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「片岡愛之助」スペシャルインタビュー
取材日:2014.06.24

今、最も忙しい歌舞伎俳優のひとり、片岡愛之助。
歌舞伎以外の舞台や映像作品にも精力的に取り組み、ファン層を広げ続けています。
その活躍の先には、歌舞伎役者として見据えているものがきっとあるはず。
主演の新作舞台「炎立つ」、歌舞伎の座頭公演を控え、
ますますエネルギッシュな日々を送る人気花形のロングインタビューが実現しました。

今、本当にお忙しいと思いますが…。

歌舞伎に足を運んでいただくきっかけづくりをしようと思って、歌舞伎以外の舞台やテレビに出始めたんですけど、やらせていただいて凄く面白さを感じて、そこにも役者として挑んでいったというのが今のカタチなんですよ。ですから年に1本は歌舞伎以外の舞台や映像に取り組んでいきたいと思っています。

この夏にも新しい舞台「炎立つ」に出演されます。演じられる藤原清衡は以前にも舞踊でつとめていらっしゃいますが、どのような人物ですか?

やはり大変な環境の中で育った人ですから、本当に芯の強い人だと思います。裏切られたり裏切ったりという戦乱の世だから、強くないと生きていけない。それでいて繊細で優しさもあって、文武どちらにも優れている器量の大きな人ですよね。父を殺され、残された母が敵方に嫁ぎ子どもを産み…という辛い状況の中で、苦しんで苦しんで生き抜き、新しい国を築き上げていく訳ですから。一度、つとめさせていただいて、清衡という人物には勝手にご縁を感じております。前回は舞踊劇でしたが、今回はお芝居として、そしてまた演出の栗山民也先生の独自の世界観の中で、今の世の中の風潮などを重ねて観ていただける作品になると思います。

栗山さんとは以前にもシェイクスピア原作の舞台でご一緒されています。その演出の特徴、魅力について教えてください。

やっぱり皆さんが尊敬されるだけあって、凄く素敵な演出家です。前作が終わった後「ぜひ、もう一度お仕事をしたいですね」という話をさせていただいていましたが、先生もとても忙しい方ですからつかまらなくて。もう、お芝居は一緒に出来ないかなと思っていたら「再来年ぐらいどう?」と、お声をかけていただきました。再来年なら僕もいけると思って(笑)お約束させていただいて、今回につながった訳です。栗山先生は、一本筋の通った自分の思いをぐっと持っていらっしゃって、それに向かって行きながら、あまり形にとらわれずにどんどん稽古場で変えていくんですよ。そして発想がとてもユニーク。役者として大変勉強になりますね。非常に新鮮です。

三谷幸喜さんともご一緒なさいましたし、歌舞伎以外の作品でさまざまな演出家から吸収なさるものは多そうですね。

吸収することばかりですね。それを歌舞伎に役立てることも出来ますし。例えば新作の歌舞伎を作るときなどは、演出家ももちろんおりますけど、みんなで案を出し合うんですよ。だから、どれだけ自分が引き出しを持っているかが大事になります。そういう意味では、非常に歌舞伎に役立てられることをいっぱい学ばせていただいているし、逆に歌舞伎のことをほかのお芝居に使わせてもらっているところもあります。



歌舞伎では、この秋の巡業で座頭をつとめられます。

常設の歌舞伎小屋がある大きな都市以外では、やはり歌舞伎はあまりご縁がないんですよね。だからこういう機会に多くの方々に楽しんでもらいたい訳ですよ。そうすると、どういう演目を持って行ったらいいのかと考えます。今回の「毛谷村」は歌舞伎の中でも人気の演目ではあるんですけれども、これだけをやるとわからないんですよ。僕がつとめる剣の達人・六助が、いきなり木刀を構えたところから始まるんです。剣術の試合ですね。それで、相手が「負けてくれ」と頼むので仕方なく負けてやる。その場面、「あ、痛っ!」というところから始まります。でも、なんでそんなことを頼むのか、また受け入れるのかをわかっていないと全然面白くないんですね。だから、その前の「杉坂墓所」という段を含めて上演することにしました。そこでは「毛谷村」の場面までの経緯が描かれているので。それも全部ではなく、わかりやすいように抜粋して前の段を加えるという形ですね。せっかく来てくださるんですから、わかっていただきたいんですよ。そして「追い出し」と言うんですけど、一番最後にパーッと晴れ晴れと、いい感じだったなという思いで帰っていただきたい。ですから、もうひとつ舞踊の演目は「団子売」を選びました。夫婦ふたりの面白い掛け合いもありますから。歌舞伎のいろんな演目とそれぞれの面白さを知っていただきたいんですよね。


「毛谷村」の六助、「団子売」の杵造は、以前にもつとめていらっしゃいます。再び取り組む上で、ご自身の中で課題になさることなどはありますか?

