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「一龍斎貞鏡」スペシャルインタビュー
取材日:2024.07.08


今年で17回目を迎える「大名古屋らくご祭2024」。
岡谷鉄機名古屋公会堂 4階ホールで開催される「若手落語会」に、
今年も講談界から艶やかな華が登場する。


お祖父さまの代から続く講談一家に育ち、お父上である八代目一龍斎貞山先生(1947-2021)に入門してこの道に…。

はい。でも子どもの頃、父の稽古場は立ち入り禁止でしたし、客席に家族の顔があると気が散るから会にも来るなと言われていましたので、講談に触れる機会もなく、まったく興味もありませんでした。それが二十歳の夏に父の高座を初めてこっそり聴きに行き、「父の高座姿、佇まい、言葉、全てが美しい」と衝撃を受け、私の人生が決まった。

前座、二ツ目修行を経て昨年、真打に。現在、東京の講談界でも多くの女性講釈師が活躍されていますが、4人のお子さんの母親という点でも注目を集めています。

夫が6つ歳下というのも図らずも話題を呼びましたが(笑)。ただ、高座(舞台)では赤穂浪士の大石内蔵助になったり八百屋お七になったり色々な人物の演じ分けをするので、高座にはなるべく“家庭”を持ち込まないように、マクラでも余計なことは言わないようにしていました。やはり「この人、4人の母ちゃんなんだ…」との印象が強くなりすぎると、お客様が講談の世界に浸っていただく妨げになってしまう気がして。

子育てとの両立は、働く女性にとっても励みとなるのではないでしょうか。

講談という夢の世界をお客様に全力で楽しんでいただきたいので、高座では飽くまでも涼しい顔をしていますが、実際は毎日がとんでもなく目まぐるしく、子供たちのお弁当は作りますが自分の食事はままならず、駅のホームでバナナを口に詰め込んだり、タクシーの中で着替えて会場まで駆けつけたり、一秒も余裕なんてありません。でも高座に上がったらお客様にあくまでも夢を見ていただきたい。その一心です。


歴史上の人物や過去の出来事を、まるでその場で見てきたかのように語るのが面白いです。特に軍記物の堂々たる場面を、あの独特の高調子で流れるように読み聞かせる「修羅場」が見事でうっとり聴き惚れてしまいます。

いろんな登場人物になりきって声色を変えて演じ分けるのではなく、その人の了見(考えや気持ち)になって語れと教えられます。地の文(会話ではない説明文)にも独特の調子と音階があって、地の文の音階が「ミファソ、ミファソ」や「ドミファソファミファソファミファソ」に近い一門があったり、我々一龍斎の一門は「ドドシラソファミレド」の音階で大きな調子だったり、講談は音楽のようでとても面白い。そして聴いていて気持ちがいい。それにはとにかく日々の稽古が大切。何回も書いて読んで口と耳を使って、身体全体で覚えるしかないのです。


ずばり、一龍斎貞鏡の目指す講談とは?

世間一般の講談に対するイメージは、何だか難しそうとか、堅苦しい、古臭い、歴史に詳しくないと楽しめないんじゃないかとか、まだまだネガティヴなものが多く、かく言う私もずっとそう思って聴かず嫌いでしたが、実際にちゃんと聴いてみると、とても深くて面白い。ですのでまずは講談に興味を持っていただけるよう、お届けする私自身がもっと皆さんにとって身近で魅力的な存在になること。講談師にもこんなのがいるよって、講談の品位を下げずにお一人でも多くの方に知っていただけたら嬉しいです。講談で申し上げる、家来が主君を慕う気持ちや、親が子どもを想う心、人の情けというものは、昔も今も普遍ですので、令和の感覚を吹き込みながら、今現在を生きる人にもわかりやすくお伝えしていきたいです。

今回の「大名古屋らくご祭2024」のようなイベントは絶好の機会ですね。

この凄いメンバーに加えていただけ、とても光栄です!講談って、実は人が人を褒める芸能なんです。こういう失敗もしたけれど、この人はこういう尊い志があったからこそ、後に一国一城の主になれた、出世できたのだ…とか、講談師が案内役となって誰かを褒めることで盛り上げる。昨今、自分が何処の何者なのかを名乗らず、他人の悪口や心ない言葉をSNSで投稿するのが問題視されていますが、我々講談師は人をディスらない。講談はもともと武士が始めたものなので、そこは武士の心意気だと誇りに思っています。ぜひ沢山の方に足を運んでいただけますように!〈※1.正式なタイトルは「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。〉

◎Interview&Text/東端哲也
◎Photo/安田慎一



12/19 THURSDAY〜22 SUNDAY
「大名古屋らくご祭2024」
■会場/岡谷鋼機名古屋公会堂 大ホール
■開演/12月19日(木)18:30 12月20日(金)14:00、18:30 
12月21日(土)・22日(日)12:00、17:00
[4階ホール土曜の会]12月21日(土)13:30
[4階ホール日曜の会]12月22日(日)13:30
■料金(税込)/全席指定
[12月19日(木)・21日(土)・22日(日)公演]¥6,000
[12月20日(金)公演]¥5,000
[4階ホール土曜の会、日曜の会]¥3,500
■お問合せ/東海テレビ放送事業部 TEL.052-954-1107(平日10:00〜17:00)