HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.74「砧」

ドラマチック!OH!能

長く帰らない夫を待ちわび、思いを乗せて砧を打つ妻。やがて悲嘆に暮れ命を落とすと、亡霊となって恨み言を述べます。女心と執心が交錯する人間的な苦悩を詩情豊かに描く「砧」は、世阿弥晩年の自信作といわれる屈指の演目です。


【物語】九州芦屋の領主が訴訟のために上京して3年。国元で留守を預かる妻は孤独な日々を過ごしていました。侍女の夕霧が先に帰郷し「今年の暮れには帰る」との便りをもたらすと、恨み言を述べる妻。ふと、里人が打つ砧の音を耳にして「故郷の妻子が異国に囚われの身となった蘇武(そぶ)を慕って砧を打った」という故事を思い出します。夫の心に思いが通じるように自らも砧を打ち、その音に慰められたかに見えましたが、夫への思いを抑えられず涙を流すのでした。そこに、夫は今年も帰国できないという知らせが入ります。それを聞いた妻は絶望のあまり病床に伏し、ついには亡くなってしまいました。やがて帰国しそのことを知った夫が弔うと、妻が亡霊となって現れます。地獄で苦しむ自らの現状を訴え、夫への恋心と恨みを切々と語る妻でしたが、夫の法華経の功徳により成仏するのでした。