HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.61「実盛」
「実盛」は『平家物語』に基づき世阿弥が作ったとされ、実際の出来事がもとになっています。世阿弥が活躍していた時期にあたる1414年に、斎藤別当実盛の幽霊が加賀国篠原に出現して遊行上人に出会い、念仏を授かったという噂が都に広まったのです。「朝長」「頼政」とともに“三修羅〟、「盛久」「通盛」とともに“三盛〟と呼ばれ、能役者にとっての難曲でもあります。
【物語】念仏の指導者で諸国を行脚している遊行上人が、加賀国篠原で数日間説法を行っていました。いつも説法の前後に上人が独り言をつぶやいているため、聴衆の人々は不審に思います。実は、一人の老翁が毎日欠かさず聴聞に訪れ、上人に向かって合掌し、会話していたのですが、上人以外にはその姿が見えません。上人はその信心深い老翁に名前を尋ねますが、なかなか名乗り出ません。やがて老翁は、自分がかつてこの地で戦い木曽義仲軍に討たれた、平家方の武将・斎藤別当実盛の亡霊であることを明かし、姿を消します。上人は篠原の里人に、当時の実盛の様子などを尋ね、老翁が実盛の亡霊であったことを確信し、踊念仏で弔うことを、里人を通じて篠原の人々に伝えます。その夜、上人が池で念仏を唱えていると、実盛の幽霊が武者姿で現れます。そして、木曽義仲の前に差し出された実盛の首を洗うと、黒く染めた髪が白髪に戻ったこと、錦の直垂を着て最期の戦に臨んだこと、手塚太郎光盛との死闘の末討ち取られたことなどを語ります。そして、最後は上人に弔いを懇願して消えていくのでした。