HOME > SPECIAL INTERVIEW > 「小泉今日子」スペシャルインタビュー
「小泉今日子」スペシャルインタビュー取材日:2023.04.28
小泉今日子がプロデュース業のために立ち上げた
「明後日」が企画・製作する新作舞台 が届く。
大島真寿美の小説を原作とした『ピエタ』である。
18世紀のヴェネツィアを舞台にした、
作曲家ヴィヴァルディを取り巻く女性たちの人生を描いたその物語に魅了され、
ずっと舞台化を望んできた小泉。
プロデューサーとして俳優として、念願にどう臨むのか。
その思いには小泉自身の生き方も見えてくる。
2011年に大島真寿美さんの小説「ピエタ」の書評を書かれたときから、いつか舞台にしたいと思っておられたそうですね。
読売新聞の書評を担当していたのが30代後半から40代でした。書評集になったものを読み返してみると、この頃の私はいろいろ迷っていたんだなと思うんですが、生きることとか過去の後悔とか、知らないうちに自分の話を書評の中に書いていたりして。そんなときに読んだ「ピエタ」の物語は、とてもやさしい光に見えたんです。主人公のエミーリアが、いろいろな立場の女性と出会うことで自分のなかに封じ込めていたものと向き合うことで、それぞれの人生が共鳴していく。その姿を見て、私も私自身の経験や記憶があるから私なんだと証明された気がしたというか。それで、私と同じように救われる人がいるのではないか、本が苦手な人にも伝えたい、そう思って舞台化を考えたんです。映像でイタリア人を演じるのは難しいですけど、舞台なら何にでもなれますから。
原作との出会いから10年以上が経って、ようやく舞台化が実現します。
企画自体は立ち上げては上手くいかないことが起こるという繰り返しで、2020年に決まっていた上演もコロナ禍で中止になって朗読劇に形を変えたので、本当にようやくです。でも、最初にやりたいと思ったときの40代の私より、60歳に近い今の私のほうが、登場する女性たちの気持ちや、大島真寿美さんが書きたかったことが理解できる気がするので、今がいいタイミングだったんだなと思います。
原作は、「四季」で知られる作曲家ヴィヴァルディが、ピエタ慈善院で孤児たちにヴァイオリンを教えていたという史実をもとに創作されたもので、エミーリアがある楽譜探しを頼まれたところから女性たちとの出会いが始まります。お芝居として立ち上げるにあたっては、何を大切にしようとされましたか。
そこは、脚本・演出をお願いしたペヤンヌマキさんとたくさん話しました。私が演じる孤児のエミーリア、貴族のヴェロニカ(石田ひかり)、高級娼婦のクラウディア(峯村リエ)、物語の中心にいる3人の関係性を色濃く描きながら、ほかの女性たちももっと動かしてドラマにしていきたいよねと。例えば、プリマドンナのジロー嬢(橋本朗子)と、孤児院にいて薬屋に嫁いだジーナ(高野ゆらこ)が互いを羨ましがったり。ジロー嬢を支えるお姉さんのパオリーナ(広岡由里子)とヴィヴァルディの妹のザネータ(伊勢志摩)がヴィヴァルディの思い出話をすることで癒やされたり。今も共感できるところを豊かに作っていって、登場人物の誰かに思いを寄せてもらえたらなと思うんです。あと、クラウディアがヴェネツィアの貴族と政治を嘆くセリフは、2023年の私とペヤンヌさんは「まさに今だ」と感じるので、そこも2020年に作っていた脚本からは変化しています。
ペヤンヌマキさんは、演劇ユニット ブス会*を立ち上げて、現代女性のリアルを描いておられますが、ご一緒されるきっかけは?
何度か共演している安藤玉恵さんとペヤンヌさんがもともと同じ劇団(ポツドール)出身で、玉恵さんを通じて『エーデルワイス』というブス会*の公演を観に行ったんです。それも過去の自分と向き合うという女性の話で、俗世間っぽいものをまぶしてあるけれどもそれを剥がしたら、「ピエタ」と同じような、立場は違っても心に持つ誇りを感じられたら連帯できるというシスターフッドの話をしているのかもしれないと感じました。ペヤンヌさんのなかにも、そういうフェミニズム的な思いや社会に対する思いがあることは後々知ったんですけど。これを美しいところだけを切り取ったものではなく力強い物語にしたかったので、お声がけしたんです。といっても、音楽監督に向島ゆり子さんに入っていただいて美しい音楽もありますし。美術は抽象的ですが、だからこそ想像が広がるステージングも考えていますので。そのなかで繰り広げられる女性たちの思いを感じていただければなと思っています。
エミーリアを演じる俳優としての意気込みもお願いします。
私はとくに映像では、気の強い役をいただくことが多いので、意外とこういう受け身のお芝居もできるんですよというところを私自身も楽しみにしていますし。周りの皆さんの声や芝居に導かれて心を動かすことを、毎日新鮮にできたらいいなと思っています。
プロデューサーとしての意気込みは?
舞台を観てくださった方の新しい扉を開くことが出来たらいいなと思っています。文化、芸術、エンターテイメントの世界に出来ることはそういうことだと最近とくに思うんです。だから、プロデューサーとしてはちゃんと意志を持って、あきらめず、社会に対しても小石を投げ続けていきたい。まず動いてみるタイプなので、最初は何もわからないなかでやってきて失敗もありました。でも、自分らしいプロデュースが見えてきた感覚もあるので、ここからです。『ピエタ』を成功させてまた次にいけたらなと思います。
◎Interview&Text/大内弓子
◎Photo/安田慎一
◎Makeup&Hairstyling/石田あゆみ
◎Stylist/宇都宮いく子(メイドレーンレビュー)
8/9 WEDNESDAY・10 THURSDAY
asatte produce「ピエタ」
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/8月9日(水)18:30 8月10日(木)13:00
■料金(税込)/全席指定 ¥8,500 車いす席¥8,500 U-25¥4,000
■お問合せ/メ~テレ事業 TEL.052-331-9966(平日10:00~18:00)
※未就学児入場不可