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「イッセー尾形」スペシャルインタビュー
取材日:2023.06.19 


舞台にテレビ、時にはアーティストとして
幅広いフィールドで活躍するイッセー尾形。
なかでも1980年代に始めた「一人芝居」は、独特の世界観で人々を魅了し、
「一人芝居の第一人者」として根強いファンを獲得している。
今年はフリーになって10年目。
その間に演じてきた「一人芝居」から選りすぐりの作品を上演する
「イッセー尾形一人芝居in 神戸」が開催される。
フリーとなって初めての神戸公演にかける思いを聞いた。


神戸では久しぶりの公演となるそうですが、関西の観客の印象は。

関西は、いいものは何だということを知っている気がしますね。反応がいいんですよ。やらせ上手だし、乗せ上手。パフォーマーにとってはすごくやりがいがあります。僕は、次のセリフはどんな口調、音で表現しようかとお客さんとの緊張感の中で決めていくことがある。それが試せるんですよね、関西は。

そして次は、神戸で新しいことをやっていくと。

フリーになって10年、そこでいろいろな作品がたまっているので、その中からダイジェスト版か、春に大阪で発表した新作から選択するか、現在構想中です。「詐欺防止留守番電話(Y‘s電気)」は鉄板ネタなので、最初の演目にはよいかも。


—迷惑電話防止システムの設定確認に来た人が、訪問先であれこれハプニングに出会うお話ですね。正しさと罪は表裏一体で自分も…というシニカルな面白さに溢れています。作品やキャラクターを作る時、大事にしていることはなんですか?

こんな人いるなとか、この人が自分に迫ってきたらどうしようと思う、そんな人物を作ることですね。一人芝居をやり始めたころの作品「バーテン」は、世の中を知らない男が自分の小さな城の中で若いやつらにえらそうにして、井の中の蛙ぶりを追ったネタです。あれが一人芝居の基本でした。それからいろんなネタを作ってきましたね。言いわけをして逃げ回る人とかね。言いわけって、ぎりぎりまで追い込まれた瞬間、その場しのぎに出るわけで、可能性は無限大にあると思うんです。誰しも持っている「言いわけの無限性」ですよね。僕は、そこにたどり着きたいんですよね。

最近ではロリータ少女、中華料理店のおばちゃん、ストーカーではないと言い張る優等生、税金支払いの窓口でごねる人など個性的なキャラクターがますます増えました。

舞台に登場した直後にこの人はどんな人物なのか、がわかるようにしてます。「ロリータ少女」のネタは、実際に僕が文具屋さんの前でロリータファッションの女の子を見かけたところから着想を得ています。乱雑な都会の中にポツンと少女がいるけれど、彼女はかわいい文具が好きな普通の少女で、もしかしたらロリータファッションは彼女の防御服なのではないか。そんな繊細な少女がお母さんと出会いたいのになかなか出会えない…という設定がおもしろいのではないかと。そうやって作った作品です。

10年の間には、コロナ禍がありました。時代の空気に何か変化を感じますか?

以前はもっと感覚的にやってきたことへの、言語化が進んだような気がします。時代はいろいろなことを強要してくるので、要請には従順だったと思うんですが、今はそれゆえにはじき出されてしまう人もいる。ギリシャ神話で言うところの悲劇ですよ。従順なのに理不尽というか。そこに興味を持ってます。好き嫌いではなく、構造の話。責任を取る人は弾かれてしまうし、責任はどこに?と問われると、取らざるをえない人もいて。


まさにコロナ禍の2年前にシェークスピアを題材にした『シェークスピア・カバーズ』を出版されましたが、庶民が主役の物語が多かった。やはり庶民に惹かれるものが?

そうですね。自分が庶民だと思っているからね。それに庶民には可能性がある。大爆発するかもしれないし、休火山になるかもしれない。王様はずっと王様なのだけど、庶民は精神が自由なの。だからオールラウンドプレイヤーなんですよ。底から上を見あげる視点は人の数だけあるんです。精神は自由だからこそ、何にでもなれる。だからこそ、ネタもどんどん変わっているし、それは、僕自身も変わっているということです。1つの方向には逆方向が絶対にある。普遍的なものには、今の時代だからこそ存在する逆方向の視点がある、それを両方兼ね備えたものを作っていきたいですね。

どんどん変化を遂げて、神戸の舞台を迎えるということですね。会場では、イッセーさんが作られた紙粘土の作品展もあるとのこと。来場されるみなさんへひとこと!

以前、神戸で予定していた公演が、震災で中止になって。当時僕はすでに、大阪から船で三ノ宮に入っていたんです。その時、崩れた家屋をいくつもみました。本当に凄まじい体験をして、立ち直った都市ですよ。神戸のみなさんは言葉では言い尽くせないことがいっぱいあったと思うんですね。だから、その気持ち、出せなかった言葉に見合うネタになれたらいいと思います。それに値するネタでありたいです。気持ちと言葉の間に、橋が架かるといいなと思っています。

◎Interview&Text/田村のりこ
◎Photo/内池秀人



11/25 SATURDAY・26 SUNDAY
「イッセー尾形 一人芝居 in 神戸」

■会場/神戸朝日ホール
■開演/各日14:00
■料金(税込)/全席指定¥5,600
■お問合せ/神戸朝日ホール TEL.078-333-6540(10:00~17:00 土日祝除く)
[東京公演]◎12/1(金)〜12/3(日)有楽町朝日ホールにて開催