HOME > ドラマチック!OH!能 > vol.59 「定家」
歌人で「新古今和歌集」の撰者としても有名な藤原定家、そして後白河天皇の皇女で「新古今和歌集」に多くの和歌を残している式子内親王、二人の秘めた激しい恋の物語です。「定家」という演目ですが藤原定家は登場せず、内親王の語りで物語が進められ二人の和歌が作中で効果的に用いられています。見所の後半の舞は、定家の妄執の深さから来る内親王の激しい苦悩が表されながら、内親王という高貴な身分の品格が求められます。
【物語】冬のはじめ、京を訪れた旅の僧が美しい夕景色を眺めていると時雨が降ってきたため、近くの東屋に雨宿りをします。そこに里女が現れ、ここは藤原定家の建てた「時雨の亭」であると教え、定家を弔うように勧めます。やがて里女は旅僧を式子内親王の墓に案内し、その形がわからぬほどに石塔を覆っている葛が定家の執心が変じた「定家葛」だと告げます。かつて内親王と定家とは恋仲だったが、世間で噂となったため逢うことが叶わず、そのうちに亡くなった内親王を定家が恋慕ったためにこうして葛となり纏わりついているのだと。里女は僧に自分が内親王の霊だと明かし、この束縛から解放してくれるよう願うと、姿を消してゆくのでした。僧が弔いをしていると内親王の霊が墓から現れ、定家葛が解けて自由の身になったことを喜び、感謝の舞をみせます。しかし露わになった自身の醜さを恥じた霊は、再び定家葛の絡みついた墓へと戻っていくのです。