HOME > 清水ミチコのシミズム > 清水ミチコの「シミズム」#76
ひと昔前と違って、
「テレビの生放送を観ててドキドキする」、
なんてことはすっかりなくなりました。
今は言葉遣いや言動には気をつけていないと、
あとから自分が叩かれたり、
炎上などして痛い目にあうからです。
逆にいえば昔はなぜドキドキしたかというと、
当人が目立ちたいがために、
「悪ノリ」というものが人々を楽しませる
アイテムでもあったからではないでしょうか。
きわどい事をわざと叫ぶ、残酷な冗談を言ってみせる、
果てはテレビカメラを破壊するなど、
観る側も出る側もそういった悪習が、
若干当たり前にあったのです。
しかしそれにも限度があり、
だんだん観る側からも飽きられましたけど。
ところが先月のこと。
たまたま深夜の「朝まで生テレビ」を観ていたら、
戦争の話になり、司会の田原総一郎さんが、
本気なのか冗談なのか
「大丈夫。話をつけてくるから」
というようなことをおっしゃってました。
話をつける?どうするどうなる生テレビ、
とスタジオはてんやわんやに、と思ったらそうはならず、
出演者全員がシーーーンと、水を打ったように黙り込み、
この発言の意味を一瞬、ポカンと考えてたようでした。
田原さんはもうすでに89歳でいらっしゃり、
車の運転ならすでに免許もあきらめねば、というようなお年ごろ。
誰も何も反対できない、止められないところに、
人間模様を見た気がしました。
突き詰めたら失礼だし、よろしくはないけれど、
冗談として今のはそっと水に流そう。
水に流すは、見ずに流す、でもあるのでした。
そしてそのあとも、全員が発言を
スルーすることにして進めていたようです。
私がその場にいても、そうしていたかもわかりません。
そっとただ身を引く。
正義より大事なことはたくさんあるものなのでした。
政治もテレビの世界も、常に岐路にいることに間違いはありません。
もう少し柔らかい方向の番組ならどうだったかな、など、
関係ない私も老婆心を発動させながら、朝まで考えました。