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清水ミチコのシミズム

今年の夏ごろのことですが、心に残ったちょっといい話。
映画「男はつらいよ」で寅さんを演じた、
渥美清さんについての二時間の特番がありました。
倍賞千恵子さん、前田吟さん、佐藤蛾次郎さんらと御一緒したのですが、
私はほかのゲストの皆さんとともに並びました。
後半、『あなたにとって「男はつらいよ」の中で、
一番好きなセリフは?』という質問になり、
皆さん味わいのある寅さんの暖かいセリフを選んでおられたので、
私はこう言うことにしました。
「『枕、さくら取ってくれ、あ、じゃなかった、さくら、枕取ってくれ。』
というセリフです。」
これが本当に好きでしたし。
何度か出てくる、ギャグっぽいセリフなのですが、
大事な妹のさくらの名前と、枕とを言い間違えるのが、おかしかった。
そしたら、佐藤蛾次郎さんが、
「うん。あれはねえ。そうなんだよ。いいよね。」
と、まじめな顔つきで、しみじみおっしゃいました。そして、
「あのセリフはね、練習すれば誰にでも言えそうなんだよね。
なのにさ、なかなか自然に出ないもんなんだよねえ。
だって、不自然な言葉だろ?
一回でもこれを口にしてみるとよーくわかるんだ。
ああいうことはサラッと言えるもんじゃないって事が。
渥美さんの凄さが。」
その優しくも憧憬の入った言い方の佐藤さんに、
私はすっかり感動してしまいました。
セリフが人を選ぶ、という事がやっぱりあるんでしょうねえ。
「男はつらいよ」、機会があったら若い皆さんもぜひ見てみてください。
さて、そんな折、私にドラマ出演の依頼がありました。
仲のいい脚本家からの話だったので、
「短いセリフなら出てもいいよ。」
と言ったら、

「おまえは逆に大女優か?」

と、言われてしまいました。
長いセリフでも自分のものにして、
スラスラ言える役者さんって職業、ホントすごいと思ってます。
ネタならできるんだけどな~。
人はセリフを選べないんですねえ。