HOME > 清水ミチコのシミズム > 清水ミチコの「シミズム」#15
長くつきあっている友人の一人に、松村邦洋さんがいます。
通称松ちゃん。
彼は時々、天使のように見えます。
ライブにさりげなく観に来てくれ、誉めてくれたり、
また、ふと暖かい助言をくれたりする。
そういうとき、私は思うのです。
そういえば目がきれいだな。
松ちゃんは、欲望や執着が極端に薄く、清らかな一面があります。
お金にも結婚にも、芸人としてのステイタスにもさほど興味がなく、
今日がよければいいじゃないですか、というような、
生まれ持った人の良さ、品があるのです。
しかし、ごくたまに悪魔のように見える時もあります。
ふとした時のモノマネの長さ。
そして短くとも鋭い、
でも確かに的を得ているがゆえにグサッと胸にささる言葉。
そんな彼が、こないだ私にこんな事を教えてくれました。
「ミチコさん、人間は結局ハムですよ。」
私も松ちゃんもモノマネを得意としており、
二人ともしばしば著名人に、ある種迷惑をかけています。
しかし、ある時彼がそのモノマネしている本人にハムを送ってみたところ、
「おい、オレはあんな風じゃないだろ!」ギロ。
と、いう態度だった方が、ハムによって
「おい、オレはこんな風でいいか?」ニコ。
と、翌日から変わっていた!と言うのです。
「ハムなんです。ハムを送ってみてください。」
「そうなのか!」さっそく私はためしてみました。
その翌週。なんと、贈ったハムの価格の5倍はするであろうごちそう便が、
その方から私に届いていました。
かえって散財させ、気を使わせてしまったわけです。
ここには男女の違いもあるかもしれませんけど。
ダメだったよお、とツッコもうと思ったころ、
私に松ちゃんからハムが届きました。
なぜ送ってくれたのか、その理由はいまだにわかりません。
ただ、文句だけは言いにくくなってしまいました。
ハムの威力を、ここで知ったのです。
そしてまた、彼が天使か悪魔かの境界線は、いっそう深い謎となりました。