HOME > 清水ミチコのシミズム > 清水ミチコの「シミズム」#30
今年の夏ごろのことですが、心に残ったちょっといい話。
映画「男はつらいよ」で寅さんを演じた、
渥美清さんについての二時間の特番がありました。
倍賞千恵子さん、前田吟さん、佐藤蛾次郎さんらと御一緒したのですが、
私はほかのゲストの皆さんとともに並びました。
後半、『あなたにとって「男はつらいよ」の中で、
一番好きなセリフは?』という質問になり、
皆さん味わいのある寅さんの暖かいセリフを選んでおられたので、
私はこう言うことにしました。
「『枕、さくら取ってくれ、あ、じゃなかった、さくら、枕取ってくれ。』
というセリフです。」
これが本当に好きでしたし。
何度か出てくる、ギャグっぽいセリフなのですが、
大事な妹のさくらの名前と、枕とを言い間違えるのが、おかしかった。
そしたら、佐藤蛾次郎さんが、
「うん。あれはねえ。そうなんだよ。いいよね。」
と、まじめな顔つきで、しみじみおっしゃいました。そして、
「あのセリフはね、練習すれば誰にでも言えそうなんだよね。
なのにさ、なかなか自然に出ないもんなんだよねえ。
だって、不自然な言葉だろ?
一回でもこれを口にしてみるとよーくわかるんだ。
ああいうことはサラッと言えるもんじゃないって事が。
渥美さんの凄さが。」
その優しくも憧憬の入った言い方の佐藤さんに、
私はすっかり感動してしまいました。
セリフが人を選ぶ、という事がやっぱりあるんでしょうねえ。
「男はつらいよ」、機会があったら若い皆さんもぜひ見てみてください。
さて、そんな折、私にドラマ出演の依頼がありました。
仲のいい脚本家からの話だったので、
「短いセリフなら出てもいいよ。」
と言ったら、
「おまえは逆に大女優か?」
と、言われてしまいました。
長いセリフでも自分のものにして、
スラスラ言える役者さんって職業、ホントすごいと思ってます。
ネタならできるんだけどな~。
人はセリフを選べないんですねえ。