろうか、と思っちゃうんですよ。


表現が「生きている」とは、どんなイメージでしょうか?
僕は、その役とのバランスだと思っています。例えば、日常ではなかなか口にしないようなすごくドラマチックな台詞を言うときに、芝居の上での気持ちは全部削がない方がいい場合もあると思うんです。ここはカッコつけた方がいいとか、もう少し感情が乗ってるように見せた方がいいとか、そういうことはTPOによってあると思います。決める台詞を言うときに、ドラマチックな息づかいをするとか…。でも、例えば日常的にちょっといいことを言うときに語尾に息が混じるかというと、そうじゃないですよね。普通に居酒屋やカフェでみんなが話しているような息づかいでドラマチックな台詞が言えたときが、芝居というフェーズを越えられる瞬間なのかなと思っています。本当に細かいことなんですけどね。生きていると、吸って吐いて、無意識に呼吸という行為をしていますけど、人の言葉を借りるとできなくなることがあるんですよ。例えば長台詞だったら、ブレスのポイントをちゃんと考えておく方がスムーズに呼吸できたりします。基本的には明瞭な状態で台詞を言って、舞台の場合は見え方のバランスを取る感じですね。そこはパフォーマンスに近いと思います。だから、生きている表現というのは、いろんな細かいことの複合的な積み重ねの結果かもしれません。
日常で経験したことも演技に反映されますか?
そうです。だから僕、本当はあんまり自分の話をしたくないんです。人の話を聞いた方が、もしその人みたいな役が来たときに使えるじゃないですか。だから、自分が喋ったらもったいないと思って。自分の感覚は一番わかってるから、そこに違うものを足したら新しい役が生まれそうな予感がするし。今、ラジオのトーク番組を持たせていただいていますが、ゲストでいらっしゃるさまざまな分野の専門家とお話しするのは、とても有意義な時間です。皆さん、自分の専門分野のことを話し始めると、キラキラするんですよね。それが俳優のスイッチとも似ていて、すごく影響を受けています。
◎Interview/福村明弘
◎Text/稲葉敦子
◎Photo/来間孝司
2/1 SUNDAY・2 SUNDAY
ミュージカル『ミセン』
■会場/愛知県芸術劇場大ホール
■開演/2月1日(土)14:00
■料金(税込)/全席指定 S¥13,500 A¥11,000
■お問合せ/中京テレビクリエイション
TEL.052-588-4477(平日11:00〜17:00)
