HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.63「融」

ドラマチック!OH!能

源融(みなもとのとおる)は嵯峨天皇の皇子として生まれ、後に源氏姓を賜って皇族の身分を離れます。当時台頭してきた藤原基経との政権争いに負け、不遇な現実から逃れるように六条河原へ移り、陸奥国塩竈の風景を模した大邸宅で風流な生活に耽溺しました。融の愛した河原院がこの曲の舞台。舞囃子と謡で紡ぐ美しい叙景描写で非常に評価が高い曲です。


Ⓒ辻井清一郎

【物語】東国の僧が京の都に上がり六条河原院を訪れると、担桶(たご天秤棒で前後に吊り下げて運ぶ桶)をかついだ汐汲みの老人が現れます。京の六条河原で汐汲みとは?とあやしむ僧に老人は、ここは源融(みなもとのとおる)の邸宅跡であり、難波の海から邸内の池へ海水を運ばせて、塩を焼く風情を楽しんだことを語ります。融の死後は後を継ぐ人もなく荒れ果ててしまったと嘆く老人は、僧に請われて周囲の名所について教えた後、汐を汲もうと言うと、そのまま汐曇りの中に姿を消します。近くに住む者の話から、先ほどの老人が融の亡霊であったと気付いた僧が眠りにつくと、融の亡霊が在りし日の貴公子の姿で夢に現れます。融の亡霊は名月に照らされながら、昔を懐かしんで優雅に舞い、夜明けとともに名残惜しそうに消え去るのでした。