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「広末涼子」スペシャルインタビュー取材日:2017.12.13
国民的人気を集めた10代、結婚・出産を経て女優としての幅も広げた20代、
そして成熟期を迎え、主演だけでなく数々の話題作で
バイプレイヤーとしても存在感を示す30代。
広末涼子のキャリアは、そのときどきの人間的成長を
仕事にうまく映しながら築かれてきたようです。
そんな彼女の最新作は、舞台「シャンハイムーン」。
1991年に初演され、第27回谷崎潤一郎賞を受賞した井上ひさし中期の名作です。
日本を憎みながらも日本人を愛した中国人作家・魯迅と、
彼を敬いかくまった日本人たちの、
1934年のある1ヶ月間をとらえた緻密な台詞劇に、野村萬斎らと共に挑みます。
5年ぶりとなる舞台作品と役柄を読み解きながら自身の結婚観、
仕事観についても率直に語ったインタビューから、
その人柄と社会に対する真摯な姿勢が見えてきました。
戯曲をお読みになって、井上ひさし作品ならではの魅力をどんなところでお感じになりましたか。
野村萬斎さん演じる魯迅を中心にみんなが振り回されていく感じや、パタパタコロコロ動いていくような感じが魅力的ですよね。魯迅は人物誤認症や失語症といった病を煩い、周囲との会話が噛み合わない場面も多いのですが、台詞に散りばめられた言葉遊びの表現や、誰にも真似出来ない世界観に、異次元の世界を見せられているような感じがしました。そして、とても温かい人間ドラマが描かれている、すごくハートフルな物語です。派手な演出や舞台装置ではなく、人と人のつながりや個人の個性、そしてそのつながりが繰り広げるドラマで魅せる作品で、読んでいてワクワクしました。また、萬斎さんが演じられる魯迅をイメージしながら読むと、一生懸命さが滑稽に映るお芝居が本当に目に浮かぶようで…。稽古に入るのはこれからですが、今から楽しみで仕方がないです。
舞台は1934年の上海。蒋介石の国民党政府による逮捕令で逃亡を余儀なくされた魯迅と、彼をかくまう日本人たちの物語です。深刻で緊迫した時代背景の中、人間の温かみが描かれているのですね。
そういうものを小難しくストーリーに組み込むわけではなく、さりげなく提示しているところが井上ひさしさんらしさなのではないかと感じます。混沌とした時代に生きた人たちの葛藤をシリアスにメッセージするのではなく、温かみのある表現と演出で見せていくことで、時代や国境などいろんなものを超えた人間ドラマが生まれるんじゃないかと思います。人と人の距離感が急に縮まる不思議な熱量のようなものを体現できる舞台になりそうで、期待感はとてもあります。今、世界で「分断」が進んでいますが、こんな時代にこういう作品に関われることの意味はとても深いと思うんです。例えば政治的なメッセージを直接的に打ち出すのではなく、人間ドラマを通して感じてもらう。それこそがお芝居の醍醐味ですよね。
広末さんが演じる魯迅の第二夫人・許広平は、どのような人物ですか?
三歩後ろを歩いているように見えて、実は夫を手のひらで転がしているような芯の強い奥さん像が戯曲からも垣間見えます。それに加えて、ひとりの女性としての嫉妬心や感情的になる部分…具体的に言うと、魯迅の本妻の存在が見えたときの彼女の動揺や普段と異なる側面もとても魅力的だと思います。多面性を持ち合わせているこの役がとても愛おしいし、多くの女性の方に共感していただけるのではないでしょうか?戯曲を読んで感じた魅力的な部分をそのまま表現できたらと思います。許広平が本妻に連帯感を抱くような場面もあるんです。女性ってどこか客観的な視点を持つ瞬間があったり、女同士だから生まれる共感って、すごくありますよね。立場や視点が違ったとしても、急に一体感が生まれてしまうというか…。愛おしさと切なさみたいなものが紙一重のところで混在している…そんなところを女性らしく人間らしく表現できたら、魅力的な役になるんじゃないかなと思っています。
魯迅と許広平は、夫婦でありながら思想を同じくする同志でもあります。そうした男女の関係性については、どう思われますか?
