HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.70「歌占」

ドラマチック!OH!能

「歌占(うたうら)」とは、神の託宣(お告げ)を神子などが和歌を用いて告げることで、現在のおみくじに、和歌などが記されているのはその名残です。見どころは何といっても後半の曲舞(くせまい:室町時代に流行した舞の一種)です。主人公が見たという地獄の有様の舞は、度々の戦乱や天災で常に死と隣り合わせに生きていた室町時代の人々にとって、この世のもののように響いたかもしれません。この舞は当時流行していた「地獄の曲舞」を取り入れたものと考えられています。


Ⓒ上杉遥

【物語】伊勢の神職、渡会家次は諸国を巡る旅に出かけたまま行方不明となっていました。その子である幸菊丸は父の行方を探すうちに、加賀国(石川県)の白山に辿り着きます。ちょうどその頃、「歌占」を行いながら諸国を回っていた白髪の男巫(おとこみこ)が白山の麓に住み着いていました。幸菊丸は里人と共にその男巫のもとを訪ね、父の行方を占ってもらうことにしました。男巫は白髪の理由を語ります。男巫は旅の途中で急死し、その三日後に生き返りますが、その時に見た地獄の光景が原因で若くして白髪となってしまったのです。まず里人が歌占を引くと、里人の悩み事である親の病のことが書かれており、男巫はその病が治ることを伝えました。続いて幸菊丸が歌占を引くと、探している父とは既に再会していると判ぜられます。不思議に思った男巫は、幸菊丸と詳しく話してみます。すると二人は実の親子であることが明らかとなり、再会を喜びます。帰郷することになった二人。その記念に父・家次は自分が見た地獄の様子を謡う「地獄の曲舞」を舞います。そのうち神に憑依され、家次は狂乱します。やがて正気に戻った家次は幸菊丸とともに伊勢国へと帰っていきました。