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「五嶋 龍」スペシャルインタビュー取材日:2019.11.29
北欧の名門フィンランド放送交響楽団と、
同楽団で2013年より首席指揮者を務めるハンヌ・リントゥによる
オール・シベリウス・プログラム。
魅惑のヴァイオリン協奏曲のソリストを世界的な人気奏者の五嶋龍が務める。
2020年はデビュー25周年という節目の年で、11月から全国リサイタル・ツアーなどを予定されているそうですが、昨年は五嶋さんにとってどんな年でしたか?
昨年は11~12月にワレリー・ゲルギエフ指揮のマリインスキー歌劇場管弦楽団との共演で、充実の締めを迎えることができました。振り返ってみると、ただ人から言われるがままにスケジュールをこなすのではなく、自分のペースで仕事を選んでじっくりと演奏に向き合うことができた年だったかなと思います。自分で「これがやりたい」と思って決めたからには全力投球するしかないですよね(笑)。また、昔からの親友に声をかけられて実現したハワイの「ANA ホノルル・ミュージック・ウィーク」でのコンサートや横浜赤レンガ倉庫での「StandUp!ClassicFestival(スタクラフェス)」のような、人との繋がりが感じられる公演は、やはり新鮮で気持ちの良いものでした。
コロンビアの建国200周年記念関連のコンサートなども、そのひとつですか?
そうですね、外務省のスタッフにもう10年以上前からお世話になっていて…それに元々南米のコロンビアとかペルーが大好きで、よく訪れていたことも引き受けた理由です。決して選り好みしているわけではないのですが、音楽業界に限らず、メンタルの部分で快く仕事に取り組めるって幸せなことですよね…。
ずばり、今回のシベリウス・プログラムにおけるヴァイオリン協奏曲は五嶋さん好みですか?
シベリウスのヴァイオリン協奏曲は、日本ではジョナサン・ノットの指揮でバンベルク交響楽団と共演(2004年)して以来かもしれません。その後(2005年)にはウラディーミル・アシュケナージの指揮でワシントンにて演奏したことも記憶に残っています。それにもう15年くらい昔ですがシベリウスの故郷を訪ねて、記念館や一族が眠る墓地などを見学した時のことは無意識のうちに生きていると思います。
ヴァイオリニストにとっては難しい作品ですか?
幾多の名手たちが数多の名演を録音でも残しているので、難解すぎて敬遠されるような作品ではないですね。先日もマスタークラスでこの曲について教える機会がありましたし、若い演奏家がとりあげてもおかしくない。ただ、シベリウス自身が元はヴァイオリニストを目指しながら、その道を断念したという経緯が技術的に、またどうしてもこう弾いてみたいと伝わってきたりします。初演を巡るごたごたなどがあって初版は超絶技巧の多い“いわく”付きの楽譜になっているようですが、改訂版にはそんな問題はないと思います。…アルペジオの部分はちょっと厄介ですが(笑)。
シベリウス自身はスウェーデン人の血を引いているそうですが、フィンランドの国民的作曲家ですね。
フィンランドといえば個人的には、マグヌス・リンドベルイやカイヤ・サーリアホ、エサ=ペッカ・サロネンといった現代音楽のイメージが強いです。そういう意味ではシベリウスのヴァイオリン協奏曲にもモダンなところがありますよね、特に第2楽章の中間部とか。でも作品の全体的な雰囲気を言葉で伝えるとしたら、やはり冷たくて凍てついているイメージ、でもただ芯まで冷え切っているのとはちょっとちがって、内面にはふつふつと燃え上がるような熱い感情を秘めているような…。
冷たいとか、熱いとか、ヴァイオリンの演奏ではそれらをどうやって表現するのですか?
例えばですが、ビブラートの仕方や弓の押さえ方で表現できると思うのです。圧力をどんどんかけていくと、いくら響きが涼しくても熱い感じが出てきますから。まさに今回は「冷たい肌触りと、熱き心」がシベリウスのヴァイオリン協奏曲の聴き所だと思います。そして演奏家の醍醐味のひとつは、お互いに対局にあると思われている2つの相反する要素を、どうやって妥協せずに、ひとつの「空間」の中で表現することができるか、ですね。
五嶋さんはいつも、作曲家や作品ごとにそれぞれ「空間」を作って演奏していると?
これは独自の理論ですが、音楽にはいろんな要素が軸として無数にあって、僕は作品に取り組む時に先ずそれぞれの軸について位置をひとつひとつ細かく決定してから、それらを結んでプロフィールのようなものを頭のなかで形成します。その空間がいわゆる作品の世界観と呼ばれるもので、それさえきちんと作り上げることができればブレないで演奏することができる。しかもそれは、曲の最初の1ページ目にあたる展開部で決めることが多いですね。特にシベリウスのヴァイオリン協奏曲は冒頭の長めの1音から始まるので、全神経をそこに集中しています。マスタークラスなどでよく「最初の1音が大事だから、そこに集中しなさい」って、うちの姉などもよく口にする言葉ですが、その通りかもしれません。
とても理論的ではありますが、概念的というか抽象的で演奏家にしかわからない不思議な世界ですね(笑)。例えばシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏している時の五嶋さんの心境を、具体的な映像で表すとしたら、どんなシーンが浮かびますか?
そうですね…そう言われても難しいな(笑)、今ぱっと思いつくままに答えるとしたら、昔、フィンランドとソヴィエト連邦が戦争していた時代に活躍したシモ・ヘイヘというスナイパーについての本を読んだことがあって、彼のイメージが思い浮かびました。一面真っ白な平原で、口の中に雪を含んで白い息に気づかれないようにしてじっと身を潜め、ただひたすらターゲットを待っているスナイパー、獲物を待つハンターのように孤独で、でも心の中は燃えている。あと想い出すのは映画《レヴェナント:蘇えりし者》(2015年)の中でレオナルド・ディカプリオ演じる主人公が体験した、過酷で壮絶なサバイバルの旅のこととかでしょうか(笑)。まあ、聴いて下さる皆さんがそれぞれ自分の中でイメージを膨らませていただければ嬉しいです。では、会場でお待ちしております!
◎Interview&Text/東端哲也
◎Photo/中野建太
5/29 FRIDAY
「フィンランド放送交響楽団」
チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場コンサートホール
■開演/18:45
■料金(税込)/S¥17,000 A¥14,000 B¥12,000 C¥10,000 D¥8,000 U25¥3,000
■お問合せ/CBCテレビ事業部 TEL.052-241-8118(10:00〜18:00 土・日・祝日休み)