そういうのはないですね。お客様に伝わればいいですし、数を重ねればまたわかっていくこともあるので。歌舞伎って凄く嬉しいしありがたいなと思うのは、いくつになっても同じ演目の役を出来ることなんです。例えば前髪のついた15~16歳の役をその年齢でも演じられますし、30になっても40になっても、ヘタしたら70歳でも演じられる訳です。映像ではあり得ないでしょ?それで、例えば二十歳のお姫様を実年齢の若い人がやるのと、大先輩の70歳の方がなさるのと、どっちのお姫様が可愛いかと言ったら、先輩の方が可愛いんです。これが不思議なことで、やっぱり芸の力なんですよね。見た目の若さや美しさではなく、中からにじみ出てくるお姫様の可愛らしさ。そういうものを追求していけるというのは、僕は歌舞伎役者でよかったなと思いますね。「役者は普段が大事」とよく言いまして、やはり普段のあり方が芸質に出る訳です。たとえ下品な役をつとめるにしても、本当に汚かったらダメなんです。「下品」って下に品と書く訳ですからね。下品の中にも品が必要です。だからそこには気をつけています。汚さの中に美しさがあるのが、やっぱり歌舞伎でありお芝居ですから。いかに「らしさ」をわかっていただくかということですよね。そもそも女方もそうですよね。ご覧になった女性が「私たちより女性っぽいわ」と言ってくださいますが、それは当たり前なんですよ。そうしないと、女装したおっさんですからね(笑)。いかに女性らしく見せるかという体の使い方や仕草が非常に大事なんです。それは立役でも同じです。殿様なら、いかにも殿様らしく出てくる。雰囲気だけで殿様とわかってもらうというのが大事だし、それがお芝居だと思います。

今回、どちらの演目も中村壱太郎さんが相手役です。ご一緒されることが多いですよね。

壱太郎さんは最高ですよね。僕はあの年であんなにしっかりしていなかったので凄いなと思います。やっぱり血筋というものを持っていらっしゃるので、言わなくてもわかっていただける。ずっと相手役でやっているから合うというのもありますし。基本的に僕は人に教えるのが下手なんですよ。細かく理詰めでいくのではなく、感覚でやる方なので。うちの父(片岡秀太郎)は教えるのが凄く上手なんですけどね。壱太郎さんは、細かく言わずともこっちが芝居でやっていくとわかってくれるのが心強い。上方歌舞伎は成駒屋さんがあって、うちの松嶋屋があるというのが理想的な形ですから、その中に壱太郎さんがいらっしゃるというのは安心ですね。


愛之助さんご自身も上方歌舞伎のこれからを担っていかれる筆頭ですが、上方ならではの演目、役柄で思い入れのあるものなどはありますか?

上方のお芝居は全般的につとめていきたいですし、後々の世に残していくのが僕らの役目ですから、先輩から教わったことを後者に渡していくということは絶対に必要な作業です。それ以外に復活物とか新作歌舞伎を作っていく、これも大事なことですね。ただ、やはり歌舞伎は上方歌舞伎と江戸歌舞伎と両輪回っていなきゃいけないもので、そういう意味では幅広くやりたいなと思っています。「僕が上方歌舞伎を担っていかなきゃ」とか、そんな大層なことは思っていません。本当に素敵な先輩がたくさんいらっしゃるし、自分もその中の力の一部になれればいいな、という思いぐらいで。全般的に上方のお芝居の匂いを大事にして、少しでも先輩から吸収していければなと思いますね。


上方の「匂い」というのは?

やっぱり雰囲気ですよ。それを感じてくださるのはお客様ですからね。それは十人十色で、あるお客様は「このお芝居は最高だ」とおっしゃるけど、別のお客様は「こんなの芝居じゃないよ」って全く反対のことをおっしゃることもあります。それでいいんです。観てくださったお客さまの思う通りでいい。だから本当に芝居って難しいなと思いますけど、「またもう一回見たいな」と思えるような作品をみんなで作っていきたいですよね。昔は、やりたい役、憧れの役、好きな役がいっぱいありましたけど、最近はないんです。というのは、芝居はひとりじゃ出来ないって、実際やらせていただいて本当に実感しているから。まず相手役が必要だし、周りの方も必要でしょ?誰とやるかが重要なんですよね。自分がこの役をやりたいからという思いだけで周りが揃っていないのに無理な演目をやろうとすると、ガタガタになりますから。だから、この出演者でピタッとくる演目は何だろう、という考え方になりましたね。昔みたいに「あの役がカッコいいから」とか「あの主役がやりたい」とかそういう気持ちは、今は全くありません。そんな風に変わってきたのは、自分が芯の役をやらせてもらうようになってからですね。全体を見られるようになりましたから。もちろん好きな役、憧れの役はありますけど、実際やるときに限られた条件の中で何がベストかを考えられるようになってきたのかな。



「松竹大歌舞伎」
◎演目/[一]彦山権現誓助剱 一幕 杉坂墓所 毛谷村:片岡愛之助(毛谷村六助)
中村壱太郎(一味斎娘 お園)、上村吉弥(一味斎 後家 お幸)
市川男女蔵(微塵弾正実は京極内匠/杣斧右衛門)
[二]団子売:片岡愛之助(杵造)、中村壱太郎(お臼)

11/18 TUESDAY
チケット発売中
■会場/四日市市文化会館 第1ホール
■開演/14:00、18:30
■料金(税込)/S¥6,000 A¥5,000 B¥4,000
■お問合せ/四日市市文化会館 TEL.059-354-4501
※未就学児入場不可

11/19 WEDNESDAY
チケット発売中
■会場/愛知県芸術劇場大ホール 
■開演/14:00、18:30
■料金(税込)/SS¥8,000 S¥7,000 A¥6,000 B¥5,000 C¥4,000 D¥3,000
■お問合せ/CBCテレビ音楽祭・イベント事業部
TEL.052-241-8118(平日10:00~18:00)
※未就学児入場不可

11/20 THURSDAY
チケット発売中
■会場/羽島市文化センター スカイホール 
■開演/14:00、18:00
■料金(税込)/S¥7,000 A¥5,000
■お問合せ/羽島市文化センター TEL.058-393-2231
※未就学児入場不可