HOME > 清水ミチコのシミズム > 清水ミチコの「シミズム」#20
和歌山で仕事がありました。
まず、大阪まで飛行機で向かい、
そのあとタクシーで向かったのですが。
その時のドライバーさんが超かわいかった。
60代後半と見られる男性。
「和歌山のよさ」を、詳しく語ってくれたのですが、
これはヨソから来た者にとっては、とても嬉しいものです。
若い人ほど、謙遜みたいなのが先走ってしまうのか、
「イナカですからね~」、といったような話ばかりで、
言葉の個性や面白味に欠け、やたらに否定的だったりするのです。
しかし、自分の土地がいかにいいかを語ってくださると、
まだ知らない土地への期待も高まり、
さらに同じ国民としての日本の誇りも、またひとつ高められる。
このドライバーさんは饒舌な方で、
まったく我々を飽きさせませんでした。
そして、「和歌山の著名人」の話題になったときのこと。
さんざ盛り上がったあとで、
「和歌山ブルースって歌、あるじゃないですか。」
と当たり前に言うので、
「あ、そうでしたか、その歌、知りませんでした。」と言うと、
とても驚かれました。そして一節、出だしを歌ってくださいました。
「逢いたい~見たい~すがりたい~。ね?知ってるでしょ?」
「う~ん」
「Bメロほら、真田掘なら~って。」
「う~ん…」
「じゃあ歌いますね」
と言って、一曲まるごと歌ってくださったのです。
なんて温かい方でしょう。そしたらです。
「あ、すみません!」とすごく大きな声。
「歌ってたもんで、
高速の降り口過ぎ ちゃった。最低だ。
歌の調子に乗っちゃった!バカだった。すみません。」
と言いながら、次の降り口まで行って引き返しました。
「全然大丈夫です。むしろ楽しかったし。」
と何度か言ったのですが、それからというもの、
ドライバーさんがとつぜん無口になってしまいました。
し~ん。
これ以上なぐさめる言葉をかけるのもなんだし、
私たちもどうしたらいいのかわかりませんでした。
ただ、ごまかしたり、なんちゃって、ってな感じにならず、
こんなに急に落ち込むなんて、なんて清らかなお人柄であろうか、
と感動的に確信したのでした。