HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.60「船弁慶」
弁慶を中心に、義経や静御前が登場する分かりやすい能がこの「船弁慶」。その魅力は、前半では優美で美しい白拍子、後半では荒々しい怨霊という全く異なる主役の役柄にあります。前半での優美な舞は後半では薙刀を振るう舞へと打って変わり、それに伴い謡や囃子の様子も変化します。そして、船宿から大海原に舞台が展開する様子も見どころのひとつ。アイによる船頭の棹さばきは臨場感たっぷりです。華やかで非常に劇的です。
【物語】平家追討で功績をあげたものの逆に頼朝に疎まれ追われる身となる義経は、弁慶らとともに逃れようと摂津の国大物の浦に下ります。一行には義経の愛妾である静御前も同行していました。しかし弁慶は、女の身ではこの先は困難だと、静御前を都に帰すよう義経に進言します。義経はそれを承知し、静御前は都に帰ることとなります。別れの宴で静御前は烏帽子をつけ白拍子の姿で舞を舞い、義経の未来と再会を願いつつ涙ながらに見送ります。静御前との名残を惜しみ出発をためらう義経でしたが、弁慶は強引に船出を命じます。すると船が海上に出た途端に武庫山(今の六甲山)からの暴風に見舞われ、波の上に壇ノ浦で滅亡した平家の亡霊達が姿を現しました。総大将の平知盛(とももり)の怨霊は義経を海底に沈めようと長刀を振りかざし襲いかかり、義経も切り結びます。弁慶は、亡霊には刀では敵わぬと数珠をもみ必死に五大尊明王に祈祷します。その祈りが功を奏し、怨霊は引き潮とともに沖の彼方に消え、白波ばかりが残るのでした。