HOME > 清水ミチコのシミズム > 清水ミチコの「シミズム」#04

清水ミチコのシミズム

「清水さんの身内でTVに出てくれる人、いませんかあ?」
たまに、こんな依頼があります。
私の身内はジミ系統の人間だらけですが、弟だけは割に器用。
ギター、ピアノ、サックスと、3つの楽器を演奏します。
知り合いのバンドから、足らない楽器のパートが出れば時々呼び出され、
夜はホテルのラウンジでピアノ演奏をしたり。
しかして先日、その弟から電話があり、その驚きの結末に笑ってしまいました。
なんでも、スタッフさんが「出演を」と言うので快諾したのだそうですが、
「ところで、何かネタはできます?」と聞かれたそうです。
「え。ネタはとても無理です」と言うと、
「じゃ、ピアノの速弾きは?」
「それもできません」。
すると「じゃ、何かコンクールとかの賞状はありますか?」
「あの、僕はジャズしかできないんですけど」
「ジャズって何ですか?たとえばどんな曲ですか?」
「う〜ん、MISTYとか」
「知らないなあ…じゃあ、ピアノだけじゃなくて、
他の楽器も色々演奏してもらえる?」
「いいですよ。でも、たとえばサックスだと
メンバーも必要なので、一緒でもいいですか?」
「…もちろん」。
なんとなく声のトーンが弱々しく、
(あんまり乗り気じゃないんじゃないか)
といぶかりながらも今度はメンバーに連絡。
みんなからOKの返事をもらったので、
弟からそのスタッフさんに電話したのですが、
お忙しいのか、何度かけても全然つかまりません。
留守電に「OKでした、皆で待ってます」と入れたものの、
翌週もなぜかつかまらず。
(もしかして、なくなったんではなかろうか)。
一抹の不安とともに、日がたつにつれ、メンバーに
「なんか緊張してきちゃったあ〜!」とか
「いつ放送なの?」と聞かれるたび、
何も答えられないでいる弟は、すっかり疲れた、と言います。
いきなりのゴールデンタイムの全国放送。
「親に言おうかな。おいおい、ホントなんだろうな。」などという、
まわりの明るいワクワク感とは真逆の、連絡のない、向こう側の静けさ。
この対照的な明暗に挟まれたストレスがピークになるころ、
ついに弟は腹を決め、留守電にこう入れたそうです。

「すみません。指を骨折しました。
今回出られません。」

そうです。弟は、ウソをついて逃げたのでした。