HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.69「卒都婆小町」

ドラマチック!OH!能

「卒都婆小町」は、演じるのが特段に難しいとされる「老女物」の一つです。六歌仙の一人で才色兼備と謳われた小町ですが、ここでは百歳の老女の乞食として登場します。かつての美しさと現在の老い、人生の盛衰と愛憎が凝縮された見どころの多い曲です。前半では叡智を宿した老女小町が僧を理屈で説きふせる「卒都婆問答」、後半では深草少将の霊が小町に憑いて見せる「百夜通い」。変化に富んだ展開で、初心者でも見やすい内容となっています。


【物語】高野山の僧が都に向かう途中、乞食姿の老女が卒都婆に腰掛けているのに気づきます。僧は神聖な卒都婆に腰掛けてはならぬと断じ、老女を立ち退かせようとします。すると老女は、仏の慈悲はそんな浅いものではないと僧を説き伏せてしまいます。そして得意げに歌を詠み、さらに僧を感心させました。僧が老女に名を尋ねると「小野小町の成れの果てだ」と明かします。小町は美貌を誇った若き日の栄華、そして現在の乞食としての今の境遇を嘆きます。すると小町の様子が段々変わり、狂乱状態となってゆきます。その昔小町に恋をした深草少将の怨霊が、小町に取り憑いたのです。かつて深草少将は小町に恋心を打ち明けたところ「百夜私のもとに通ったらあなたの気持ちを受け入れよう」と言われ、毎日通いましたが、九十九夜まで通った、最後の一夜のところで深草少将は死んでしまいました。その少将の怨念が老いた小町を苦しめ、狂乱の中で百夜通いの様子を再現します。狂乱から醒めた小町は、死後の成仏を願うことこそ人の道であると語り、悟りの道を志すのでした。