とても理想的だなと思いますし、そうあるべきだと思います。男女問わず、お互いに尊敬し、刺激し合える存在であることは大切ですよね。年齢を重ねていくと夫婦も空気のような存在になるものだとよく表現されますが、その根底には相手に対する感謝や尊敬があるから継続していけるものなんじゃないかなと、今の私は思っています。だから、この夫婦の関係性は本当に理想的だなと。
そうしたパートナーの存在は、仕事にもいい影響を与えますか?
そうですね。ただ、働く女性を本当の意味で応援してくれて、信頼してくれて、背中を押してくれる男性って実際にはどれくらいいるんだろうと思います。女優だけでなく、ライターさんもそうですよね。こうして女性が社会進出している時代であっても、深層心理の深いところでは、日本の古典的な男性像、女性像って変わっていないんじゃないかと思うんです。イクメンや、家事を手伝ってくれる旦那さんが増えているかもしれないけど、やっぱり完全な平等ではないんじゃないかと。そういう意味で、女優という仕事は男性にとって理解してもらうのが難しい仕事だと感じます。表に出ることで、パートナーに迷惑をかけたり心配させること、プライドを傷つけることもあるかもしれない。そういうものを受け入れるということが、まずある程度の器がないと難しいですよね。私が誇りに思って選んだ仕事、作品づくりを支えてくれている存在がいることは、やっぱり大きいですし、「尊敬」が支えになっている部分はとてもあります。
女優としてすでに長いキャリアをお持ちですが、今後のビジョンをどのように描いていらっしゃいますか。
10代のときから、女優という仕事に対するイメージとか、仕事を通してやりたいことのイメージは変わっていないんです。作品を通して誰かの生きる原動力になれたり、夢を与えることができたらいいなって。元気とかパワーをあげる…というとおこがましいのですが、そういうものを放出できればいいなと。それがきっと、自分にできる社会貢献なんじゃないかと思っています。このスタンスは、50歳になっても60歳になっても変わらないと思います。ただ、10代のときと今30代の自分が表現できることは違ってきているし、自分としては可能性が広がっているように感じています。女優としてだけじゃなくて女性としても視点が変わってきているので、さらに年齢を重ねると違う世界が見えてもっと視野が広がるのかなと思うとすごく楽しみです。また、そうやって生きていくことを仕事に反映させられる女優という職業の無限の可能性を感じています。若いときは「おばさんになったら辞めたい」と思っていたんです。やはり人に評価される仕事ですから、「あの人おばさんになったね」とか「太ったね」って言われるのが嫌だなと思っていて…(笑)。でも犬童一心さんとご一緒したときに、「あなたは年相応の役がずっとできる女優さんだから、またご一緒しましょうね」と言ってくださって、素晴らしい褒め言葉をいただいたと感じました。そのとき、女優だからといってずっときれいでいなくちゃいけないとか、若くいなくちゃいけない訳じゃないと悟ったんです。おばさんになったらおばさんの役をやればいいし、おばあさんになっても、おばあさんにしか表現できないものがある。これは一生モノの仕事だなと。ですから健康だけには気をつけて…何の話かわからなくなっちゃった(笑)。これからも、そのときの年齢と目の前にある役に向かっていつも全身全霊、精一杯生きていきながら年を重ねていきたいと思います。
◎Cover Photo/安田慎一
◎Interview & Text/稲葉敦子
◎Stylist/道端亜未
3/23FRYDAY・24SATURDAY
こまつ座&世田谷パブリックシアター
「シャンハイムーン」
チケット発売中
■会場/穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
■開演/3月23日(金)18:30 月24日(土)12:00、17:00
■料金(税込)/S¥8,500 A¥6,500 B¥4,000 ほか
■お問合せ/プラットチケットセンター TEL.0532-39-3090(休館日を除く10:00~19:00)
メ~テレ イベント事業部 TEL.052-331-9966(平日10:00~18:00)
※未就学児入場不可
