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「草刈民代」スペシャルインタビュー
取材日:2013.06.19

日本を代表するプリマとして長く活躍した後、
女優に転向し精力的に活動を続ける草刈民代。
映画、ドラマ、舞台の大作、話題作に次々と出演し、
その演技と存在感が高く評価されています。
今年、新たに挑むのが、永井愛の岸田國士戯曲賞受賞作「兄帰る」。
これまで、世界のトップ・クリエイターたちと輝かしい仕事をしてきた彼女が、
日本の演劇界を代表する劇作家・演出家と初タッグを組みます。
敬愛する永井氏について、作品づくりについて、
そして自らの生き方について、真摯に語ってくれました。

二兎社の作品に参加なさるのは、初めてですね。

永井先生の作品は、これまでにも何作か拝見しています。中でも最初に拝見した「歌わせたい男たち」の印象が強烈にあって。本当に面白かったですね。次から次へといろいろなことが起こるので目が離せないんです。言葉の組み立てと、それをさらに表現した演出。そういうことでこれだけ密度の濃いものにできるんだな、と。その密度の濃さというのは、舞台上のエネルギーの躍動によって生まれるもの。演じるのは大変でしょうが、出ていらっしゃる役者さんたちを拝見していて「凄いなぁ」と感動しました。だから、永井先生の作品に出られてとても嬉しいです。永井先生は「夢中になれる方」。本当に入り込んで取り組まれる。だからこそ、良い作品が生まれるのだと思います。やっぱり、そうやって引っ張っていっていただけると、自分の中のいろいろなものを引き出されると思うんですよね。私は芝居を始めてそんなに時間が経っていませんから、表に出ていないものがたくさんあると思います。新たなものを引き出していただけたらいいですね。また、永井先生は作・演出の両方をなさいますので、その個性を通じて「演劇」についての理解も深められると思っています。


バレエをなさっていたときも含め、草刈さんはこれまでに名立たる演出家と仕事をなさってきたと思いますが。

踊りの世界では本当にいろいろな振付家や教師との出会いがありました。やはり一流の方ほど要求がはっきりしているんですね。それで引き出されることが沢山ありました。なぜなら、相手の要求に沿った形で「何をすべきか」を考え、表現を形にしていくことは、自分自身を掘り下げていかないとできないことだからです。「何が見たいか」ということが明確で、要求が深ければ深いほど、こちらも深く考えないと対応できない。永井先生も要求が明確な方です。今回の出演は役者として一歩前進するチャンスだと感じています。

作家や演出家の要求に応えるために自分自身を掘り下げる。その作業は楽しいですか?

そういうことを面白がれないと辛いだけですからね。やっぱり私は、そこがとても意味のあることだと思っているんです。その場での表現において何かが一致するといろんなことが動き出してよりスムーズになってくるというのは、踊りでも芝居でもいろいろ経験しています。そうなると本当にいろいろなことが動き出すんです。空気も動き出す、自分の中も動き出す…表現することの醍醐味は、そういうところにあると思います。人物を造形するというのは、他の人物像を自分の中に構築して、自分がその人物になるということ。それはイメージを具体化していくことですが、どこか、自己実現という感覚と似ているような気がします。それはやっぱり特殊なこと。とても面白いことです。

「兄帰る」という作品についてはどんな印象を持たれましたか?

この作品のテーマは「選択」だと永井先生はおっしゃています。極端に言えば、聞かれたことにYESと答えるかNOと答えるかということ自体が「選択」なわけで、人は誰でも、常々選択している訳ですよね。会話ひとつ取っても、そのときにどう感じてどう発言するかということ自体が、実は選択なんだという…。うわべのことだけに追われて大事なことの焦点がずれてしまうのも、実はそれを選択しているということですよ、ということなのかな、と。この作品には、大きく何かを選択するということはひとつも出てきません。登場人物たちを見ていると、正直でまっしぐらで、という人はひとりだけ。あとは、世間体や見栄といった体裁が大事と考えている人。そういう人々が、16年ぶりに帰って来た、したたかな「兄」に翻弄されます。この作品で描かれていることというのは、人が生きていくさまのような気がするんですよね。これは親族同士の話だけれども、その中でもいろいろな人がいろいろな考え方で生きていて、そういう人たちが接触することでさまざまな軋轢も生まれてくる。それを凄く具体的にユーモアを持って描いている作品だと思います。本当は何が大事かということは、実は誰にもわからない。「こういう話です」と、わかりやすく説明できないものを表現している作品のような気がするんですよ。でも、「人」というのはそういうものだと思うし、それがこの作品の面白さなんじゃないかという感じがしています。


草刈さんご自身が、日常生活の中での選択において基準にされているのは、どのようなことでしょうか?

言葉にしてひとことで言うのは難しいですけど…何かを選択するときに、単に好き嫌いで選ぶのではなく、「これが常識でしょ」みたいなことは自分の中にありますよね。でも実は、その「常識」というものの見解は人によって違うのが現実ですよね。その違いを知って愕然とすることは誰にでもあることだと思うけれど。でも、そういう「常識」とは別に、職業人としての美意識ははっきりしていると思います。それは、仕事や自分の立場に対する責任や正義感であったり、品性について考えることもよくあります。でも、それは「常識」ということとは、また違うことですね。あくまでも、自分自身の価値観です。もしも、自分の美意識に反することで何か利益を得ることができる、そんな選択を迫られたとしたら、私は自分の美意識を守るほうです。別にそんなことで得しなくてもいいやと思っちゃう。そこは、はっきりしているかもしれません。


バレエを引退されて4年が経ちましたが、ご自身の変化などはお感じになりますか?

踊っていないことには、ずいぶん慣れましたね。踊っているときには、毎日しなくてはいけないことがたくさんありましたが、そういうことが全くなくなった生活に慣れました。最近やっと、バレリーナであった自分から離れ始めてきているような気がしています。やはり、女優とバレリーナは違います。私の、表現のベースとなるものは、踊りで培って来たものであり、まだまだ芝居の世界で生きて来た方々とは違いがあります。日々挑戦して、自分に足らないものを埋めていきたいですね。

ご主人の周防監督は何かおっしゃっていますか?

どうだろう?家で仕事の話もしますけど、何が変わってきたとかは…あんまりね(笑)。